独特な色気を持つイタリアのナポリ仕立てといえば、アントニオパニコ。
高級ブランドのキートンやブリオーニもいいですが、伝統あるロンドンハウス出身の彼のブランドはやはりとても魅力があります。
男性の魅力を最大限に引き出してくれるアントニオパニコのジャケットやスーツは、女性の憧れでもあります。
人間は中身と言いながら、やはり着ているものに自然と視線がいってしまうのが女性という生き物。
中身が良くて服選びのセンスや自分の魅せ方を知っているとくれば、男性としてレベルが高いと感じます。
アントニオパニコをまとえば、男としての株も上がるというもの。
クローゼットにアントニオパニコのスーツやジャケットを加えてみたいという人のために、今回はアントニオパニコについて、存分にご紹介します。
ナポリ仕立てのゴッドファーザー|アントニオパニコ
アントニオパニコと言えばナポリ仕立ての最高にして最後のサルトと言われる、ナポリを代表するサルトリアの巨匠です。
サルトリア・ナポリターナの中でも彼の仕立ては軽さと柔らかさ、そして男性の色気を醸し出すスーツやジャケットは、他の追随を許さないほど。
パニコ氏は、11歳でジュゼッペ・ルオトロの元で修行を始め、ナポリ史上最高と言われた故ロベルト・コンバッテンテについてフリーハンド・カッティングの技法を習得しました。
その後、1970〜1992年まで、あの名店ロンドンハウス(現在はルビナッチ)で22年間マスターカッターとして活躍しました。
そして現在は、オリジナルのサルトリアを創立し、ナポリとローマにアトリエを構えています。
彼の卓越した技術は、孤高の存在であるがゆえ、継承不可能と言われていることから、最後のマエストロと呼ばれています。
また、「ナポリ仕立てのゴッドファーザー」とも呼ばれていますが、その所以は、ナポリ仕立ての歴史とともに歩んだという意味からきています。
ちなみにロンドンハウスでは、同じくハンドメイドでは最高峰とされるアンナマトッツォと共に腕を振るい、ロンドンハウスを有名にした同志でもあります。
アントニオパニコの魅力
アントニオパニコの魅力は神の手とも言えるその職人技。
実演を身近に見た人は、まるで掌が寸法を記憶しているかのようだと評しています。
アントニオパニコの仕立て
アントニコパニコの凄さは、その仕立てにあります。
まずは言わずもがな、フルハンドメイドということ。
この、全てを人の手で丁寧に作られる精巧でストイックなまでに丁寧な仕立ては、最高級ブランド「キートン」や「ブリオーニ」を上回るとされています。
過剰なまでにきっちりと施されたハンドステッチ、確かな目で見定められ、選び抜かれた上質な生地。
そして、まるで人間の動きをつぶさに再現しているかのような、計算され尽くした立体感。
また、動きに吸い付いてくるような軽やかさと優雅さを持っています。
それは一人一人の体型が違うという認識に基づく、型紙に頼らない直裁ちに起因しています。
「体型は常に同じではなく、生地も厚さやその性質は一着ごとに違う。
そのため、その都度素材にあった裁断をしなければならないので、型紙は必要ない」というのがアントニオパニコの考えとのこと。
また、イタリア・ナポリの仕立ての特徴でもある「エレガンテ(エレガント)」ですが、その上級概念として、イタリアでは「ラフィナート」という言葉があるそうです。
エレガンテとは外見だけの優雅さを意味し、外見だけの優雅さをまとうだけなら洗練された既製服でも良いそう。
しかし、ラフィナートは内面も含みます。
ラフィナートとはその人自身の品の良さ、内面からにじみ出る優雅さのようなもので、ラフィナートであろうとするなら仕立てであると言います。
イタリアでは「外見をきちんとすること(エレガンテ)は最低限のマナー」とされているそうで、それに対し、内面からにじみ出るようなオーラともいうべきものがラフィナートと言えるでしょう。
エレガンテが人工的なものであるのとは対照的に、ラフィナートは自然であるというニュアンス。
その人の内面が自然に出るような服を仕立てる、ということがラフィナートという言葉を大切にするアントニオパニコの仕立てなのです。
また、ナポリは色々な民族が集まってできた独特の文化がある街。
そんなナポリで作られるナポリ仕立てとは、既成概念にとらわれず、仕立て屋ごとにバラバラです。
その中でも美しく自然に着られる服を仕立てるため、裏地まで使ったダーツや一切の無駄のないカッティング、大きめのフロントカット、そして徹底した丁寧な手縫いによる縫製。
それが、アントニオパニコの魅力です。
アントニオパニコのシルエット
アントニオパニコのスーツはシンプルに言えば「男らしいシルエット」。
広めの肩、シェイプしたウエスト、そして存在感のある広めのラペル。
