スーツは生地選びが肝要と言いますが、特に英国スーツを作るなら生地は最重要事項。
なぜならイギリスは曇りや雨の日が多く、日本の梅雨のように湿気も多い地域。
「霧のロンドン」という言葉でも知られるように、しっとりとした湿気から、いかに体を守るかが重要になってくるような地域では、目の詰まった上質な生地が求められるのです。
そんなお国柄であるイギリスでは、ツイードやフランネルなど、様々な生地が開発されてきました。
そして日本も梅雨の季節の他、秋の長雨、冬の曇り空や雪の日など、イギリスと気候がよく似ていますね。
つまり、似た気候のイギリスで作られた紳士服を日本で着るのは、とても理にかなっていると言えます。
余談ですが、イギリスと日本ではその国民性も似ていることがしばしば指摘されます。
初対面でもフレンドリーに話すのが当たり前のアメリカに対し、初対面の人とはちょっと話しづらく、何かきっかけがないと話せないのがイギリス人や日本人。
また、人との距離を保ち、できるだけ人に迷惑をかけないように行動するという点においてもとてもよく似ています。
気候が国民性に作用しているかどうかはわかりませんが、国民性も似ているとなると、ますます親近感が湧いてきますね。
話を元に戻しますね。
生地選びの基準としての一つに糸の細さの数値「SUPER」がありますが、生地メーカーにはこだわりのブレンドがあり、製法があるため、ただ糸の細さだけに囚われるのは非常にもったいないことです。
スーツを作る際に選ぶならやはりしっかりとした質の良いメーカーで、自分の好みの生地を選びたいもの。
そんなわけで、数多あるイギリスの生地ブランドの中から選りすぐったトップ7社をご紹介します。
これから英国スーツを作るなら、ぜひ生地からこだわってあなた好みのスーツを作ってくださいね。
コストパフォーマンスの良さと高品質|ジョン・フォースター
ジョン・フォースターは、1819年に設立された、200年あまりも続く歴史ある生地メーカーです。
ジョン・フォースターの故郷ウェスト・ヨークシャーは、険しい丘陵地帯で、豊富な水の産地でもあります。
この純粋で豊富な水が、ジョン・フォースターの長い歴史を支えてきました。
生地を作る工場ブラック・ダイク・ミルズは、海抜1100フィートのクイーンズベリーにあり、そこでファイン・ウーステッドのウールやモヘアが作られています。
この地帯一帯は、昔からイギリスの繊維製造業で知られており、ジョン・フォースターはこの地で糸や生地を扱う商社としてビジネスの第一歩を踏み出しました。
そして工場を立ち上げてからは1834年までに50台の織機を持ち、1851年にはこの地域では一番の存在になります。
また、ロンドン万国博覧会ではモヘア生地などで一等を取り、糸では金メダルを授与されるという快挙を成し遂げました。
2009年には英国の主要繊維グループの一員となり、生産プロセスの全過程を監視下に置き、品質の向上に努めています。
スーツなどを作るとき、「Made In England by John Foster」のラベルをよく目にすると思いますが、ジョン・フォースターの高品質な布地は世界でも有名で、あらゆるアパレルメーカーがこぞって使う生地です。
ジョン・フォースターの生地
春夏コレクションに使われるのは、モヘア、シルク、リネン、ワインウーステッドウールで、それぞれを絶妙にブレンドし、220〜280グラムの生地に織り上げます。
秋冬コレクションではカシミアやウーステッドウールなどを用い、270〜330グラムのファイン・ミクロン・ウールを作っています。
コレクションは
・Super120’sのウーステッドウールとカシミア混
・Super150’sのウーステッドウール
・Super200’sのウーステッドウールとカシミア混
・夏の子どものためのモヘア
・Super120’sウーステッドウールのブラックフォーマルウェア
・Escorial collection
の6つです。
最高級のオーストラリアウールと南アフリカのモヘアで作られた極上モヘア。
