はじめてのフルオーダーの場合、スーツ一式でなかなかの価格になることから、ついついシャツやシューズは既製品を合わせようとしてしまうもの。
しかし、ちょっと想像してみてほしいのですが、身体にフィットしてラインをきれいに見せてくれる、そんなフィッターの手腕が発揮されたスーツに、身体にフィットしておらず、窮屈かダボダボのシャツが似合うでしょうか・・・。
答えは、火を見るよりも明らかで、似合わない、ですよね。
ですからスーツを仕立てるならば合わせてシャツも仕立てることをオススメします。
シャツは既製品で大丈夫でしょ?と思われる方にこそ、シャツのフィット感、また良い生地を知ってほしいと思います。
私の経験上、スーツの1割程度の価格で仕立てることができますから、フルオーダーの入門編としてもいいかもしれません。
もちろん、シャツだけフルオーダーでジャケットは既製品だと、ちょっと残念な感じになってしまいますので、ぜひセットでオーダーしてくださればと思いますが・・・
では、紹介しましょう。
シャツこそフルオーダーしたい理由
一度フルオーダーのスーツに身をまとったからこそ痛感しているのですが、フルオーダーのスーツにはフルオーダーのシャツしか似合いません。正直、コレ一択です。
もちろん、既製品であってもサイズがフィットする場合は、記事を選びさえすれば既成のシャツでもいいのですが、既製品とは「大体の人にだいたいフィットするようにつくっている」から既製品なのであって、ひとりひとりの身体にジャストフィットするならば、フルオーダーを置いて選択肢はありません。
パターンオーダーでもだいたい合わせることはできますが、もともとの方が決められている以上、腕の曲げ具合や上げ伸ばしを加味した採寸、仕立ては難しいのです。
フルオーダーの醍醐味は、オーダーする度に身体にフィットするようになっていくことだと私は考えておりまして、最初から「これは!」とフィットすることは、おそらくないと思います(それでもはじめてのフルオーダーならば唸ると思いますが)。
なぜ、オーダーする度に身体にフィットするのかというと、フィッターが身体の特徴を記憶していくからです。
たとえば、腕を曲げ伸ばす際の動かし方、歩き方、座り方、足の組み方、ポケットに何を入れているのか、腕時計はするのかどうか。そして春夏秋冬に応じて、体型に変化はあるのか。
付き合い続けることではじめてわかることですが、サルトとの付き合いはこういうものであるからこそ、「王様の仕立て屋」ではないですが、自分自身専属のサルトになり、自分の見せ方を自分以上に知ってくれるわけですね。
特に、スーツやジャケットという外側をフルオーダーしたのであれば、中に着るシャツはとても重要です。
わずかな緩みや厚みでさえ、ジャケットの着心地に影響を与えるからです。
特に最近体験したフルオーダーのシャツとそうでないシャツとの違いは、袖の長さでして、フルオーダーのシャツのほうがつっぱらず、腕を回転させた際の可動域が大きいです。
腕をおろした状態ではジャケットの袖口からワイシャツが1センチか2センチほど顔を出し、ちょうどいいサイズだと思っていても、そのままでは腕を動かした際に突っ張ってしまう可能性もあります。可動域を考えての採寸をする必要があるのです。
フルオーダーのスーツをまとうということは、見た目の優雅さを演出するとともに、来た際の快適さも約束するものでなければなりません。
ということはどうしても、シャツもフルオーダーで仕立てる必要があるのです。
なんといっても、肌に直接触れるのはシャツですし、シャツは肌同然ですから。
生地(最初はフィッターのアドバイスを聞くのもあり)
受注会でシャツをオーダーする場合、まず決めていくのは使用する場面。クラシックなスーツに合わせるのか、カジュアルなジャケットに合わせるのか。
それに応じて襟の形や生地の種類、色など変わってきますし、フィッターもアドバイスしやすくなります。
どんなシーンでそのシャツを合わせるのか、なんとなくでもイメージしておくといいですね。
では生地を選びましょう、となるわけですが、正直なところよほど慣れていたり、好きでなかったりしないとシャツの生地選びはなかなか手ごわいかもしれません。
スーツと違い、イメージがつきにくい、というのがその理由です。そして生地の種類が多いことも。
こういう場合、自分で好きなものを選んでみるのもいいですが、フィッターにアドバイスを求めるほうがいいのではないかと私は思います。
私の場合は、見た目は自分よりも他者のほうがわかっている、というふうに考えていますので、基本的に利用場面を伝える以外、またよほど記事が気に入ったなどではない限り、フィッターのアドバイスに耳を傾けるようにしています。
シャツについても特にどんなものがいいのかわからなかったので、オーダーしたスーツに合うものを、とお願いしました。
