グローバルに活躍するビジネスパーソンは、印象を決めるスーツにおいても、国際人として他国の人と遜色のないスーツをお持ちのことでしょう。
ただ、欧米人と比べると体格ではどうしても差の出てしまう日本人。
それならば、せめてスーツはワンランク上のものを着て、格を上げるのも一つの手です。
ワンランク上の一流スーツを身にまとえば、どこに行っても引けを取りません。
ここでは、世界的に名の知れた一流のスーツブランドをご紹介します。
権威あるスーツを着れば、欧米人の顧客とも堂々と対等に渡り合うえること請け合いです。
まだまだ一流スーツの流れはイタリア
スーツの流行は移り変わりが激しいもの。
細いラペルが流行したと思えば、その反動で幅広のラペルが流行ります。
また、イタリアの伊達男のような色っぽいスーツが流行ったと思えば、クラシカルな英国風のかっちりとしたスーツがいつのまにか主流になっていたりするものです。
この2〜3年はクラシック回帰が流行していて、英国風のスーツを着ている人も増えてきました。
しかし、スーツのスラックスはというと、丈短めのイタリアンスタイルがまだまだ人気。
イギリスのブランドもだいぶ王権復古を遂げて来てはいますが、代表的な一流ブランドの一般的認識は、まだまだイタリアンスーツブランドが占めています。
そこで、定番の域に入ったと思われる一流スーツブランドを並べてみました。
王者の風格「エルメネジルド・ゼニア」
やはり一番手は世界が認める最高級生地のゼニアでしょう。
高級ラグジュアリーブランドのスーツには、ほとんどゼニアの生地が使われています。
そんなゼニアの歴史をちょっとだけ、紐解いてみましょう。
もともと時計製造を営んでいたアンジェロ・ゼニアが4台の織機を使ってウールの製織を始め、それを今日の大企業にまで成長させたのが、アンジェロ・ゼニアの10番目の末息子、エルメネジルド・ゼニアです。
エルメネジルドは1910年、18歳という若さでアルプス山麓に位置するトリヴェロに服地工場を設立しました。
エルメネジルド自身の言葉によれば、ゼニアのファブリックは「世界で最も美しい」ものでなければなりませんでした。
その意志が今日までも受け継がれ、ゼニアのファブリックはイタリアの誇る輸出品であり、それは国際的にも認められているところです。
先見の明があり、またビジネス手腕にも長けていた若き日のエルメネジルドは、最高級の天然素材を原産国から直接買い付け、積極的にブランド戦略を行います。
これが功を奏して、エルメネジルド・ゼニアのファブリックはアメリカに輸出されるまでになり、1945年には世界40カ国以上で販売されるまでになりました。
また、エルメネジルドのビジネスマインドは事業領域にとどまらず、地域と地域社会との良好な関係と切り離せないことを十分に理解していて、あらゆる社会貢献もしています。
トリヴェロの集会所、図書館、体育館、映画館、劇場、公営プール、医療センターに保育園と、住民に必要な施設を建設しました。
一方で環境保全にも力を入れており、何千本もの植林を行い、トリヴェロと海抜1,500mにあるリゾート地ビルモンテを結ぶ「パノラミカ・ゼニア」と呼ばれる14kmに渡る道路の建設も行なっています。
現在ゼニアグループの名誉会長であるアンジェロ・ゼニアは、父エルメネジルド・ゼニアについてこう語っています。
「父の人生には4つの力が働いたと考えています。第一に、父は自分のビジネスの才能を伸ばすのに適した環境に生まれました。小さな地域の中で様々な小企業が競い合っていたからです。
第二に、父は常に最高品質のイタリア製ファブリックを提供することで、イギリスのライバル達よりも優れた物作りをつくる決意を示していました。
第三に、特に地元地域の社会福祉と労働者への利益の再分配において、他に例を見ないほどの積極的姿勢を持っていました。
そして最後に、父は自然との関わりを大切にし、限られた天然資源は人間が守るべきだと意識していました。エコロジストという言葉が生まれる遥か前から、父はエコロジストだったのです」。
ゼニアが現在買い付けをしている原材料は、大きく6つです。
ウール、モヘア、カシミア、アルパカ、ビキューナ。
ウールは毎年オーストラリアのオークション(競売)で「スーパーファインウール」と呼ばれる細さ19.5ミクロン未満の最上級のものを選びます。
モヘアは並外れた光沢と清潔さ、均一性を誇るアンゴラが飼育されている南アフリカのもので、その中でもさらに生後6ヶ月以内に最初に刈り取られた原毛から作られる「キッドモヘア」を採用。
カシミアは世界で最も美しい最高級が採れるとされる内モンゴル自治区の高地のもので、そのカシミア羊のデュヴェと呼ばれる繊維が細くて短く、とても暖かい下毛だけを使用しています。
