「会社の後輩がさぁ、こんどカノニコのスーツ作りたいんだって。俺のスーツ見て、興味が沸いたらしい」
「へぇ。」
「で、アドバイスを頼まれちゃった」
「してあげれば?」
「え!だって、俺のカノニコのスーツもジャケットも、お前がほとんどチョイスしてるじゃないか。
メモ書きでいいからさ、アドバイスするときのアンチョコ、作ってくれよ」
「えー・・・」
これは大変なことになった。
なんて、嫌々ながらも、実はこんな作業が結構好きだったりする私。
カノニコのことやらオーダーのことも盛り込んで・・・と、頭の中で早くも組み立て始めた。
「ちょっとボリューミーになっちゃうかもよ?」
「いいよ。どうせならレジュメ作ってよ、簡単な。」
「もう!ほとんど仕事じゃない。」
ってことで、簡単なレジュメを作ることになってしまった。
タイトルは、「カノニコで作るオーダースーツ」ね。
だいたい、その後輩の人は、カノニコのことどれだけ知ってるのかしら?
まずはそこからね。
カノニコについて
カノニコは、1663年に設立された、織物工場を持つミルメーカーです。
糸の混紡から生地の仕上げまでを自社で一貫して行っているため、生地の風合いが似ていると言われるゼニアなど高級ブランドよりもリーズナブルなことが特徴です。
生地の特徴はなめらかで光沢があり、軽くて高級感があります。
また、イタリアならではの発色の良さも見逃せないところ。
その品質の高さはアルマーニやラルフローレン、バーバリーなどがカノニコの生地を採用していることでも証明されます。
カノニコ生地は耐久性の良いSuper110’s~120’sを使用していますが、他の高級メーカーと遜色がないのは、その織りに工夫があるから。
高級ウールに、ウールよりも太めのモヘアを混紡することで、シルクのような光沢感を実現させています。
オーダーの種類
オーダーにはフルオーダー、イージーオーダー、パターンオーダーの3種類あります。
ここではそれぞれのオーダーのメリットとデメリットを比較してみます。
オーダー種類の比較
パターンオーダー イージーオーダー フルオーダー
特 徴 いくつかの既成スーツから選んで丈を補正して作る 数種類の型紙から選んで体型を補正し作る 一から型紙を作って仮縫いをし、完全オリジナルを作る
メリット 丈の直しだけなので、すぐに受け取れる 体型に合わせられ、低価格で作れる 世界で唯1の、自分だけのオリジナルが作れる
デメリット 既成スーツに自分のサイズがないと作れない 店によって型紙の良し悪しがある、大きなカスタマイズはできない ハンドメイドではない場合もある、コストが高い
納 期 2~3週間程度 3~4週間程度 1~2か月程度
価 格 約2万円~ 約5万円~ 約10万円~
スーツを作るときの注意
スーツを作るとき、何点か注意しなければならないことがあります。
ここをしっかり意識することで、仕上がりにも差が出てくるので、よく読んで下さい。
良いテーラーを選ぶ
良いテーラー(仕立て屋)を探すのは、最重要課題です。
オーダースーツはテーラーと共に決めていくため、スーツの仕上がりもテーラーの腕次第と言っても過言ではないからです。
良いテーラーは経験豊富なので、
・提案の幅を持っています
・店の採算と顧客のニーズのバランスを上手に取れます
提案の幅とは、顧客のニーズに対応できる引き出しを、たくさん持っているかどうかです。
スーツの着用目的を告げた時、「こういう場合はこうです」とステレオタイプで返すのではなく、「こんな場合こうしたお客様もいらっしゃいました」と、経験に基づくアドバイスがあると、作る方も安心して任せられます。
また、信頼関係がきちんとできていないと、店の利益第一になってしまい、顧客の好みを反映したものでなくなる可能性があります。
飛び込みで入って作ったオーダースーツが、思ったよりオジサン臭くなってしまった、イメージと違うものになってしまったというのは、お店の都合で作られてしまった場合や、目の前の顧客のことがよく分からないので大きめに作ったためでしょう。
良いテーラーは、顧客の着用目的、着心地やデザインの好み、予算などの要所を話しの中で押さえていき、顧客が安心してスーツを作れるように提案してくれるものです。
