洒落者なのにオシャレをしていないかのようにさりげなく振る舞う・・・クラシコイタリア=ナポリのスーツを纏うイタリア紳士のそんなスタイルに憧れて、イタリアのブランドを愛する人が後を絶ちません。
そして、そんなナポリスーツの原点が、アットリーニです。
ナポリのスーツを語る上で、アットリーニを抜きにすることができないのは、ご承知の通りです。
イタリアンスーツやジャケットを着るなら、一着はアットリーニを持っていたいもの。
もしあなたがこれからアットリーニを手にするのなら、アットリーニについての知識を少し深めてから購入することをお勧めします。
アットリーニがナポリ仕立ての原点だということは知っていても、その成り立ちまで知っている人はあまりいません。
もしこのブランドの成り立ちを知れば、同じ着るのでも愛着の度合いがかなり違ってきますよ。
クラシコイタリアを作ったアットリーニの歴史
元々イタリアの中でもナポリはファッションにおいて最先端の都市でした。
イタリアのスーツの起源は、フランスの既製服(プレタポルテ)の下請けが多く、さらにイタリアに多く別荘を持っていたイギリス貴族からのオーダーも請け負っていたため、ハンドメイドが主流になったとされています。
フランスの先進的で優雅なデザインと、イギリスの伝統的な芯の入った重厚なスーツ作りが、イタリアンスーツの原点です。
1930年代、イギリスのスタイルとフランスなどによる影響で、エレガントなドレススタイルが流行し、中でも英国紳士と全く同じ服装をすることが、その頃のナポリの最先端ファッションでした。
しかし、イギリスとイタリア南部のナポリの気候は著しく異なります。
その頃ナポリには、すでに多くの優れたサルトリアが存在しましたが、その中でもチェザレ・アットリーニの父である、ビンチェンツォ・アットリーニはその素晴らしい創造力と直感において、ナポリの紳士に合うようなジャケットをデザインしました。
それは今までとは考えられないほど革新的で、シャツと同じくらいの柔らかさを持ち、立体的で軽量なジャケットでした。
さらに、イタリア人特有の審美眼を持つ彼から生まれたディテールの数々は、今日クラシコイタリアのスタンダードとして知られる、バルカポケットやキッスボタンなのです。
バルカポケットはこれまで直線的なデザインだった胸ポケットのラインを、船底のように緩やかなカーブにしたものですが、これは実際に着用した時に一番美しい形になるように設計されたもの。
また、マニカ・カミーチャ(雨振り袖)と呼ばれる肩にしわを寄せて作る独特な手法も、着用した時に自然に腕が落ち、無理のない動きと美しさが出るように考えられたものです。
さらに、全てのボタンに穴かがりを施す、今日では当たり前となったディテールも、彼が考案したもの。
このように、ビンチェンツォ・アットリーニによる革命によって、イギリス伝統のスーツからナポリスタイルと呼ばれる新しいスーツの形態が生まれました。
それがきっかけとなり、多くのサルトリア達の手によって個性豊かなスーツが作り出され、ナポリのスーツは世界3大スーツと呼ばれるまでになったのです。
その偉大な巨匠ヴィンツェンツォの後を継いだのが、チェザレ・アットリーニでした。
チェザレ・アットリーニは仕立ての才能があるだけでなく、ビジネスの才能にも恵まれていました。
これまでの父の残した伝統的な手法はそのままに、ナポリの腕の立つサルトを集めて、服作りを開始します。
これが現在でも踏襲されている、イタリア・サルトリアの体制なのです。
チェザレはキートンやイザイアを成功させたのち、自身のブランド、チェザレ・アットリーニを立ち上げます。
そして、キートンと並んでナポリのスタイルを世界最高峰のスーツまで押し上げました。
現在アットリーニは長男のマッシミリアーノ・アットリーニが社長を務め、副社長には次男のジュゼッペ・アットリーニがついています。
しかし、チェザレ・アットリーニは80歳を超える今もなお、積極的に工房に赴いて、指導を続けているといいます。
イタリアの粋が詰まったアットリーニのジャケット
