機械式時計をお好みのあなたなら、
とりわけ機械式時計の心臓部「ムーブメント」にも
強いこだわりがあるのではないでしょうか?
世界最古の時計メーカー「ブランパン(BLANKPAIN)」は、
「丸型の機械式時計しか作らない」ことをうたっていて、
かつ「トゥールビヨン」などの複雑機構を得意とする、
機械式時計や「ムーブメント」に究極にこだわった時計ブランドです。
この記事では、そんな「ブランパン」の300年近い歴史を始め、
モータースポーツや海洋世界との関わり、マニュファクチュール、
そしてこだわりの「ムーブメント」とそれらを搭載した腕時計の
コレクションについてまとめました。
「ブランパン」に興味のある方はもちろん、人とは違う、
徹底的にこだわった機械式時計を探している方なども
購入のご参考にどうぞ。
ブランパン(BLANKPAIN)の歴史
世界最古の時計メーカー「ブランパン」は今から約300年前の18世紀前半、1735年にスイス人のジャン・ジャック・ブランパンにより創業されました。
ジャン・ジャック・ブランパンは現ベルン州ジュラ地方のヴィルレ村に最初の工房を構えると、わずか数年で大成功を収めました。
19世紀に入った1815年、ジャン・ジャック・ブランパンのひ孫に当たる、フレデリック・ルイ・ブランパンによって手作業だった工房が近代化され、量産を可能とする製造方法へ変わりました。
この時期フレデリック・ルイ・ブランパンは、時計の動力部に組み込まれていて、一定の速さで歯車を回転させるための仕組みである「脱進機」を、「シリンダー脱進機」から「アンクル脱進機」に替えることで、時計製造業界の変革に多大な貢献を果たしました。
その結果「ブランパン」は19世紀中頃には地元ヴィルレで、時計メーカーとしての地位を確立しました。
1865年には水力発電による電力供給を可能とするために、スーズ川のそばに2階建ての工場を建て、さらなる近代化を果たしました。
20世紀に入った1926年には、時計職人ジョン・ハーウッドとの共同開発により、世界初の自動巻腕時計の商品化に成功しました。
それから4年後の1930年に、さらに小型化された「ムーブメント」を搭載した腕時計「ロールス」を発表しました。
このモデルは世界初の女性用自動巻腕時計となりました。
1932年、フレデリック・エミル・ブランパンの死去により、2世紀以上に渡って続いてきた家族経営が途絶えてしまいました。
その翌年1933年に、フレデリック・エミル・ブランパンのアシスタントだった、ベティ・フィスターとアンドレ・レアルが会社を買い取り、社名が「レイヴィル‐ブランパン」に変わりましたが、時計メーカー「ブランパン」のスタイルは引き継がれました。
その後、ベティ・フィスターの甥であるジャン・ジャック・フィスターが経営に加わり、会社はさらなる飛躍を遂げました。
1953年には、フランス海軍の要望により開発されたモデル「フィフティ ファゾムス」を発表しました。
この時計は、海中で軍事活動を行う「フロッグマン部隊」の共同創設者で、フランス海軍士官のロバート・マルビエと海軍中尉のクロード・リフォーが、ジャン・ジャック・フィスター依頼したことによって開発されました。
そしてこのモデルは、海洋学者でフランス海軍に所属していたジャック・イヴ・クストーにも使われ、その信頼性の高さから「ダイバーズウォッチ」の基準となりました。
それから3年後の1956年には、当時世界最小だった丸型自動巻ムーブメントを搭載したモデル「レディバード」を発表し、さらなる成功を収めました。
1950年代の終り、「レイヴィル‐ブランパン」は「オメガ」などのブランドが加入している「SSIH(スイス時計産業組合)」の傘下に入り、大量生産体制となりました。
1970年代に入りクォーツ時計が発売され、機械式時計の需要が激減したことによって、アメリカへの輸出量が減少し、「SSIH」は生産量を大幅に減らさなければならなくなりました。
そして1983年に「SSIH」は「レイヴィル‐ブランパン」を売却しました。
新会社はスイス時計産業の中心地として知られるジュウ渓谷のル・ブラッシュに製造拠点を移し、社名も「ブランパン」に戻りました。
新生「ブランパン」は2世紀以上に渡り培ってきたノウハウを活かし、非常に複雑な機構を持つ腕時計の開発に取り組み始め、その成果がモデル「1735」にもたらされました。