良いテーラーを探すには、信頼のおける知り合いからの紹介や、口コミで探すのが一番です。
しかしテーラーもプロとはいえ人間です。
自分と相性の合う経験豊富なテーラーに出会えれば最高です。
サイズ感
サイズ感はとても重要です。
まずは自分にピッタリのサイズのスーツを作ることが必須。
ピッタリのサイズを作るには、着慣れたビジネスシャツを着て行きましょう。
テーラーは、着ているシャツがその人の好みだと思って、来ているシャツに合わせて作ることが多いからです。
スーツのサイズで注意する個所は、丈とウエスト、パンツのシルエットです。
流行に乗ることもありませんが、あまり流行を取り入れていないものを着ても、会社などで浮いてしまいます。
また、スーツには、肩がカチッとしたブリティッシュタイプ、肩が体のラインに沿ったイタリアンタイプ、そしてウエストがほとんどシェイプされないアメリカンタイプがあります。
今回はカノニコの生地を使うので、イタリアンタイプを想定しています。
ジャケットのサイズ感
現在の流行は、ジャケットはウエストが絞ってあり、丈は短めのデザインが主流です。
ゆったり目が良いからと、ウエストをシェイプしていない形にすると、ダブッとしてだらしなく見えるので注意しましょう。
ジャケットを作るときのサイズは次の項目をチェックしましょう。
1)着用してまっすぐに腕を下したときに腕とウエストの間に空間ができている
2)腕を下した状態で袖からシャツが1~2㎝出ている
3)着用して肘をあげた時、肩が必要以上に浮かない
4)首の後ろの上衿がシャツと離れていないか
5)ラペル(下襟)が浮いていないか、幅は顔の大きさに合っているか
6)肩が落ちていないか、または小さすぎないか
※ラペルの形と幅
ビジネス用では、ラペルはベーシックなノッチド・ラペルがおすすめですが、ダブルスーツにするならセミピークド・ラペルも良いでしょう。
ただし、役職についていない場合はシングル&ノッチド・ラペルが無難です。
幅は少し前に極端に細いラペルが流行し、今はその揺り返しが来ています。
流行に左右されすぎると、顔のサイズと合わない場合があります。
例えばラペルの幅が細いと顔は大きく見え、幅が広いと顔は小さく見えます。
顔を小さく見せたいからとラペルの幅を広くし過ぎると、今度はスーツ全体のバランスがおかしくなります。
ラペル幅は店員さんと相談しながら、決めましょう。
パンツのサイズ感
パンツは裾を絞るテーパードが主流ですが、あまり絞り過ぎても流行が去った時、着られなくなる可能性があります。
丈はテーパードの場合はくるぶし、ストレートならハーフクッションにし、裾幅は大きくしすぎないようにしましょう。
また、テーパードの型の流行りとして、腿の部分にタックを入れることを勧められるかもしれませんが、裾を明らかなテーパードにしていない場合、タックが入るとただダボッとしたシルエットになってしまうため、お勧めできません。
裾をシングルかダブルか悩むかもしれませんが、これは好みなのでどちらでもOKです。
おすすめは、重力でラインがきれいに出るダブルです。
パンツのサイズ感で注意することは、
1)座った時の膝の突っ張り感
2)丈の長さ。今は靴の上に少したわむ程度のハーフクッションが主流です。
流行
スーツにも流行があります。
最近の流行りは細身のシルエットや芯を出来るだけ省いたアンコンですが、5年以上着ようと思えば、あまり流行には左右されないものを作りたいもの。
どの時代にも共通することとして、自分にジャストサイズのスーツを作るということが重要です。
お店ではよく、「長く着るならゆったりめ」と勧められることも多いと思いますが、この先もし体型がゆったりしなかったら、ずっと少し大きめのスーツを着ることになります。
大き目のスーツはだらしなく、しかもオジサン臭く見えてしまうため、オススメしません。
予算
最初に予算を決めて、店員に伝えておくのは重要なことです。
勧められるままに生地を選び、ディテールを次々オプションした結果、気づいたら高額になっていたという事態になりかねません。
一度選んだ生地やオプションは、取り消しにくいので注意しましょう。
目安としてよく、年収の3%と言われます。
年収500万円の人なら15万円が年内にスーツにかけられる予算となります。