チェザレ・アットリーニは世界中にその名を知られるほど知名度が高いブランドですが、その知名度に反してそのファクトリーはわずか100名ほどの小さなもの。
ちなみにキートンのファクトリーはおよそ350名、ブリオーニが1500名ほどと言うので、いかにアットリーニの工房がこじんまりしているかが伺い知れます。
チェザレ・アットリーニがあくまでサルトリアであるというこだわりを持っていることが伝わってくるようですね。
チェザレ・アットリーニの魅力といえば、手縫いを中心とした仕立てです。
アットリーニの手縫いのシンボルとも言えるのが、ラペルのダブルステッチ。
手縫い風機械のAMFステッチミシンではできない、ひと針ひと針人の手で差し込まれた丁寧な処理です。
また、着用した時に立体的になるよう設計されているため、ハンガーに吊るした状態ではシワが非常に多く感じられるかもしれません。
しかし、一度袖を通せば、ふんわりと立体的なラペル、肩や腕の丸みに沿うバランスの良い袖、流行に左右されないゴージの位置など納得のいくものばかりでしょう。
また、ウエストは最新シルエットのようにタイトなものではありません。
しかし、着た人がゆったりと感じられる程度には緩やかに絞られ、体のラインを美しく見せてくれます。
チェザレ・アットリーニのジャケットは、軽快さを保ちながらも、着用した時のシルエットを重視するため、昨今の一枚仕立てのアンコンジャケットとは作りが違います。
あくまで立体的に、体のラインに沿うように、細かな部位に心を配って作られています。
それは、決して個性を優先するためのデザインではなく、全て必然から来ているもの。
例えば、バルカポケットはただユニークさを表現したかったからではなく、前身頃を立体的にするとポケットも曲線である方が美しく自然に見えるからです。
安価なジャケットの肩パッドの裏を見たことがありますか?
ひどいものではわずか数箇所で申し訳程度に縫い付けられていたりします。
しかし、アットリーニのパッドは、ずれないように全面を手縫いで縫いつけています。
マニカ・カミーチャも然り。
薄いパッドと波打った袖の始まりは、理由があるのです。
さらにラペル裏に施された、芯と生地を縫い合わせる「八刺し」は、決して機械ではできない技術。
手縫いでの八刺しは生地と芯の間にわずかな空間を作ることでバネの役割をし、ずれを調整することによって、崩れにくく、かつシワが出来にくくなります。
着用した時のシルエット、着心地の良さ、そして機能面だけではなくエレガンスを表現するための様々な裏の工夫が、チェザレ・アットリーニの真髄とも言えるでしょう。
注目すべきアットリーニの手縫いシャツ
アットリーニはジャケットやスーツがとても有名ですが、合わせるシャツをお忘れではありませんか?
素晴らしい品のある手縫いのジャケットを着るからには、中に合わせるシャツにもこだわりたいもの。
それを叶えてくれるのが、アットリーニのハンドメイドのシャツです。
ナポリ仕立てのハンドメイドジャケットは世界中に知られるようになりましたが、だからこそ、それに見合うシャツも作る必要があります。
アットリーニのシャツも、これまた一筋縄ではいかない素晴らしいハンドメイドシャツです。
ミシンメイドのシャツは、どんなに人間の体に合わせて複雑に縫ったとしても、縫い目が均等であり、その分どうしても硬さが生じてしまいます。
その点ハンドメイドなら、縫い目が一律でないため、どこまでも人間の体の動きに沿うことができます。
アットリーニのシャツは波打つようなシワが寄っていたり、場所によっては縫い目が甘かったりするそうです。
しかしそれは、人間の動きにシャツが合わせられるように、あえてしている工夫。
実際に着て動いてみて、改良を重ねた結果とのこと。
マシンメイドでは出せない柔らかさは、人間の血が通っているような温かみがあります。
ハンドメイドのシャツは、チェザレ・アットリーニの専売特許ではなく、有名なところではバルバやルイジ・ボレッリなどがあります。
どちらの品質も最高峰と呼ぶにふさわしいドレスシャツです。