このモデルは「ミニッツリピーター」、「トゥールビヨン」、「パーペチュアルカレンダー」、「ムーンフェイズ」などの複雑機構を一つに収めた、当時世界で最も複雑な時計で、熟練の時計
職人でもこの「ムーブメント」の組み立てに1年かかるほど組立が困難なものでした。
21世紀に入った2002年、マーク A.ハイエックが会長兼CEOに就任し、現在に至っています。
近年では特に2008年の「カルーセル」復刻が注目を浴びました。
「カルーセル」は1世紀以上前の複雑機構で、「ブランパン」によって世界で初めて腕時計に搭載されました。
その後もモデル「フィフティ ファゾムス」の復刻、前衛的なデザインの「L-エボリューション」など、魅力的な腕時計を発表し続けています。
2010年には、「ブランパン」に「ムーブメント」などの部品を供給していた「フレデリック・ピゲ社」を統合し、新たな生産拠点がスタートしています。
ブランパン(BLANKPAIN)の活動
「ブランパン」はモータースポーツとの関わりが深いブランドです。
1970年代に日本で起きたスーパーカーブームの一役を担っていた「ランボルギーニ・カウンタック」で知られる、イタリア「ランボルギーニ社」のパートナーになっています。
2009年からカーレース「ランボルギーニ・ブランパン・スーパー・トロフェオ」のタイトルスポンサーになり、2010年からは市販車ベースのレース車両で競われるカーレース「FIA GT世界選手権」の公式時計も務めています。
また、「ブランパン」は海洋世界との関わりも深いブランドです。
前述の通り、1950年にフランス海軍の要望により開発され、「ダイバーズウォッチ」の基準にまでなったモデル「フィフティ ファゾムス」を始め、世界的なレジャーヨットの見本市「モナコヨットショー」などのパートナーも務めています。
さらに「ブランパン」は、ナショナルジオグラフィック誌および、自然のまま手付かずとなっている海を見つけて、研究・保護することを目的としたプロジェクト「Pristine Seas Expeditions(汚染されていない海の探検)」とパートナーシップを結んでいる世界唯一の会社でもあります。
また、「ブランパン」は2007年から、無呼吸潜水の世界記録保持者でイタリア人のジャンルッカ・ジェノーニに協力しています。
2010年10月に無呼吸状態で152メートルの潜水に成功したジャンルッカ・ジェノーニは、モデル「500ファゾムス」をつけて世界記録を樹立しました。
ちなみにこのモデルは水深1000メートルの防水機能を備えています。
他には国際的な料理コンクール「ボキューズドール」との連携や、世界的なホテル協会の「リーディングホテルズ・オブ・ザ・ワールド」との関係などでも知られています。
ブランパン(BLANKPAIN)のマニュファクチュール
「ブランパン」のマニュファクチュール(生産拠点)は、スイスのジュウ渓谷にある小さな村ル・ブラッシュやル・サンティエにあります。
「ブランパン」の腕時計は熟練の技を持つ時計職人によって手作業で作られています。
腕時計の開発工程としては、設計エンジニアによって設計されたプランに基づき、技術者が試作品を作り、経年変化に対する疲労検査や、温度や磁気への耐性を調べる耐性検査などを始めとする全ての検査を通った試作品だけが「ブランパン」の「ムーブメント」に加えられます。
「ブランパン」の腕時計はモデルごとにケース、ストラップ、文字盤、針が開発されています。
また「ブランパン」は世界的な特許を複数に渡って取得しており、時計の心臓部である「ムーブメント」を形成する部品のほとんどを自社で製造しています。
「ブランパン」は道具に対するこだわりも強く、部品の切断に使うプレスユニットの設計やメンテナンスに関して、独自にスペシャリストを育てているほか、現在市場に流通していないような特殊な道具を製作しています。
腕時計の装飾や仕上げは、ストーン、ヤスリ、研磨具などの伝統的な道具を使って手作業で行われています。
エングレーブ(金属彫刻)の作業は、精密機械を全く使うことなく、1本の小刀だけを使って手作業で行われます。
「ブランパン」は、「ムーブメント」の製造を完全に手作業で行っている、数少ない時計メーカーの1つです。
こうして「ムーブメント」がケースに収められると、様々なテストが行われ、時計1つ1つの仕上がりが完璧にチェックされます。
