世の中には、1本で家が1軒買えてしまうようなとんでもない金額がつけられた腕時計が存在します。
時間を確認するだけなら、スマホでも可能ですし、こだわりがなければ1,000円も出せば立派な時計を買うことも十分できる時代にもかかわらず…。
時計に興味がない人間からすれば、なぜ、そこまでの大金を払うことが出来るのか不思議でたまらないでしょう。
しかし、正確に時間を確認するだけの目的なら安くて良い時計が出回っている中、時計好きがそんな高価な金額を時計に支払うのは、ただ単に時を知らせるだけではなく「コンプリケーション=複雑機構」に魅了されているのが、その理由でしょう。
腕時計には時間・分・秒といった時を刻む機能のほかにも、日付が分かる機能であったり、決まった時刻になると音で知らせてくれるアラーム機能であったり、防水機能であったり…。
と、さまざまな機能があります。
しかし、その中でも特に時計マニアが魅了され、高価な時計に搭載されているのが『7大機構』とよばれる複雑機構を搭載した時計。
7大機構とは、
1.永久カレンダー
2.トゥールビヨン
3.ミニッツ・リピーター
4.スプリットセコンド・クロノグラフ
5.パワーリザーブ・インジゲーター
6.レトログラード
7.ムーンフェイズ
2.トゥールビヨン
3.ミニッツ・リピーター
4.スプリットセコンド・クロノグラフ
5.パワーリザーブ・インジゲーター
6.レトログラード
7.ムーンフェイズ
この7大機構のうち、1つの機構を搭載しているだけでも、その時計は高価になりますが、さらにこの中から複数の複雑機構を搭載した時計『グランドコンプリケーション』になると、それこそ家が買えてしまうような金額になるのです。
ひとつの複雑機構を組み上げるのに必要となる部品は、最低でも100個以上。
直径わずか4cm程度の腕時計の中で無数の部品が組み合わさり、それらが寸分の狂いもなくハーモニーを奏でるさまは「小宇宙」と形容され、その様子を見ていると思わず感嘆の声を上げてしまいます。
ムーブメントのなめらかな動きによる美しさ。
世界でも組み立てることが出来る職人が数えるほど。
こうした理由から複雑機構を搭載した時計は希少性があり、それを持つことが一種のステータスとなり、古くから時計好きの男たちを魅了してきたのです。
では、そんな複雑機構がいったいどんな役割を果たす機能なのか?
7大複雑機構について詳しく解説したいと思います。
わずらわしい日付調整を不要にする永久カレンダー
腕時計で、日付を知ることができるカレンダー機能。
永久カレンダーとはその名の通り、手動でそのカレンダー機能の日付設定調整をしなくても、自動的にカレンダーの日付設定を調整してくれる機構のことです。
カレンダー機能で最も単純なのが、今日の日付だけを知らせる「デイト表示」。
日付に加えて、曜日も分かる「デイデイト表示」。
日付と曜日に加えて、何月かまでも分かる「トリプルカレンダー」。
トリプルカレンダーの場合、一般的なカレンダー機能では1ヶ月を31日として、その周期を基本に月末である31日の0時を過ぎると、翌月として「1日」がカレンダーに表示される仕組みになっています。
ただ、実際のカレンダーでは、1ヶ月が31日の月もあれば、30日の月もあり、2月に至っては28日。
さらに「246911(ニシムクサムライ)」とその順番は規則的ではないですよね。
では、30日までしか日付がない月の翌月1日は、どう表示されるのか?
