人の視線は先端に集中しやすい。
何かを見るときにはサッと眺めて先端部で視線が止まりませんか?
これ、ファッションの世界で大切なことなのです。
ファッションバイヤーのMBさんは、「洋服の印象は先端で決まる」と言っています。
オシャレをするときに、特に大切なのが「首まわり(襟元)」「手首(袖口)まわり」「足首(裾)まわり」の3つの先端部分で、これらの印象が全体を左右するとのこと。
アパレル業界ではこの3つの端である“首”“手首”“足首”の「3首(さんくび)」を着こなしのポイントとしています。
もちろん、スーツを着こなすときも大切なポイント。
この「3首」を押さえて、スマートな着こなしを身につけましょう。
本当に「3首」に視線が集中するの?
そもそも「3首」って本当にそんなに視線が集中するところなの?という疑問を持つ方もいると思います。
ちょっとイメージしてみて下さい。
スーツを着た人が部屋に入ってきました。
最初にどこを見ますか?
多くの人は、顔の周りに目が行くと思います。
次は?
首元を始点にして下に向けてサッと眺めて足元で目が止まりませんか?
おそらく最初の対面ではこんな感じだと思います。
次にお互いに向かい合って座って話をしだすと、何となく相手の手元に目が行っているのではないでしょうか。
「3首」以外のところにも視線は向きますが、改めて思い起こすと、これら3つの先端に視線が向きやすいのに気づきますね。
では、スーツについて、「3首」である「首まわり」「袖口まわり」「裾まわり」をどのように着こなすとスマートに感じられるか、見ていきましょう。
最初に目につく「首まわり」
相手に会って、まず目が行くのが首まわりでしょう。
スーツ姿で首まわりは見どころが満載ですね。
Vゾーンの形、スーツの襟の形、シャツの襟の形、シャツの色や模様、ネクタイ。
スーツ着こなしの最も大きな見せ場です。
ここでは、首まわりを構成する、スーツの襟、シャツ、ネクタイのそれぞれの着こなしポイントと、それらの組み合わせについてお話しします。
スーツの襟の形で体型をより良く、さらに小顔に見せることができる?
首まわりより少し範囲が広がりますが、襟元のVゾーンの形を考えましょう。
体型を細く見せたい人、足を長く見せたい人、小顔に見せたい人、こんな風にするといいですよ。
体型を細く見せたい人
縦に広がるVゾーンを作るようにすると、全体に縦方向にシャープな感じになり、体型を細く見せる効果が期待できます。
そのためには、シャツとネクタイの見える量が多い2つボタンのジャケットを選ぶ方がよいでしょう。
足を長く見せたい人
3つボタンでVゾーンを狭め、見た目のアクセントを上の方に持って来ましょう。
下半身と上半身の境目が上方にシフトしたように感じられ、足を長く見せる効果が期待できます。
スリーピーススーツを着るとその効果は一層大きいでしょう。
小顔に見せたい人
ラペルの幅の大きなものを選んでください。
首元にボリューム感を出すと、相対的に顔が小さく見えます。
シャツを見ればスーツへのこだわりが見えてくる
スーツやネクタイにうるさい人でもシャツはあまり気にしない人が結構います。
ところが、このシャツの選択次第でスーツが生きもし、死にもします。
では、どこに気をつければよいのでしょうか?
ぶかぶかシャツは絶対にだめ
シャツのサイズを知ることは基本です。
ジャストサイズは、首とカラーの間に指が二本辛うじて出し入れできる程度。
それ以上大きいと、せっかくのスーツが花瓶のように見えてフィット感が感じられなくなります。
襟腰の高さを間違えると七五三になる
七五三や入学式のときの子供のスーツ姿はカワイイですね。
でも、首が苦しそうに見えることがあります。
その原因でよくあるのが、首が短いのに襟腰(襟のおり返りの内側の、首に沿って立っている部分)の高いシャツを着て首が窮屈になっていること。
子供ならご愛敬ですが、大人だとみっともないだけです。
首の短い人はハイカラーのシャツは選ばず、比較的襟腰が低いレギュラーカラーかスプレッドカラーのものを選んだ方がよいでしょう。
「見えざる三角形」を制すればスーツを制する
ちょっと大げさですが、それくらい目につき、気をつける部分です。
「見えざる三角形」という言葉は、服飾評論家出石尚三氏の著作「スーツの百科事典」からお借りしました。
ふたつの襟先と、その頂点に位置する襟元が暗示する三角形のことを言います。
この三角形と相似形にネクタイの結び目を作れば、それが最もバランスのとれた配置となり、スーツの着こなしが決まるということです。
例えば、襟先での空間が鋭角三角形ならば、ネクタイの結び目も鋭角三角形にします。
ネクタイはデザインで遊ばない、幅にも注意
デザインに関して言えば、ジャケパンであればネクタイで遊ぶのもアリだと思いますが、スーツではネクタイで遊ばない方がよいでしょう。
特にビジネススーツでは、ネクタイで遊ぼうとすると品性を疑われます。
ですからデザインとしては、単色かストライプ、ドット、小紋。
色の基本は、ネイビーとグレーくらいが適当でしょう。
ここで、見落としがちなのが、ネクタイの幅。