ジョン・フォースターの生地は、ハリやコシのあるしっかりとした生地ですが、昔ながらの英国生地のような固さはなく、けれどイタリア生地のように柔らかすぎもせず、バランスの良い生地感が特徴です。
また、コストパフォーマンスにも優れています。
バーリーコーン(ジャケット生地)。
ユニークなヘリカル繊維で作られた100%エスコリアルファブリック。
自然なストレッチ性と類を見ないパフォーマンスをジャケットにもたらします。
ヘリンボーン(ジャケット生地)。
エスコリアルファブリックのベージュのヘリンボーン生地は、滑らかな光沢と柔らかな自然なシワが魅力です。
外回りのビジネスマンに人気|サヴィル・クリフォード
サヴィル・クリフォードは1899年にはダースフィールドに創業された名門ブランドです。
100年以上の歴史を持つサヴィル・クリフォードですが、2005年までの間に数回にわたり会社の代表が変わりました。
しかし、現在は高い評価をすでに得ていた布商人スキャバル氏がオーナーとなり、名前も「Savile Clifford Ltd.」に生まれ変わっています。
イギリス全土をはじめとして日本やイタリア、フランス、アメリカなど世界中の有名なスタイリストやアパレルメーカーが数多く顧客として名を連ねていますが、その評価は独自の製法からくるもの。
サヴィル・クリフォードは生産設備がとても小さいゆえに、設置方法に工夫を凝らしており、結果として柔軟性と複雑な製造にも対応できる手腕を身につけました。
新サヴィル・クリフォードは、元々の独創性と創造性を駆使し、現代的な技術を駆使しながらも伝統的な英国紳士服用の布地を作り続けています。
サヴィル・クリフォードの生地
このブランドの生地の特徴は、重厚感のある英国らしいハリと、撥水効果やストレッチ機能などを兼ね備えた生地を開発するなど、独創性にあふれていること。
機能性が高く、生地の打ち込みもしっかりしているので、外回りのビジネスマンに人気があります。
糸の製造からこだわりを持つ|エンパイア・ミルズ
「豊かなデザイン性と短い納期、品質とサービスを向上することで勢いを止めない」をモットーに最先端の織機を導入して高い生産性と高品質な生地を世界中に送り続けるエンパイア・ミルズ。
エンパイア・ミルズが設立されたのは1915年です。
しかし、経営は平坦な道ではありませんでした。
イギリスの繊維産業が盛んなヨークシャーからランカシャーへ移った時、経済的理由から一度破綻しかけます。
その後は粛々と製造業に精を出し、1970年代になると娘夫婦にその座を譲りました。
それから20年間は、生地製造から糸の製造に切り替え、速いスピードの縫いにも対応できる丈夫な糸を開発し、製造してきました。
しかし、ハイテク生産の真っ只中で、大量生産よりライフスタイルのための高品質の生地を作る方向性に転換することを決意し、小さな店舗を構えます。
そのお店の評判は、口コミでじわじわと広がり始め、手紙でのオーダーサービスを始めました。
現在その後を継ぐ3代目のクリスティーンは、事業を拡大し、全国でショーを行ったり最先端のファッションカレッジを提供したりしています。
また、作り出される製品は、あらゆる個人や企業、機関に提供され続けています。
エンパイア・ミルズの生地
エンパイア・ミルズの生地は、高品質と優れた技術、そして豊富なデザインや色柄が特徴です。
ビジネススーツ向けの生地は奇を衒わず、しっかりと地に足のついた生地と評されています。
信じられないほど柔らかな、グレーのフランネル・ピュアコットン生地。
とてもソフトなスーパーウールの生地。
糸からこだわっているだけあって、エンパイア・ミルズの製品は品質が良く、コストパフォーマンスも良いのが特徴です。
スタイリッシュでモダン|ラッシャー・ミルズ
1949年に創業されたラッシャー・ミルズは、イギリス伝統のものづくりとイタリアの最新トレンドを融合した、最高級の毛織り物メーカー。
スタイリッシュで豪華な製品を得意とし、イタリアの高級ブランドにその生地を提供しています。