それで選ばれたシャツ生地が、白とブルーのものひとつずつ。残念ながら生地メーカーは失念してしまったのですが、肌触りは柔らかく薄く、やや光沢のある生地です。
シャツの場合はシャツジャケット用のヴィンテージ生地もありますが、私の場合はバンチからのセレクトになりました。ナポリのサルト御用達の、HOLLAND & SHERRYだったかな・・・。
採寸(フィッターの経験値が活きる)
ナポリのサルトの場合、スーツやジャケットに関しては、採寸した数字をどういう風に裁断すれば美しくその人を引き立たせるのかを経験則で知っており、必要であれば肩や胸にボリュームを入れることもラインをキレイにするために行いますが、シャツの場合は肌に最も近い距離にありますから、コレは私見ではあるのですが、いかに「引くか」が大切になりそうな気がします。
ボリュームを付ける、のではなく、いかに身体に密着させるか、しかも、くっつきすぎず程よく空気を入れて。引き算の美学、ですね。
とくに、腕の上げ伸ばし時に動かす筋肉や関節は人によって微妙に異なってくるはずですから、それを計算に入れて採寸するのは、職人の技が試されるように思います。
肌に直接当たるのがシャツですし、生地は薄めですから、採寸の腕がもっとも問われる。
ある意味シャツこそ、サルトの腕前が問われるのかもしれません。
ナポリのサルトの場合、ジャケットやコートで1人の職人、シャツで1人の職人、パンツで1人の職人と、それぞれのプロフェッショナルによる仕事の合作です。ネクタイもつくるのであれば、もう1人の職人が加わることになります。
仮縫い
他のフルオーダー同様に、シャツも仮縫いがあります。ただしよほどの体型変化がない限りはスーツやジャケットとは異なり、仮縫いは一回だけです。
シャツの仮縫いはスーツやジャケットと異なり、別の記事を使っての仮縫いだったと記憶しています。おそらくですが、スーツのように仮縫いの生地を本縫いに活用することができないから、かもしれません。
仮縫い用の生地をまとい、針とチョークで詰める場所、余裕を持たせる場所をマークしていき、仮縫いの確認は終了。
スーツはシューズと異なり、実際の生地や革を使っているわけではないため、それほどの感動はないかもしれません(スーツの場合、実際の生地をまとうので、おおカッコイイ、などと思う人はおりますが、シャツの場合は淡々と、という感じでしょうか)。
納品
スーツやシューズと同じように、シャツも次回受注会の前にタイミングが合えば郵送してもらえます。
今回は2枚のシャツをオーダーしたのですが、硬めの箱に入れてくれ、キレイに折りたたまれて郵送してくださいました。
早速着てみると、これまでに体験したことのないほど柔らかな肌触りと着心地でして、既製品でありがちだった袖が長過ぎることも、パターンオーダーでありがちだった可動域が小さいことも、フルオーダーのシャツにはありませんでした。
今回の記事で仕立てたシャツは、2枚で12万円、1枚6万円ですね、コレも個人的にはなかなか経験したことのない価格ではありましたが、1万円から2万円する既製品と比べて身体が包み込まれる感があり、着心地がいいのでコストパフォーマンスの良さを感じています。
今では、フルオーダーのスーツを着なくとも、フルオーダーのシャツを着てパターンオーダーのジャケットを着て街へと出るほどです。パターンオーダーのジャケットならば、無理めに着てもいい雰囲気を醸し出してくれますから、だからこそシャツをまずはフルオーダーしてもいいかもしれません。
まとめ
フルオーダーの体験記として、今回はシャツを紹介しました。
正直なところ、最初こそシャツは既製品でいいか、と思ったのですが、つくってみるとシャツこそフルオーダーにした方がいいことに気づきます。
肌に密着すること、そして上半身の可動域を決めるのはシャツであること、だからこそ職人の腕が問われること、これらがその理由でしょうか。
シューズ同様、シャツも何枚かを使いまわす方がいいと勧められまして、そうでないと生地が傷んでしまうからです(当たり前といえば当たり前ですね)。クリーニングに出してもいいけれど、一般的にクリーニングは大量に洗い、汚れを落とさなければならないため、熱いお湯などを使うそうなのですがコレが生地にはあまりよろしくないのだそう。ですから「家で洗濯した方がいいですよ」とも勧められました。
シャツの画像は私のものを撮影していなかったため、イメージとしての画像になってしまいましたが・・・またの機会に、シャツの記事をもう一度紹介したいなぁ、とも考えています。
フルオーダーの入門編として、サルトとのやり取りを経験するという意味でも、シャツからフルオーダーしてみても、いいかもしれませんね。
はじめてのフルオーダーの役に立つことを、願っています。