しかし、ジャケットとの相性を考えた時・・・アットリーニのジャケットとの相性を見た時に、一番に相性の良いシャツはどのブランドでしょう。
これは他のブランドにも言えることですが、自社ブランドのスーツやジャケットをより引き立てるよう作られたシャツは、やはり自社ブランドのシャツだと思いませんか。
そう考えると、アットリーニのジャケットとともに着るために考えられたアットリーニのシャツが一番自然に見えるのは、当然のことですね。
世の中には素晴らしい技術を持ったシャツブランドがたくさんありますが、多分その大半は、シャツ一枚で着用した時の美しさを追求しているはず。
もちろんジャケットを羽織った時の襟の美しさや生地も計算しているとは思いますが、アットリーニを意識しているわけではありませんよね。
そんなわけで、アットリーニのジャケットを着るのであれば、ぜひアットリーニのシャツも試してみてほしいのです。
圧倒的なアットリーニのコレクション
それではアットリーニのコレクションをご紹介します。
2016年秋冬コレクションから|スーツ
ナポリの紳士が好んでよく着用するウィンドウペーン。
今季のアットリーニのホームページのトップを飾る画像は、それを裏付けるようなスリーピースです。
明るめのネイビーにブルーのライン。
決して派手ではありませんが、どこか華やかさを感じるスーツです。
こちらはダブルブレストのラペル付きジレとシングルブレストのジャケットのスリーピース。
日本ではあまり見ない組み合わせですが、女性としてはこういうクラシカルな装いをスマートに着こなしてほしいものです。
ダブルブレストのスーツ。
ピークラペルが格調高く、ストライプの生地と良くマッチしていますね。
グレンチェックのスーツ。
グレンチェックはスコットランド発祥の模様で、より伝統的な雰囲気を演出できます。
こちらは落ち着いた濃いネイビーのスリーピース。
濃い色のスーツほど、威厳や重厚感を感じられますね。
色柄の派手なネクタイを合わせて、どこかユーモラスで洒落感を出すのがイタリア紳士の基本。
2016年秋冬コレクションから|ジャケット
ビリジアングリーンにベージュとワインカラーの細いラインを組み合わせたジャケット。
秋を思わせる色合いが、ウールの生地感ととても合っていますよね。
落ち着いた赤のベースに黒とブルーのラインの入った、タッタソールチェックのカジュアルなジャケット。
ジーンズなどのカジュアルなアイテムを組み合わせても、ネクタイを締めることでラフになりすぎず、大人のカジュアルスタイルになります。
派手目のジャケットを上手に着こなすコツは、ジャケットに使われている色を一色選び、他のアイテムに持ってくること。
この場合はブルーを共通色にすることでさりげなく統一感を出しています。
グリーンとネイビーの爽やかなジャケット。
細かなチェックが表情豊かですね。
大きなチェックが特徴的なジャケット。
チェックは日本人が着ると、ともすると若々しくなりすぎてしまうのですが、合わせるアイテムや着こなしによって重厚感や落ち着いた雰囲気を醸しだせます。
グレーとベージュのチェックのジャケット。
ベージュの面積を多めにしたコーディネートが上品な印象です。
ラペルの返しが品質の良さを表しています。
濃いこげ茶にブルーのラインが入ったジャケット。
濃いこげ茶は全体的に暗いトーンになりがちですが、薄い色のニットを合わせることで柔らかさと軽さを出しています。
落ち着いたブラウン系チェックのジャケット。
なんとも使い勝手が良さそうな色柄ですね。
存在感のあるジャケットは一着持っているととても重宝します。
裾がコートのようにカットされたデザインのジャケット。
胸元のポケットのフラップを見ても、ジャケットというよりコートのような感覚で着るのが正解かもしれません。
2016年秋冬コレクションから|コート
ダブルブレストのクラシカルなロングコートです。
ビジネスシーンに一着は持っていたい、定番のチェスターコート。
イギリスの伝統を守るチェザレ・アットリーニのチェスターコートは憧れです。