工場はヨークシャーのハッダーズフィールドにあり、独自の給水と最先端技術を使ってラッシャー・ミルズオリジナルの「スペリア」の仕上げもここで行なわれています。
繊細な生地作りと徹底した品質管理で、消費者の厚い信頼を勝ち取っているブランドです。
ラッシャー・ミルズの生地
Super150’sの100%ウールは、英国らしい繊細な色使いとチェックの生地です。
通常の2倍のウールを使用したピンストライプのスーツ用生地。
暖かさが伝わってくるようです。
カシミア混のウール生地。
落ち着いた繊細なチェックが多いです。
ハリウッドや米大統領御用達|スキャバル
スキャバルは1938年創業の老舗生地ブランドで、あのシュールレアリズムの巨匠「ダリ」ともコラボレーションしたことがあります。
1972年、拠点を世界の紳士服の中心と言われるサヴィル・ロウ12番地に移し、現在も変わらずに営業しています。
スキャバルの生地は、生地の厚みが絶妙で使いやすく、最高級の生地とそのデザイン性が魅力です。
高級ラグジュアリーブランドに生地を提供するだけでなく、本店ではオリジナルのオーダーメイドスーツを作っています。
また、アメリカ大統領御用達ブランドとしても広く知られる世界最大のマーチェントです。
スキャバルは数多くのハリウッド映画に衣装生地を提供しており、映画「ゴッドファーザー」ではマーロン・ブランドが、「タイタニック」ではレオナルド・ディカプリオがスキャバルを着用。
そのほかロバート・デ・ニーロが着用した70着のスーツのほとんどは、スキャバルの生地で仕立てられたものでした。
現在では世界中の65カ国以上のテイラーが、スキャバルの生地を取り扱っています。
スキャバルの生地
クラシックコレクション
スーパーファイン・ウーステッドウールを使用したスーツ生地のコレクション。
伝統的なデザインとカラーは50種類近くの定番スタイルがあり、コレクションに含まれる480gの生地ラインは、ファッショニスタをも唸らせる逸品です。
トリプルAコレクション
Super120’sのウールとカシミアを贅沢にブレンドしたスーツ用の生地コレクション。
極上の柔らかさを持つだけでなく、仕立てやすいのが特徴。
デザインは49種類あり、スーツだけでなくジャケットにも使えます。
ジェットセット・コレクション
冬用のスーツ生地コレクションで、レトロスタイルにインスピレーションを受けた、軽やかで現代的なスーツ生地。
カジュアルなブルー系、大胆なミックスカラー、控えめで伝統的なデザインのものまで豊富なラインナップが揃っています。
ダイアモンド・チップ・コレクション
生地に宝石を織り交ぜるという手法を取り入れた、ほかに類を見ないパイオニア的な高級生地。
イギリスの自社工場でダイアモンドを粉砕し、Super150’sウールとピュアシルクをブレンドしたスーツ地に、直接織り交ぜています。
太陽の下でキラキラと上品に輝く糸が印象的で、スーツに高級感のあるツヤを与え、柔らかな雰囲気を演出してくれます。
コルティナ・コレクション
スーパーファイン・ウーステッドウールを使用したスーツ生地です。
コレクション名の由来となったイタリアのスキーリゾートタウンのように、寒い時期の着る喜びと楽しみを与えてくれます。
寒い日でも体を完璧に包む温かな生地で、大胆なチェック柄やサキソニー調モチーフ、ピンヘッドなどを展開。
名門らしい上質な風合い|ハリソン・オブ・エジンバラ
ハリソン・オブ・エジンバラは1827年、スコットランドのエジンバラに、のちにエジンバラ市長となるジョージ・ハリソンによって創業されました。
最高級の原毛を用いてしっかりと打ち込まれるハリソンの生地は、しなやかでかつエレガントな風合いを持っています。
また、アイロンでの癖がつけやすく、仕立て栄えがすると高く評価されています。
ハリソン・オブ・エジンバラの生地
このブランド生地の特徴は、イギリスの生地らしいハリやコシがある中にもシルクの上品な光沢感やサラリとしたリネンの風合いを持ち合わせていること。
贅沢感のある生地は、名門らしいクオリティの高さと流行の最先端ロンドンを感じさせるデザイン。
ケープキッド