アルパカはボリビアやペルーなどのアンデス山脈の高地で生産されるものを、ビキューナは絶滅の恐れがあるため、ペルー政府の監督のもと、国際コンソーシアムに参加して生産するなど、いずれも現地の最高級のものだけを入手しているのです。
ゼニアのスーツ
グレー COOL EFFECTスーツ
オーストラリア産ピュアウールの繊維で織ったクールエフェクトアイテムです。
特殊な仕上げを施しているため、太陽光が当たるとファブリックが反射性を生み出し、生地の表面を美しく演出します。
また、クールエフェクト加工を施しているため、表面温度が通常の生地よりも低くなるのが特徴なので、春夏にはぴったりの涼しげなスーツです。
このスーツの生地の柄と拡大図です。
落ち着いたダークグレーの中にもチェック柄がクラシカルでモダンな表情を醸し出します。
ネイビーブルーTROFEOスーツ
定番のネイビーのスーツです。
ファブリックには弾力性に優れた長繊維が特徴のスーパーファインメリノウールが採用されているので、滑らかでリラックス感のある着心地が楽しめます。
また、シルク混なので、繊細な光沢が素晴らしい贅沢なスーツに仕上がっています。
ビスポークの「チェザーレ・アットリーニ」
イタリアン・クラシコの原点とも言われる、アットリーニ。
イギリスから入ってきたスーツ文化を、イタリア流のスタイルに改良したのは、チェザーレ・アットリーニの父、ヴィンツェンツォ・アットリーニです。
ヴィンツェンツォは、イギリススーツの生産国であったイタリアで、イタリア人が着るための、イタリアの気候や性質に合った「ナポリ仕立て」の生みの親。
雨や曇りの日が多いイギリスに対して、陽光がまぶしく比較的温暖な土地であるイタリアに適した薄い生地に、歴史的建造物に見られるイタリア人独特の美意識を生かした数々のディテールの多くは、彼が作り出したものです。
例えば袖口の4つのボタンを重ねながらつける「キッスボタン」、ボタンに穴かがりを施す、今となっては当たり前のディテール。
ナポリ仕立て特有の胸のバルカポケット。
バルカポケットはポケットのラインが船底のようにカーブを描いたものですが、体格の良いイタリア人男性が着用した時、自然に美しく見えるために改良されたものです。
もう一つのナポリ仕立ての代表的ディテール、マニカ・カミーチャは、袖口の付け根部分に繊細なギャザーを施したものです。
これらのディテールが世界3大スーツと呼ばれるまでになるイタリアンスーツの「ナポリ仕立て」というジャンルを打ち立て今日に至っているため、ヴィンツェンツォ・アットリーニは「伝説のサルトリア」と言われています。
そして、その後を受け継いだのが、チェザーレ・アットリーニです。
彼は父親から受け継いだ確かな腕とともに、ビジネスの才能にも恵まれていました。
伝統的な手法はそのままに、ナポリの腕のいい職人を集めて工房を作り、服作りを開始したそのスタイルが広まり、現在のイタリアのサルトリアで継承されている体制です。
チェザーレはキートンやイザイアをモデリストとして成功させ、その後、自身の名を冠したオリジナルブランドを立ち上げました。
現在では真のイタリアンスーツ好きが行き着く最終的なブランドとして、世界中のファンを魅了しています。
アットリーニのスーツ
チェザーレ・アットリーニの1番の魅力は、何と言っても手縫いでしか出せない着心地の良さに尽きます。
ふんわりと寄せた柔らかなマニカ・カミーチャ、袖をストンと下ろした時にできる、袖の緩やかなカーブ。
また、流行に左右されないゴージラインや緩やかに絞られたウエストなども、全て着た人が一番美しく見えるシルエットに仕立てられます。
また、エレガントを表現するために隠れた場所にまで心を砕き、細かな配慮を怠らない丁寧さも、画一的な機械では限界のある、人間的な血の通ったスーツ作りに反映されています。
現在でもイタリアの小さな工房で作られていますが、日本では銀座のトゥモローランドや六本木のユナイテッド・アローズで購入することができ、またオーダー会も開催されるので足を運んでみるのもいいでしょう。
世界最高峰の既製服「ブリオーニ」
「007」のジェームスボンドが着用していたことであまりにも有名なブリオーニのスーツ。
世界最高峰の既製服と言われるスーツブランドです。
ブリオーニは1945年、ローマにて創業されました。
創業当初からほどなくして、映画スターや財界人、国家元首までを顧客にもつ一流ラグジュアリーブランドとして成長を遂げています。
1952年には、現在もフィレンツェで開催されるピッティ・ウォモの原型となるピッティ宮殿のビアンカ広間でメンズ・ファッションショーを開催するなど、常に時代の最先端を走るブランドでした。
1959年には、イタリアンテーラリングの中心地であるアブルッツォ州・ペンネに工場を構えて最先端技術を駆使し、プレタポルテ・クチュールを展開しました。