たとえば、9月は30日までしかないので、トリプルカレンダーの表示では、本当は10月1日でも、時計のカレンダー表示では「9月31日」となってしまいます。
この修正をうっかり忘れてしまうと、時計の日付は間違ったまま進むことになり、キチンとして日付を知ることができません。
この問題を解消するのが、カレンダー機構の中でも最高峰であるパーペチュアルカレンダーともよばれる永久カレンダー機構です。
永久カレンダーは、30日までの月と31日までの月とを正確に判別し、自動的に調整してくれる機能なので、煩わしいカレンダー調整が必要ありません。
ただ、カレンダー表示を管理する上で、悩ましい問題がもう一つあります。
そう、それが、うるう年ですね。
私たちが普段使っている太陽暦と地球の自転速度には微妙な差があるため、その差を調整するために4年に一度、2月は29日と1日付け足されます。
うるう年と太陽暦について詳しい説明はコチラ(外部リンク先URL:http://www.nao.ac.jp/faq/a0306.html)をご覧ください。(※国立天文台のサイトへ移動します)
しかし、なんと永久カレンダー機構の中には、4年に1度だけ動く歯車が搭載され、2月の日付が増えるうるう年を自動で判別し、カレンダー表示の調整を不要にしてくれるのです。
これが「パーペチュアル=永久」とよばれる理由ですね。
ただ、そんな永久カレンダーを機能させるためには、複雑な歯車をいくつも絡ませ合い、精密でデリケートなムーブメントを構成しなければいけません。
永久カレンダーは、天才時計師であるプレゲが発明しましたが、永久カレンダーが発明されたのは、懐中時計全盛の時代。
なので、永久カレンダーを構成する部品もそれほど小さくなくとも、組み立てることが出来たのですが、今では時計といえば腕時計。
腕時計の中で、1秒を正確に刻むために歯車や部品を組み上げるだけでも、大変な技術を必要とします。
さらにその中に4年に1周だけ回るような歯車が入れ、自動的にカレンダー機能を調整するような機構を直径4cm程度の中に同居させる。
それを実現させることができるのは、世界でもごく一握りの時計師のみなのです。
重力すらも克服した時計の中の小宇宙トゥールビヨン
複雑機構の中でも、最も難しいとされるのがトゥールビヨン。
トゥールビヨン搭載モデルというだけで、ほとんどのブランドでは、そのブランドの最高級モデルのことを指すことからも、いかに希少かがご理解いただけるかと思います。
トゥールビヨンは、簡単に言ってしまえば、時計の狂いを起こさないようにする機構のことです。
では、どうやって、時計の狂いをなくすようになっているのかを理解するために、まずは、機械式時計のメカニズムについてお話しますね。
まず、機械式時計が常に一定間隔で時間を刻むのは、「振り子の等時性」を利用しているからです。
振り子の等時性とは、振り子が揺れる周期は、振り子の重さや振り幅に関係なく常に一定であるという法則のことですね。
今ではあまり見かける機会がありませんが、振り子時計はこの振り子の等時性をそのまま活かして、時計にしています。
ただし、腕時計や懐中時計のように持ち運びできるようなサイズの時計の中に、振り子の構造は大きすぎるため、入れることが出来ません。
そこで、携帯用の時計には、振り子の代わりに「テンプ」という仕掛けを使っています。
テンプは、機械式時計の動力源であるゼンマイの力を受け、一定の周期で回転振動することができるのです。
この振り子と同じ「等時性の法則」を持つテンプから最終的に時計の針を動かす「ガンギ車」という歯車に力を伝える部品を「アンクル」といいます。
アンクルは、UFOキャッチャーのアームが開いたような形の部品で、テンプと連動し、ゼンマイの力で回るガンギ車の力を左右2つの爪で受け流します。
アンクルの働きによって、ガンギ車はテンプが持つ等時性の法則通り、一定のスピードで回転することができ、正確に針を進ませることが出来るのです。
ただ、トゥールビヨンが発明された時代に主流だった懐中時計では等時性を保つテンプが重力の影響を受けて、誤差が生じることが問題でした。
というのも、懐中時計はジャケットのポケットの中に入れて持ち運ばれることが多く、懐中時計はポケットの中で水平ではなく垂直の縦方向のままです。
そうなると、テンプが垂直方向に重力がかかる場面が多く、減速したり、加速したりと時計の針に遅れや進みといった誤差が生まれてしまいます。
こういう状態では、どんなに高精度な時計を作っても、持ち運ぶたびに精度が落ち、時計が必要なシーンで正確な時間を知ることができません。