ブランパン(BLANKPAIN)のムーブメント
「ブランパン」は2006年以降2014年までの9年間で、ル・ブラッシュのマニュファクチュール(製造拠点)から32の「ムーブメント」を発表しています。
「ブランパン」は「丸型の機械式時計しか作らない」というこだわりを持ったブランドです。
特に1991年の発表当時、時計業界を震撼させた歴史に名を残すモデル「1735」に代表される、「トゥールビヨン」、「ミニッツリピーター」、「パーペチュアルカレンダー」、「スプリットセコンド・クロノグラフ」など複数の複雑機構を搭載した「グランド・コンプリケーション」と呼ばれる時計を製作できる数少ないメーカーの一つとして有名です。
そんな複雑機構を得意とする「ブランパン」の中でも、2008年から2012年まで在籍したイタリア出身の天才時計師ヴィンセント・カラブレーゼが研究と開発に携わった複雑機構が「ワンミニットフライングカルーセル」です。
「カルーセル」とは「トゥールビヨン」同様、腕時計を着けている人の腕の動きによる重力の影響を軽減し、時計の精度を高めるための機構です。
「カルーセル」とは「回転木馬」の意味で、「テンプ(調速機)」と「受け」が組み込まれた「プレート」が回転する様が「回転木馬」のように見えることからその名がつきました。
「カルーセル」は1892年に時計師のバーン・ボニクセンが発明した機構ですが、部品点数が多いなどの理由で、主流となることはありませんでしたが、発明から100年以上経った2008年に、天才時計師ヴィンセント・カラブレーゼによって「ブランパン」が商品化に成功しました。
さらに発明当時の「カルーセル」は、前述の「プレート」が1回転するのに数十分かかっていたのですが、「ブランパン」が発表した「ワンミニットフライングカルーセル」は、それを1分間ジャストで行う画期的なものでした。
「ワンミニットフライングカルーセル」を搭載した「ムーブメント」は2008年発表の「キャリバー225」を始め、さらに「ムーンフェイズ」も搭載した2014年発表の「キャリバー225L」などがあります。
ブランパン(BLANKPAIN)の腕時計
ル・ブラッシュ
モデル:2322-3631-55B TOURBILLON CARROUSEL
搭載ムーブメント:キャリバー 2322 手巻
機能:日付、パワーリザーブ表示、30m防水
ケース:18Kレッドゴールド、サファイアバック
サイズ:ケース厚 11.94mm ケース直径 44.6mm
搭載ムーブメント:キャリバー 2322 手巻
機能:日付、パワーリザーブ表示、30m防水
ケース:18Kレッドゴールド、サファイアバック
サイズ:ケース厚 11.94mm ケース直径 44.6mm
複雑機構の「トゥールビヨン」と「カルーセル」の両方を搭載しているのが特徴です。
ル・ブラッシュとはスイスの時計製造の中心地ジュウ渓谷にある村の名前で、「ブランパン」の製造拠点となっています。
歴史的モデル「1735」からインスピレーションを得て作られた、複雑時計の極みとも言えるコレクションです。
ヴィルレ
モデル:6659-3631-55B QUANTIÈME PERPÉTUEL 8 JOURS
搭載ムーブメント:キャリバー 5939A 自動巻
機能:閏年表示、スモールセコンド、ムーンフェイズ、30m防水
ケース:18Kレッドゴールド、サファイアバック
サイズ:ケース厚 13.5mm ケース直径 42mm
搭載ムーブメント:キャリバー 5939A 自動巻
機能:閏年表示、スモールセコンド、ムーンフェイズ、30m防水
ケース:18Kレッドゴールド、サファイアバック
サイズ:ケース厚 13.5mm ケース直径 42mm
「ブランパン」発祥の地「ヴィルレ」がコレクション名の由来となっていて、ダブルステップ・ ベゼルのケースなど、「ブランパン」のルーツを感じさせるクラシカルな趣が特徴です。
「カルーセル ムーンフェイズ」を搭載したモデルなど、「ムーブメント」のこだわりも「ブランパン」ならではのものとなっています。
レマン
モデル:2850B-1130A-64B GRANDE DATE «AQUA LUNG»
搭載ムーブメント:キャリバー 6950 自動巻
機能:日付、100m防水
ケース:サテン仕上げのスティール、サファイアバック