肩幅を肩甲骨に合わせて広めにとる設定は、イギリスのサヴィル・ロウの伝統的な設計を踏襲したものですが、芯材などをなるべく使わずに軽くて柔らかに仕上げるのは、ナポリ仕立て特有と言えるでしょう。
アントニオパニコの服は、男性をより男性らしく、しかも優雅に魅せるための服です。
アントニオパニコのラインナップ
アントニオパニコの製品はそのほとんどがオーダーメイドであるため、ラインナップを見ていただくのは非常に難しいです。
しかし、アントニオパニコが公式サイトに載せている画像、そして公式のfacebookから、これはというものを集めてみました。
ヴィンテージが有名なアントニオパニコのスーツ
ダブルブレストのスーツでは定番の、ネイビーにチョークストライプのスーツです。
このスーツがそうであるかは想像するしかありませんが、アントニオパニコはチョークストライプのヴィンテージスーツを多く仕立てています。
多くのナポリのサルトがそうであるように、アントニオパニコもまた、ヴィンテージの生地を愛する一人。
思い通りのスーツやジャケットを作るために、時には自らヴィンテージ生地を探し回るほど。
アントニオパニコによると、ヴィンテージ生地は熟成した年代物のワインのようだと言います。
目の詰まった打ち込みの良い上質なヴィンテージ生地は、時が経っても痛まず、その素材を用いて作られたスーツも耐久性があり、長年の友のように寄り添ってくれるスーツだとのこと。
広めに作られた肩が印象的なダブルブレストのスーツ。
大きめのボーダーが縦長効果を発揮していますね。
幅広の肩をさらに魅せるためのラペルも、計算され尽くした大きさと角度。
肩幅と胸の広さを強調し男性らしさを魅せるアントニオパニコのジャケット
カジュアルなシングルジャケットです。
アズーロ・エ・マローネの配色でよく使われるブルーグレーが、カジュアルな中にも落ち着きを表現し、エレガントさを増しています。
いかにも着心地の良さそうな、ネイビーのウィンドウペーンのダブルブレストジャケット。
すっきりとしたアームホールは体の動きに吸い付くような作りになっているため可動域が広く、バランスの良いウエストのシェイプが作り出す美しいドレープはイタリア紳士そのもの。
カラシ色の鮮やかなジャケットは、日本ではちょっと目立ち過ぎてしまう色でしょうか。
ナポリの情熱的な太陽のもとだからこそ映える色と言えるかもしれませんね。
タキシードのような特徴的なカッタウェイフロント。
そしてヴィンテージのような味のある色柄は、ちょっとしたパーティーにも合いそうなジャケットです。
ラペルの折り返しから肩にかけての緩やかで自然なカーブがなんとも上品ですね。
こちらはダブルブレストのジャケット。
肩のマニカ・カミーチャの幾重にも丁寧に寄せられたギャザーが、よりナポリらしさを表しています。
また、袖を落とした時の自然な袖のカーブは、着用した時の体型に沿うように少しだけ前に出ていますね。
着た人が最大限に美しく見える服への工夫が随所にあります。
飾ってあるだけなのに、威厳すら感じられるアントニオパニコの作品。
そう、製品でありながら、作品と呼びたくなるほどのジャケット達です。
自然なシルエットのアントニオパニコのコート
程よいウエストのシェイプが美しい曲線を描く、ウールのコート。
体にジャストフィットしながらもゆとりがある着心地に見えますね。
春に着たいネイビーコート。
軽そうな生地の風合いが伝わってくるようです。
滑らかなウールのPコート。
真紅の鮮やかな色使いが特徴です。
裾は動きやすそうなサイドベンツ。
丁寧なステッチが施されたジャケットコート。
ざっくりとした重めのヘリンボーンの風合いですが、短めの丈が重い印象をうまく逃しています。
ホワイトパンツに合わせて冬のマリンファッションとして着てみたい一着ですね。
大きめのボタンが印象的なPコート。
オフホワイトが上品なイメージですね。
落ち着いたベージュのトレンチコート。
ハンドメイドのトレンチなんて、なんとも贅沢です。
トレンチ特有のラペルのドレープもとても美しいですよね。
トレンチの後ろ姿でしょうか。
十分にゆとりをとった設計です。
ウエストの調整可能なボタンで、タイトにもビッグシルエットにも着られる工夫がなされています。
これは珍しい、カジュアルなブロックキルトのジャケットです。
渋みのあるカーキ色にワイルドな金属のボタン、ポケットのカチッとしたデザインが男らしさと色気を醸し出していますね。
英国調のヴィンテージっぽいウィンドウペーンのコート。
形はとてもシンプルですが、それゆえに色柄の主張が前面に出ています。
こちらも珍しい色柄のコート。
グレーに朱色っぽい赤のラインでしょうか。