それを解消するために生まれたのが、トゥールビヨン。
トゥールビヨンは、等時性を保つために必要なテンプ、さらにはアンクル・ガンギ車といった精確な時を刻むために必要な部分のみを「キャリッジ」とよばれるカゴのような部品の中に収めます。
そして、ゼンマイの力を使って、そのキャリッジごと1分間に1回転させるように回転させ、常に時計の心臓部が動き続けるようにしました。
そうしてキャリッジを回転させることで、常に一定方向だけに重力がかかる状態ではなく、重力がかかる方向を分散させることができます。
重力がかかる方向が分散されることによって、テンプは精確に等時性を保つことができ、精確な時間を刻めるようになるのです。
コロンブスの卵のような仕組みのトゥールビヨン。
このアイデアをひらめいたのは、天才時計師とよばれたブレゲ。
ひらめくだけではなく、このアイデアを実現させてしまうのが、ブレゲが時計の歴史を200年早めたと言われる理由でしょうね。
トゥールビヨンだけでも、150を超えるような精巧なパーツを緻密に組み立てる必要があり、また、それを腕時計の中で精確に動かせるとなると、時計師の中でも超がつく一流の時計師のみ。
そのため、トゥールビヨン搭載というだけで家が買えるような金額がつけられるのです。
ただ、現在では懐中時計ではなく腕時計が主流なため、ずっと縦方向で時計の姿勢がキープされるということは少なくなりました。
また、時計の内部に使う材質の進歩や技術の進化により、トゥールビヨンを搭載せずとも誤差のない時計を作ることも可能になりました。
機能面だけでいえば、もはやトゥールビヨンは必須の機能ではないのかもしれません。
しかし、世界中の名匠がその腕を競うように精巧なトゥールビヨンを作ることに魂を削り、その希少性と思わず見とれてしまうそのメカニズムの美しさに私たちは魅了されてしまうのです。
あなたのためだけに美しい音色で時を知らせるミニッツ・リピーター
永久カレンダー、トゥールビヨンと並んで3大複雑機構であるミニッツ・リピーター。
今では、時計の針が光るなど、暗闇の中でも時間を確認することが出来るようになりました。
しかし、まだ蛍光塗料などがなかった時代、暗闇の中でも時刻を知るため、また、目の不自由な人に時刻を知らせるために生まれたのがミニッツ・リピーターです。
多くのミニッツ・リピーターは、3つの異なる音色で時刻を知らせてくれます。
具体的には、低音を使って「時」を、高音と低音を使って「15分単位」、そして最後に高音で「1分単位」の時刻を知らせてくれます。
たとえば、現在の時刻が8時47分だとすると、
低音が8回(8時)、高音と低音の組み合わせが3回(15分×3回=45分)、最後に高音が2回(2分)、内臓のハンマーがゴングを叩いて、音色を打ち鳴らし、時刻を知らせてくれます。
ミニッツ・リピーターを搭載するためには、100種類以上の部品が必要となりますが、ただでさえ小さな盤面の中にひしめく部品の数々。
時針と分針、秒針という三針だけを動かすシンプルな時計でも100個以上の部品が必要で、機能が増えるごとに必要となる部品の数は増えていきます。
現在では、平均的な機能を持つ腕時計には600個ほどの部品が使われており、さらにその中にミニッツ・リピーターの部品を押し込むとなると、全体的に超小型の部品が必要になってしまうのです。
また、部品が小型になれば、それを組み立て上げる職人の腕がより一層求められ、時計作り何十年といったベテランでもミニッツ・リピーター部分を組み立てるのに300時間超を要するほど。
そんなミニッツ・リピーターは、時を知らせるという機能そのものより、その奏でる美しい音色が人々を虜にしてしまいます。
時計師たちはいかに美しい音色を出せるかを考え、使う素材も厳選し、細かく微調節し、透明感のある音色を出すことに情熱を注いでいるのです。
時計台や教会の鐘の音が大衆に時を知らせるために鳴らすのに対して、オーナーのためにだけその美しい音色を奏でるミニッツ・リピーター。
また、同じようにミニッツ・リピーターを作っても時計によって1本1本、その音色が違うのもミニッツ・リピーターを所有する楽しみでもありますね。
「時を刻む」だけではなく「時を測る」スプリットセコンド・クロノグラフ
クロノグラフとは、単純に言うと、ストップウォッチ機能のことです。
クロノグラフとは、ギリシャ語で「時間」を意味する「khronos(クロノス)」と「記録」を意味する「gragh(グラフ)」とが組み合わさった造語になります。