サマーキッドモヘア60%とスーパー100sのウールのブレンド生地です。
ビジネスシーンに最適な生地で、太めのストライプがお勧め。
ムーンライト
ラムズウール75%、アンゴラ25%のソフトなブレンド生地です。
プレミアクルー
スーパー100sのウール&カシミア生地。
スーツに最適な生地です。
ジャケット生地ならムーン
1837年は、アブラハム・ムーン・アンド・サンズが創立した日で、ちょうどビクトリア女王が着任した記念すべき年でもありました。
アブラハム・ムーンはオックスフォード通りに3階建ての工場を持ち、原毛の洗浄から行いました。
工場のすぐ裏手には、幸いなことに新しい鉄道が建設され、事業に大きな利益をもたらします。
これを最大限利用し、1890年代には西ヨーロッパや日本に輸出してもいます。
1877年にムーン氏が交通事故で亡くなると、息子のアイザックが後を引き継ぎました。
彼は事業をさらに拡大し、紡績から生地のフィニッシングまで一貫した製造を行う完璧なミルを作りました。
1990年代に入ると化繊が台頭し、多くの工場が大敗していく中、ムーンは高級品に重点を置き、最高品質だけを作り出せるミルとしてその価値を世間に知らしめます。
その際に得た顧客リストには、バーバリー、ポールスミス、ラルフローレンなど国際的ラグジュアリーブランドが挙げられます。
その後も躍進を続け、オリジナル生地「ブロンテ・ムーン」を誕生させるなど、数々のファブリックを世界中に提供し続けています。
ムーンの生地
ムーンの生地は、イギリスらしいしっかりとした目付と、ふっくらとした温かみあるハイクオリティな生地が特徴です。
ジャケットやオーバーコートなどの生地が中心で、種類も豊富にあります。
ホームファブリックなどの織物工場としても有名で、その品質の高さは世界から認められています。
伝統的なオリジナルツイードや、色鮮やかなブレザー生地が得意で、しっかりとした風合い。
ハッキングジャケット
乗馬コートから発展した生地で、ジャケット用の生地。
ガンクラブチェックのアップ。
しっかりした英国生地らしい素材です。
ブレザーストライプ
クリケットやテニスなどのスポーツのために開発されたブレザー用の生地。
カラフルな英国の伝統的ストライプも、こんなに種類があるのですね。
アップしても目が詰まっていることがわかりますね。
シェットランド ツイル
打ち込みの良さがわかる生地のアップです。
シェットランド ヘリンボーン
ヘリンボーンもよく使われる柄ですね。
ランブスウール ツイル
コートなどに使われる生地。
どれも英国らしい重厚感のある生地ですね。
イギリス生地ブランドまとめ
英国スーツやジャケットを作るなら、まずは生地にこだわりたい、という人のために、数ある英国生地ブランドの中から、選りすぐりの7社をご紹介しました。
どのブランドも世界の高級ラグジュアリーブランドや名高いテイラーに認められている、超がつくほどの一流揃いです。
・高品質で高コストパフォーマンス|ジョン・フォースター
・外回りのビジネスマンに人気|サヴィル・クリフォード
・糸の製造からこだわりを持つ|エンパイア・ミルズ
・スタイリッシュでモダン|ラッシャー・ミルズ
・ハリウッドや米大統領御用達|スキャバル
・名門らしい上質な風合い|ハリソン・オブ・エジンバラ
・ジャケット生地なら|ムーン
・外回りのビジネスマンに人気|サヴィル・クリフォード
・糸の製造からこだわりを持つ|エンパイア・ミルズ
・スタイリッシュでモダン|ラッシャー・ミルズ
・ハリウッドや米大統領御用達|スキャバル
・名門らしい上質な風合い|ハリソン・オブ・エジンバラ
・ジャケット生地なら|ムーン
生地の良し悪しをSUPERの数値だけで決めるなんてもったいない。
生地メーカーにはそれぞれこだわりのブレンドや製造工程があり、独自の製品を追求しています。
作るスーツやジャケットなど、用途に合わせて生地ブランドを選ぶのも楽しいですね。
湿気という共通する気候を持つイギリスと日本。
その英国のスーツを作るなら、生地ブランドの特徴でこだわり、あなただけの最高のスーツを作りましょう。