ブリオーニは古くからハリウッドの映画産業とも深い関わりがあり、1960年に公開されたイタリア映画「甘い生活」以来の付き合いとなっています。
また、ブリオーニの縫製技術を広めるため、ペンネに縫製学校も設立しました。
世界的に有名なイタリアンスーツですが、実はイタリアの中でもスタイルが4つあり、その特徴も生まれた土地やブランドによって異なります。
イタリアンスーツのスタイルは、ミラノ風、フィレンツェ風、ローマ風、ナポリ風。
ブリオーニはその中で、ローマンスタイルの代表と言われるブランドで、イギリスのスーツのような威厳あるスタイルを残しつつも、軽やかでリラックス感のあることが特徴です。
軽やかな着心地を追求したナポリ風に比べると、洗練されたシルエットを持っています。
ブリオーニのスーツ
丸みを帯びた柔らかなラペルが特徴的なブリオーニのスーツ。
肩のラインもナチュラルでモダンです。
全体的にスマートで上品な印象があり、都会的な面持ちの着こなしができます。
ブリオーニのスーツは主張しすぎないスマートなラペルと、二つボタン、そして品質の良さと技術力の高さです。
オーダーメイドのような手法をそのまま既製服に落とし込み、機械メイドとハンドメイドを絶妙に融合させることにより、まるでオーダーメイドのような仕上がりを実現しています。
まっすぐなラインは機械メイド、手間をかけたい縁取りのステッチはハンドメイド、というふうに。
ブリオーニは、現在ではどのブランドも取り入れている、ハンドメイドと機械メイドを融合させた、パイオニア的存在だったのです。
そうして合理的かつ繊細に作られた極上のスーツは、まさに一流というにふさわしいもの。
ブリオーニが似合うようになれば、あなた自身も一流の証です。
サヴィル・ロウの老舗「ギーブス&ホークス」
ここで、メンズスーツの源流、英国スーツもご紹介します。
メンズウェアの聖地サヴィル・ロウに拠点を持ち、英国王室を始めウィンストン・チャーチルなどにも愛された、「ギーブス&ホークス」。
英国海軍お抱えのテイラーとして200年以上にわたり活躍していたギーブスと、英国陸軍にユニフォームを作っていたホークスが1975年に合併してできたブランドです。
また、英国の陸・海・空軍御用達であるだけでなく、パブリックスクールの制服も製作しており、英国人に最も親しまれているブランドとされています。
日本では、2006年にオープンした表参道ヒルズ店で購入できるほか、二子玉川にある「ブルーシアーズ」と東京・青山にある「テイラー&カッター」は、ギーブス&ホークスの認定カッターがオープンしているショップで、ギーブス&ホークススタイルのスーツを作ることができます。
ギーブス&ホークスのスーツ
カチッとしたショールが特徴の、正統派英国スーツです。
スーツ発祥の地イギリスの伝統的な作りを受け継いだ英国スーツは、スーツを追求する紳士にとっての憧れ。
清潔感のあるカッティングと堅牢さの中にエレガントさも併せ持つ、落ち着いたクラシカルな英国スーツはハンドメイドならでは。
イタリアンスーツの源流である英国スーツも負けてはいません。
クラシックとモダンが同居する「コルネリアーニ」
ブレのない安定感に定評のある、コルネリアーニ。
1930年創立の歴史あるファクトリーブランドです。
「伝統の職人技に最新技術を融合した至福の着心地」をコンセプトとしており、クオリティとプライスのバランスのとれたスーツがトップビジネスマンから高い支持を得ています。
また、最新テクノロジーを駆使した耐水・防シワ・防汚加工を施した素材を使用するなど、実用的かつ機能的なスーツを提案しているコルネリアーニ。
着用時の快適さも追求しており、軽くて柔らかなスーツも評判です。
コルネリアーニのスーツ
イタリアンスーツ独特のリラックス感のある、春夏用のスーツです。
クラシックな中にもモダンな雰囲気があるのが人気の秘密。
クラシカルなダブルブレストのスーツ。
ダブルでもシルエットがタイトなため、重くなりすぎず程よい雰囲気を醸し出しています。
ワンランク上の一流スーツ|まとめ
グローバル社会で欧米人と肩を並べ、対等に渡り合える一流ブランドを5つあげてみました。
クラシカルなスーツも流行して来ていますが、一流と名のつくスーツブランドの上位に鎮座するのは、やはりイタリアンブランドが多いようです。
・王者の風格「エルメネジルド・ゼニア」
・ビスポークの「チェザーレ・アットリーニ」
・世界最高峰の既製服「ブリオーニ」
・サヴィル・ロウの老舗「ギーブス&ホークス」
・クラシックとモダンが同居する「コルネリアーニ」
それぞれ個性豊かなブランドばかりです。
どこに着て行っても引けを取らない、ワンランク上の一流スーツで、思う存分グローバルに活躍してください。