サイズ:ケース厚 11.4mm ケース直径 40mm
搭載ムーブメント:キャリバー 6950 自動巻
機能:日付、100m防水
ケース:サテン仕上げのスティール、サファイアバック
サイズ:ケース厚 11.4mm ケース直径 40mm
西ヨーロッパ最大の湖「レマン湖」がコレクション名の由来となっていて、クラシカルな雰囲気と現代的で洗練されたスポーティーさが特徴です。
「アラーム」、「ダブルタイムゾーン」、「週表示」などの旅行に便利な機能が搭載されたモデルもラインナップされているコレクションです。
フィフティ ファゾムス
モデル:5000-1110-70B BATHYSCAPHE
搭載ムーブメント:キャリバー 1315 自動巻
機能:日付、300m防水
ケース:サテン仕上げのスティール、サファイアバック
サイズ:ケース厚 13.4mm ケース直径 43mm
搭載ムーブメント:キャリバー 1315 自動巻
機能:日付、300m防水
ケース:サテン仕上げのスティール、サファイアバック
サイズ:ケース厚 13.4mm ケース直径 43mm
1953年にフランス海軍の依頼で開発した「ブランパン」初の「ダイバーズウォッチ」で、コレクション名の「フィフティ ファゾムス」は長さの単位(50ファゾム)で約91mを意味します。
「ブランパン」は前述の通り、ダイバーや水中写真家のサポートを始め、海洋保護にも貢献しているブランドとして知られていて、この「フィフティ ファゾムス」は「ダイバーズウォッチ」のルーツとも言われる現代の「ブランパン」を代表するコレクションです。
L-エボリューション
モデル:560STC-11B30-52B CHRONOGRAPHE FLYBACK
搭載ムーブメント:キャリバー F185 自動巻
機能:日付、スモールセコンド、100m防水
ケース:サテン仕上げのスティール、サファイアバック
サイズ:ケース厚 12.8mm ケース直径 43.5mm
搭載ムーブメント:キャリバー F185 自動巻
機能:日付、スモールセコンド、100m防水
ケース:サテン仕上げのスティール、サファイアバック
サイズ:ケース厚 12.8mm ケース直径 43.5mm
「L-エボリューション」は「ブランパン」のラインナップ中最も現代的なコレクションで、8日間パワーリザーブを可能とした「直列トリプルバレルシステム」を備えた「ムーブメント」を搭載したモデルなどがラインナップされています。
また、「ブランパン」とモータースポーツとの関わりを象徴する「L-エボリューション R」シリーズもラインナップされているスポーティーなコレクションです。
ブランパン(BLANKPAIN)の購入
日本国内で「ブランパン」の腕時計を購入できる場所は、東京銀座にある「ブティック」のほか、全国各地11箇所の正規販売店があります。
特に東京銀座にある「ブランパン」の「ブティック」では、「ブランパン」の本拠地スイスのジュウ渓谷にあるル・ブラッシュの工房を感じさせる雰囲気の中で、各ラインナップを始め限定モデルなどのコレクションを楽しめるようになっています。
また、「ブランパン」の腕時計を購入すると、「エキスパート登録」に登録することができます。
「エキスパート登録」に登録すると、「ブランパン」から情報が届くほか、スイスのジュラ渓谷にあるル・ブラッシュのマニュファクチュールを見学することができます。
マニュファクチュール見学では約1時間半の間に、複雑機構を扱う工房で「トゥールビヨン」、「カルーセル」、「ミニッツリピーター」を見ることができるほか、装飾やエングレービング作業も見学できます。
まとめ
300年近い歴史を持つ世界最古の時計メーカーであり、複雑時計を極めたブランド「ブランパン」についてご紹介してきましたが、いかがでしたでしょうか。
1970年代の「クォーツショック」の影響で一時は窮地に立たされながらも、歴史的な複雑時計「1735」で見事な復活を遂げ今に至る「ブランパン」。
「フェラーリ」とともにイタリアを代表する高級スポーツカーブランド「ランボルギーニ」との深い関わりや、フランス海軍の依頼をきっかけに誕生した、現代の「ダイバーズウォッチ」のベースともなっている、「ブランパン」を代表するモデル「フィフティ ファゾムス」など、そのブランド・アイデンティティと腕時計は、あなたの所有欲をかきたてるに違いありません。