スーツの寿命はおよそ5年と考えた時、1着5年で買い替える場合年に1、2着は作り変える必要があります。
年収を手取りで考えた時、手取り年収400万円強の人は、スーツの予算が12~13万円となります。
このほかに、スーツに合わせる靴やベルトなどの小物類のことも考え、小物類の予算をスーツの予算内に入れるか、別枠で考えるかも頭に入れておくと良いでしょう。
カノニコの生地の選び方
生地を選ぶとき、お店では小さな布を台紙に張り付けたサンプルで選ぶことが多いと思います。
しかし、サンプルは全体ではないため、スーツを作った時に、全体のイメージを想像することが必要になってきます。
また、つい光沢のあるものは高級感があるので選びがちですが、光沢があり過ぎるとパーティー用などの華やかなスーツに仕上がってしまいます。
あくまでも仕上がりの全体像を考慮して生地を選びましょう。
用途で選ぶ
スーツは着用シーンを決めることで、目的を明確にし、生地やデザインを選ぶことが出来ます。
・会社用
・オンオフ兼用
・パーティーや食事会用
・冠婚葬祭用
など。
オンオフ用なら、ジャケットの着丈を短めにする、裏地を明るい色柄にすれば、平日は会社用として、休日はジャケットとして使用することも出来ます。
もし、明確に生地が決まっていない場合などは、お店側にどんな目的のスーツを作るかを告げると、お店側も生地やデザインを提案しやすくなります。
季節で選ぶ
スーツには、大きく分けて夏用と冬用、2種類の生地があります。
どの時期に着るスーツなのかを決めることで、生地をある程度絞れます。
夏用と冬用、3着ずつ以上は持っていたいものです。
また、カノニコにはオールシーズン着用可能なものも豊富にあるので、迷ったら4シーズンの生地にしても良いでしょう。
カノニコの夏用生地
・トロピカル・ストライプ:ウール100%
・スーパーファイン・キッドモヘア:ウール84%、 スーパーキッド・モヘア16%
カノニコの冬用生地
・ウーステッド・ライト・ウェイト・フランネル:ウール100%
・グラフィック・ツイード:ウール100%
・ホワイト・チェックのウーレン・グレー・フランネル:ウール100%
カノニコの4シーズン生地
・ピンストライプ・プルネル:ウール100%
・リベンジ・ストライプ
ウール100%
・グレー・ピンストライプのペレンニアル・パナマ:ウール100%
・ペレンニアル・シャークスキン
ウール100%
ディテールで遊ぶ
オーダーの楽しみであるディテール選び。
ディテールは、オーダーの時には生地選びの次に行います。
しかし、サイズ感などオーダー時の注意を知って、スーツの仕上がりを想像できるようになってからの方が良いと思ったので、今回は最後の項目になりました。
ディテールは目的によってもあまり派手にできないなどはありますが、その中でもボタンの色や素材、裏地の色などを変えることが出来ます。
もちろん自分で選ぶ自信がなければ、大いに店員さんに意見を求めましょう。
ボタンで遊ぶ
ボタンは小さいアイテムですが、意外とスーツの印象を左右するものです。
例えば、ネイビージャケットでも、水牛ボタンから茶色のナットボタンに変えるだけで、ビジネス用から一気にオフ用になります。
ボタンが何種類くらいあるかはお店次第。
チェーン店よりは個人店の方が種類は豊富です。
チェーン店はコストを抑えるために数種類の定番しか置いていませんが、個人だと自分で買いつけることが可能だからです。
また、もし飽きた場合や気に入らなくなった場合、自分で取り替えてしまう方法もあります。
ボタンは手芸店で購入することができます。
<シーン別ボタンの選び方>
1)ビジネス・・・生地とトーンをずらした黒やネイビーの水牛ボタン(艶アリだと更に高級感アップ)
生地とトーンをずらすとは、例えば紺のジャケットなら同じ色の紺のボタンより、黒を選ぶ、などです。
接客や重役が同席する会議などがない、少しオシャレをしても大丈夫な日に着用するのであれば、黒や紺の生地に、薄めの茶色の水牛ボタンなどもおすすめです。
2)オフ用・・・ナットボタン、くるみボタン、練り(プラスチックなど)ボタン
オフ用は、種類が豊富ですが、参考までにパターンを挙げておきます。
ネイビー系:茶系のナットボタン