ネクタイの幅は、大剣部(ネクタイ下端の一番太い部分)の幅が、ラペルの幅と同じくらいのものを選ぶとバランスがとれます。
最近では、8~8.5cmくらいが標準です。
少し前のネクタイですと細身のものが多いので、スーツを着るときに合わせてみた方がよいでしょう。
首まわりのデザインバランスを間違えるとガッカリ
スーツ姿の中で複数のデザインが合流するのは首まわりだけです。
それだけに慎重なバランス調整が必要です。
柄物は最大2つ
スーツとネクタイとシャツのどれもが柄物という組み合わせは避けましょう。
ごちゃごちゃしてすっきり感がなく、センスの乏しい着こなしになってしまいます。
例えば、スーツが柄物であれば、ネクタイかシャツは無地にします。
柄物が1点又は柄物無しでも全く問題はありません。
少なければ少ないほどシンプルで大人感が出てきます。
ここで、1点注意すること。
シャツとネクタイに柄物を取り入れるときは、それぞれの柄のピッチをずらすようにしましょう。
同じピッチだと柄同士が喧嘩して煩わしいVゾーンになってしまいます。
シャツの襟のカーブとVゾーンのカーブを合わせる
シャツの襟の端がVゾーンの内側に入り込んでくると首元のバランスが崩れてしまいます。
Vゾーンが縦長のスーツの場合、レギュラーカラーのシャツでこのようなことが起こりがちですので、着るときに確認した方が良いでしょう。
このようなことを起こりにくくするために、セミワイドカラーのシャツを着用することをお勧めします。
意外と気になる手首(袖口)まわり
袖口まわりを気にしている人は少ないかも知れませんが、やはり目につくところなので、基本だけは押さえておきましょう。
スーツの袖が長すぎませんか?
あなたの持っているスーツの袖の長さを知っていますか?
手首の骨のでっぱりくらいまでの長さであればピッタリですね。
オーダースーツであればそのように仕立てられていると思いますが、既製服であればもっと長いのではないでしょうか。
既製服はもともと袖が長めに作られていますので、お直しをしていないのであれば、おそらく手首より下まであると思います。
よく言われるように、スーツの袖の長さは袖口からシャツが1~1.5cm出るようにするのが標準です。
もし長すぎるようでしたらお直しに出して調整してもらった方が良いと思います。
ところで、なぜシャツを1~1.5cm袖口から出すのでしょう?
実は、昔のクリーニング事情から来ています。
昔はスーツをうまくクリーニングする技術がなかったので、スーツはクリーニングしないものでした。
なので、袖口や襟はできるだけ汚したくない。
そこで、袖口や襟を汗や皮脂で汚さないために、シャツの袖をスーツの袖より長くし、シャツの襟をスーツの襟より高くしたのです。
今では技術が進歩してスーツをクリーニングできるので、本当はシャツを長くする必要はないのですが、昔からの習慣なのでそれに従っているということですね。
袖口のボタンを気にしたことがありますか?
多くの方は袖口のボタンにまで気をまわすことは少ないと思います。
確かに、それほど気にするところではありませんが、簡単にご紹介しておきます。
袖口のボタンは、もともとは袖口を開閉するためにありました。
作業をするときに袖をまくり上げるためです。
ですが、最近ではスーツを着て作業をすることがなくなってきたので、ボタンをつけるというデザインだけが残って開閉できないものが普通になってきました。
お持ちのスーツを見てみると多くはボタンが縫い付けてあるだけだと思います。
ただ、中にはこの開閉ができる本切羽という仕様のものがあります。
本切羽は高級スーツに多いのですが、最近では数万円のスーツでもクラシックを求める方のためにそのような仕様のものが作られています。
本切羽をお持ちの方に1点注意です。
本切羽の場合、袖口の一部のボタンを外すのがオシャレだと言われることがありますが、プライベートは別として、ビジネスの場では全てのボタンを閉じておいた方が良いと思います。
開けていると、ビジネスの場に変なオシャレ感を持ち込む奴だと思われ、人物としてワンランクダウンしたスタートになってしまうからです。
ちなみに、袖口ボタンの数は2つ、3つ、4つと、どれでもいいのですが、最近のはやりは4つということです。
ただ、日本人の体形から考えると3つの方がバランスがとれているという説もあります。
相手からはよく見える足首(裾)まわり
自分にはあまり見えなくて、他人からはよく見えるのが足首のまわり、すなわちズボンの裾から靴下、靴に至る足元です。
一番端的にそのことがわかるのが、電車に座ったときの対面側シートの人の視線です。
まっすぐにこちらの顔を見ることはなく、足元に視線が落ちていることが多いと思います。
では、こんな足元で注意した方がよいことを示します。
ズボンの裾の形はTPOで変える
通常のビジネスシーンでは、ズボンの裾の形は、ダブルでもシングルでも好きな方にしてかまいません。
しかし、もしあなたがダブルの裾が好みでしたら、TPOを気にする必要があります。
いつもシングル裾の方は、この記事は読み飛ばしていただいて結構です。
そもそもダブルとシングルはなぜある?