ラペルを立てて着た時に、しっかりと立つようにラペルの後ろが補強されています。
着た時に美しいシルエットを保つ工夫がさりげなく施されていますね。
こちらは定番のダブルブレストのチェスターコート。
色もネイビーでシックですね。
ポケットはちょっと特徴的なデザインです。
アントニオパニコの手縫いのコートは、まさに一生連れ添うべきコートですね。
真の一張羅|アントニオパニコのタキシード、モーニング
日本ではあまり着ることのないタキシードやモーニング。
パーティーの多い海外では正式な場にこそ、本物のナポリ仕立ての上質な一着を誂えるのかもしれません。
丁寧に縫われた美しいカーブ。
被せボタンも上品です。
アイロンによる丁寧な仕上げ。
プレスの技術もサルトリアの手腕が問われる大切な技術の一つです。
ストイックなまでに、無駄のない綺麗な直線ですね。
もちろんボタンホールも手縫いによるもの。
精巧なボタンホールですが、ほんのり温かみも感じられる丸さがあります。
ボタンのチョイスもおしゃれ。
今更ですが、ナポリ仕立て「センツァ・インテルノ」とは
ここまで読んで、「は?いまさらそれを言う?」という人は読み飛ばしてください。
アントニオパニコのことはわかったけど、そもそもナポリ仕立てってどういうもの?という人に、改めてナポリ仕立てについて記述したいと思います。
イタリアはご存知の通り南北に長細く、北に位置するミラノと南のナポリとは気候がかなり異なります。
もともとイタリアはフランスからの受注によるスーツ製作が主で、イギリスの華族が遊びに訪れていた際にオーダーメイドも請け負ったのがイタリアのメンズファッションの流れ。
北部ミラノで作られるスーツやジャケットは、プレタポルテと呼ばれる既製品が多く、洗練されたデザインと近代的なマシンメイドが特徴です。
一方南部に位置するナポリでは、「ス・ミズーラ」と呼ばれるオーダーメイドが主流。
その訳は、ナポリの気候が深く関係しています。
一年を通して暑い日の多いナポリでは、肩パッドや芯地や裏地の入ったジャケットやスーツを着用するのはちょっと辛い。
そこで、より快適にジャケットやスーツを着られるようにと工夫された末にできたのが、「センツァ・インテルノ」です。
アンコン仕立てとどう違うの?と思いますよね。
センツァ・インテルノもアンコン仕立ても、どちらも芯地や肩パッドを用いないという意味では同じです。
しかし、センツァ・インテルノとはマシンメイドで作られる一枚仕立てのアンコンジャケットと違い、型崩れせず美しく着こなせる、ナポリの腕利きの仕立て職人の工夫が施されている仕立てなのです。
それは羽織った時のシルエットや軽さ、着心地などで大きな差が出ると言います。
ナポリの男性は「エレガンテであることがマナー」というほどにおしゃれです。
たとえ薄く軽やかでも、シルエットが崩れてしまえば、それはマナーに反するというもの。
そんなナポリの男性に好まれる、軽くて着た時のシルエットも崩れずエレガンテを表現できるのは、マシンではなく人の手。
一人一人の体型や生地の性質が違うので、自ずとオーダーメイドになっていったのですね。
そのため、型紙の必要なく、ナポリの仕立て職人は生地に直にチョーキングをして裁断していきます。
アントニオパニコまとめ
ナポリ仕立て最後のサルト、アントニオパニコについてご紹介しましたが、いかがでしたか?
ナポリの男性なら誰でも、エレガンテは最低限のマナー。
そのため、暑い気候のナポリでも快適に過ごせるよう、軽くて着心地良く、なおかつシルエットが崩れない「センツァ・インテルノ」です。
そしてそれを実現できるのが、腕の立つオーダーメイドの仕立て屋。
その最高峰に君臨するのがアントニオパニコです。
アントニオパニコの仕立ては精巧かつ丁寧で、職人技を極めたといっても過言ではありません。
アントニオパニコの作るスーツやジャケットの特徴は、
・肩幅が広い
・存在感のある大きめのラペル
・ウエストを美しく魅せるシェイプ
・大きなフロントカット
です。
そして、忘れてはいけないのがヴィンテージを選択する優れた目。
打ち込みのある上質なヴィンテージの生地を、上質な年代物の熟成されたヴィンテージワインに例えるアントニオパニコならではのこだわりが見え隠れします。
アントニオパニコのジャケットやスーツは、残念ながら現在日本では手に入れることができません。
もし作るとしたら、イタリアのナポリかローマのアトリエまで出向き、オーダーする必要があります。
さらに、紹介制で一見では難しいとのこと。
しかし、そんなこと言われると、ますます手に入れたくなってしまいますね。
一生に一度は着てみたい、巨匠アントニオパニコの男性の色気を引き出す服。
ご縁があればその機会を逃さず、是非オーダーしに行ってみてください。