夏用生地 :貝ボタン(黒蝶貝、白蝶貝は生地に合わせて)
冬用生地 :厚みのあるナットボタン、くるみボタン
余談ですが、ボタンのつけ色で遊ぶ、という方法もあります。
ビジネスユースではお勧めできませんが、袖を本切羽4つボタンにして、
カフの1番下または2番目のみ、ホールの色を変えると個性をアピールできます。
裏地で遊ぶ
スーツでは裏地に凝る人が多いです。
オフィスでジャケットを脱いだ時、チラッと見えると女子人気が高まります。
はじめはトーンを外したり、同系色にしたりして軽めに外すのがおすすめ。
例えばネイビーの生地なら、裏地は茶系か明るいブルーにするなどです。
裏地は吸湿性のあるものを選びましょう。
ポリエステル100%などは、特殊な加工をしていない限り冬場でも蒸れます。
キュプラ混がおすすめです。
スリーピースを作るときは裏地に注意が必要です。
ジレ(ベスト)の背中部分は裏地と同じ生地になるため、派手なものを選ぶと目立ってしまいます。
茶系なら、明るくてもベージュなので、安心です。
ポケットで遊ぶ
ポケットは蓋の有無だけでなく、数種類があります。
フラップポケット
代表的なポケットで、取り付け角度は水平、雨やホコリ除けのための蓋がついています。
チェンジポケット
ジャケット右側のフラップポケットの上についている、小さいポケットです。
チェンジは小銭のことで、小銭や切符用のポケット。
ウエストの位置が高く見えるため、脚長効果があります。
スラントポケット
外側斜めに下がってカットされたポケットで、ウエストを細く見せる視覚効果があります。
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ノーフラップポケット
蓋のないポケットで、玉縁ポケットとも呼ばれます。
蓋は雨やホコリ除けでつけられるため、ノーフラップポケットは室内で着用することの多い、フォーマルタイプのスーツに用いられることが多いタイプです。
アウトポケット
ポケットの形の袋を、外側から貼りつけたデザイン。
ブレザーやカジュアルジャケットに用いられます。
フラップ付きアウトポケット
アウトポケットに蓋が付いたもの。
こちらもカジュアル仕様です。
ベントの種類を決める
ベントとは、ジャケットの後ろの裾に入れるスリットのこと。
元々は乗馬をするとき、ジャケットの裾裁きが良いように開発されたとされる説が有力です。
センターベント
背中の真ん中にある縫い目からそのまま切れ込みが入ったデザインです。
スタンダードで、よく見かけるタイプ。
スリムなシルエットと相性の良いベントです。
サイドベンツ
ジャケットの両脇に切れ目が2つ入ったデザインです。
センターベントの次によく見かけます。
ノーベント
ベントのないタイプのデザインで、礼服などに用いられます。
まとめ
カノニコで作るオーダースーツというレジュメを一緒に見ていただきましたが、いかがでしたか?
カノニコは、ゼニアと引き合いに出されるほどの高級感のある生地にも関わらず、リーズナブルなことが特徴です。
オーダーについては、
・パターンオーダーは、体型には合わせられないが、サイズがほぼ合えばお手軽にできる
・イージーオーダーは体形に合わせて作れてフルオーダーよりかなり低価格
・フルオーダーは自分だけのオリジナルが出来る
というそれぞれの特徴があります。
ただし、イージーオーダーやフルオーダーの場合は、お店やテーラーによって、かなり仕上がりが左右されます。
また、サイズ感や予算についても明確にすることが重要。
・流行はほど良く取り入れる程度にして自分の身体にピッタリ合ったジャストサイズにすること
・予算はあらかじめ伝えておくこと
が大切です。
生地は着用目的や季節で選びます。
カノニコの生地は4シーズン使えるものが多いので、選択肢が広がりますね。
最後にディテールについてですが、ボタンやポケット、裏地はTPOに合わせて許容範囲内で遊ぶことが大切。
裏地を派手にし過ぎたり、ポケットや背中をスッキリさせたいからと、場違いなチョイスをしたりしては、周囲から失笑を買いかねません。
さて、このレジュメ、旦那様に見せてどうなったでしょう?
「なぁ、こんなに覚えられないよ。
今度あいつ、うちに遊びに来させるからさ、お前が説明してよ」
「ええーーっ!」。