ズボンの裾はシングルが始まりです。
それがなぜダブルの裾ができたか?
ズボンの裾を折り返すのは、19世紀末のイギリスの田舎で始まったと言われています。
裾口をぬかるみで汚さないようにするために折り返したのがその始まりのようです。
折り返した姿がオシャレに見えたので、それが広がったようです。
ダブルのズボンを履いてはいけない場所とは?
結婚式や葬儀などのフォーマルな場に出席する際は、シングルにした方が良いでしょう。
フォーマルウエアは必ずシングルですので、そのような場ではシングルとするのが無難です。
特に葬儀に出席する場合は、ダブルの裾は不可です。
ダブルの裾の場合、繰り返しをイメージさせてしまい、相手に失礼だからです。
靴下にも注意が必要
靴下は立っているときには見えないですが、座れば見えますし、足を組めば主役級に目立ちます。
気にせず適当に履いていると大恥をかきますので、以下の最低限の注意事項だけは守るようにしてください。
○ 白い靴下は履かない
「なぜ?」とかいうレベルではなく、スーツ姿の絶対的ルールです。
葬式に白ネクタイをしていかないレベルのルールだと思ってください。
○ 足を組んだ時に地肌が見えない長さのものを履く
地肌を見せるのは相手に失礼ですし、見苦しいものです。
長めのものを選びましょう。
○ 薄手の靴下ですね毛が透けて見えるようなものは履かない
地肌を見せないようにするのと同じ理由です。
透き通らない程度で薄手の靴下を選んだ方がよいでしょう。
○ 色は原則としてスーツの色に合わせる
スーツに合わせると自然な感じで足が長く見えるので良いですが、スーツと靴の中間色にするという選択、あるいは靴と合わせるという選択もあります。
靴とスーツは同じくらい気を使うこと
その人を知りたければ靴を見ろとか言われますよね。
ファッションの専門家の中には、スーツと同じくらいの金額の靴を履きなさいとアドバイスしている方もいます。
例えば、5万円のスーツであれば5万円の靴です。
それほど重要な靴、要点だけは押さえておきましょう。
スーツに似合うのは紐靴
ビジネスシューズの基本は紐靴です。
さらに言えば、プレーントウかキャップトウの靴が適しています。
靴の甲やトウの飾りが増えるほどカジュアルに傾いていきますので、そのような飾りのないものが良いでしょう。
特に黒のストレートチップは冠婚葬祭などの儀式用の礼装にも合わせることができるので、一足は持っておきたいものです。
靴を揃えるのならこの順番で
スーツ向きの靴を揃えるならこんな順番で揃えてみてはどうでしょうか。
1) 黒のプレーントウ・・どこでも使える万能タイプ
2) 黒のストレートチップ・・畏まった場所向けに
3) 濃茶のプレーントウかストレートチップ・・少しオシャレを意識して
4) Uチップ・・カジュアルながら見た目がスッキリしていればビジネスにも使用可
靴を磨くときはピカピカ過ぎずしっとり光るように
靴を長く履き続けるには手入れが大切ですが、勘違いしがちなのが、靴の磨き方。
せっかく磨くのだからといって、ピカピカになるまで頑張っていませんか?
好みと靴の質にもよりますが、一般的な革靴であれば、あまりピカピカにする必要はありません。
全身をサッと眺めて靴だけピカピカと光っているのも少し不自然に感じます。
しっとりとした光が感じられたらOKです。
まとめ
首まわり、手首(袖口まわり)、足首(裾まわり)の「3首」にこだわってスーツの着こなしを見てきました。
これら「3首」はアパレルの世界で着こなしのポイントとされているだけに、スーツを着る私たちも、知っていると得したり、知らないと恥をかいたりすることが多くあります。
例えば、スーツの襟の形を選ぶことで、体形をより良くみせたり、小顔に見せたりできるということ。
一方、シャツやネクタイ選びのコツを知らないと、どんなに高級なスーツでもザンネンな着こなしに・・・。
スーツの袖の長さを見るだけで、その人がスーツの着こなし方を知っているかどうかがわかります。
ズボンの裾の形についても知識を持っていないと、場合によっては大恥をかいてしまうかも。
このようなポイントを押さえておくことで、スーツの着こなしについて恥をかくことはなくなり、スマートに着こなすことができるようになるでしょう。
せっかくですので、この記事を読んでいただいたことをキッカケに、スーツを着るときだけでなく普段から「3首」を意識するようにして、あなたのオシャレセンスに磨きをかけていただきたいと思います。