コートと呼ぶにはあまりにも繊細な作りのロングコート。
見ただけで、その上質さが伝わってくるようです。
しなやかで自然なシワが美しいライトグレーのコート。
ウールなのに厚ぼったさを感じさせない生地感は、ぜひ実際に手にとって確かめたくなるほど。
おしゃれなカジュアル感たっぷりのコート。
二着目のコートにほしいデザインです。
気軽に羽織れるハーフコートはジャケパンにもぴったり。
シックなネイビーはどんなコーディネートにもしっくりと似合います。
ダブルブレストのロングコート。
画像ではちょっとわかりにくいのですが、生地は斜めの細いストライプの織りです。
オフの日のカジュアルシーンにも、オンの日のビジネスシーンにも使えそうな、万能コート。
2016年秋冬コレクションから|その他のアイテム
明るめのワインカラーのスウェードジャケットに、ケーブル編みの生成り色のカーディガン。
カーディガンのボタンがついているフロントの補強生地もおしゃれですね。
濃い色のアウターには薄い色のインでメリハリを。
これを覚えておくだけで、ワンランク上のおしゃれが楽しめますね。
厚めのカーディガンをジャケットのように着こなしたコーディネート。
インに着ているのは薄いブルゾンでしょうか。
渋目の色は地味になりがちですが、着こなし次第でダンディになれるお手本のようなコーディネートですね。
白いカーディガンは、つい着こなしにも力が入ってしまうものですが、ネイビーやグレーなど、定番色と合わせると失敗しません。
ここでもやはり大事なのはメリハリ。
さりげなくざっくりと着て、大人の余裕を醸し出したいものです。
英国スタイルにカジュアルを落とし込んだ、アウター。
テーラードスタイルのダウンジャケットは、意外と見つからないですよね。
あくまで薄く、テーラードコートのように着こなせるカジュアルジャケットです。
アットリーニまとめ
アットリーニの世界、いかがでしたか?
知れば知るほど欲しくてたまらなくなってしまったのではないでしょうか。
アットリーニはバルカ・ポケットやマニカ・カミーチャ、キッスボタンなど、クラシコイタリア特有と言われるディテールのほとんどを生み出した伝説のサルトリアです。
もちろん、それを世に広めたのは、昔からナポリに存在した数々の優秀なサルトリアに他なりません。
優秀なサルトが周りにいたからこそ現在のチェザレ・アットリーニがあると行っても過言ではないでしょう。
アットリーニのジャケットは平面ではなく、立体的で着る人の着心地や美しさを追求したもの。
そして、英国からの伝統的なテイストはそのままに、ナポリの気候に合うように薄く軽やかに仕立てることに成功しました。
また、ハンドメイドのシャツもアットリーニのジャケットに合うように、人の動きに柔軟に対応できる柔らかなシャツです。
また、2016年秋冬に発表されたアットリーニのラインナップは、
・ナポリの紳士が好んで着用するウィンドウペーンのスリーピース
・ダブルブレストのジレ
・ピークドラペルのダブルブレストスーツ
・グレンチェックのシングルスーツ
・重厚感漂うネイビーのスリーピース
・秋色ビリジアングリーンのウィンドウペーンジャケット
・タッタソールチェックのカジュアルジャケット
・グレー&ベージュの上品なジャケット
・お洒落なジャケットコート
・クラシカルなブルブレストのチェスターコート
・繊細なロングコート
・美しいライトグレーのウールコート
・カジュアル感たっぷりなチェックのコート
・シックなネイビーハーフコート
・オンオフ使えるダブルブレストコート
・休日に着たいワインカラーのジャケット&生成りカーディガン
・ざっくりと決めたいホワイトカーディガン
・テーラードスタイルのダウンジャケット
をご覧いただきました。
ナポリ仕立てのルーツはアットリーニから始まったということがわかっていただけたと思います。
その上でナポリのジャケットのディテールを知った今、あなたはもうイタリアンスーツやジャケットを選ぶときの見方が変わってくるはずです。