イギリスの時計職人であったジョージ・グラハムが世界で初めてストップウォッチ機能を考案し、1821年にはフランスのニコラス・マシュー・リューセックにより世界初の商用クロノグラフが生み出されます。
初期のクロノグラフはまさに時を記録するもので、スタートと共に時計の針を落とし、その針に取り付けたペンが文字盤の上で弧を描くので、その線の長さを測って、経過時間を記録していました。
その後、1831年にオーストリア人のヨーゼス・タデウス・ヴィンネルによって、たんなるクロノグラフのみならず、スプリットセコンド機能が発明されます。
それまでのクロノグラフは、1本の針を使って測っていたので、スタートしてからストップまでの時間だけしか測ることができません。
しかし、スプリットセコンド機能を使うことで、計測をスタートすると、2本の秒針が同時に動き出します。
その後、一度プッシュボタンを押すと、1本の秒針はストップ。
この間にも、もう1本の秒針は動き続けるため、中間のラップタイムを計測することが可能になりました。
そして、再度、プッシュボタンを押すことで進んでいた秒針に止まっていた秒針が追いつきます。
これを繰り返すことで、何度でもラップタイムを計測することが出来るようになったのがスプリットセコンド機能です。
さらには、1844年スイスのアドルフ・ニコルによってクロノグラフの針をゼロにリセットする機構が発明され、現在のクロノグラフへと繋がっていきます。
その後、近代オリンピックが開催されるようになり、正確に秒単位の時間を測ることが出来る時計が求めるようになり、クロノグラフの精度も高まっていきました。
そして、クロノグラフが大きく成長を遂げたのは、戦時中。
第一次世界大戦以降、戦闘機の発達により、パイロットの両手を自由に使えるクロノグラフが欲しいという要望に応え、腕時計式クロノグラフをブライトリングが世界で初めて発表します。
さらに第二次世界大戦に入ると、速度や燃料計算が出来るようなクロノグラフが発表され、戦後には、アポロ計画でオメガのスピードマスターが採用されるなど、1950年代にクロノグラフはその隆盛を誇りました。
しかし、1970年に入るとクォーツ時計の普及もあり、アナログ式での時間計測はいったん幕を下ろします。
ただ、1980年代に入り、機械式時計が見直されたこと。
長らく設計不可能だといわれてきた自動巻きのクロノグラフが誕生したことで、その男性好みするメカニックなフォルムは、今では完全に復権したといえるでしょう。
機械式時計の中を見える化させたパワーリザーブ・インジゲーター
画像の右上、5分から15分の間にあるのがパワーリザーブ・インジゲーターです。
このパワーリザーブ・インジゲーターこそ機械式時計ならではといえる機構ですね。
機械式時計は、ゼンマイの力がその原動力となるので、手巻きであろうと、自動巻であろうと、ゼンマイの力はだんだん弱まっていき、最終的には止まってしまいます。
自動巻きなら、ローターによって、再度、自動でゼンマイが巻き上げられますが、手巻きだと自分でゼンマイを巻き直す必要があります。
しかし、ゼンマイの巻き上げが少なくなり、パワーが少なくなってくると、時計の精度は落ち、時間に誤差が生じてしまいます。
そのため、ゼンマイの巻き上げは常に30%以上あるのが理想なのですが、車にガソリンメーターがないと外からはどれだけガソリンが残っているか分からないように、一度、巻いたゼンマイもあとどれくらいの余力があるのかは外から見ただけでは分かりません。
そのゼンマイの力を外からでも見えるようにしたのが、パワーリザーブ・インジゲーターですね。
単純にゼンマイのパワーを見えるようになるだけなので、なぜ、パワーリザーブ・インジゲーターが搭載された時計が高価になるのだろうと思われるかもしれません。
しれませんが、実は、ゼンマイが入っている香箱と完全に連動させて、精巧に針を減速させていくことができるパワーリザーブ・インジゲーターを実現するのは、とても骨が折れる作業なのです。
普段とは違う時の流れを味わえるレトログラード
一般的な時計は右回りで針が進んで行き、長針は1時間ごとに、短針なら12時間ごとに同じ場所へ戻ってきますよね。
しかし、レトログラードは画像の上下左右4ヶ所にあるように盤面に描かれるのは円ではなく扇型で、針は1周回るではなく、半周動くのみです。
では、スタートした針が反対側にある終点まで辿り着くとどうなるのか?
終点までたどり着いた針はジャンプして、始点に戻り、何事もなかったかのようにまた、時を刻み始めます。
レトログラードとはフランス語で「逆行」。
その名の通り、一定の時間を刻むと反対側に戻るのがレトログラードという複雑機構なのです。
機械式の時計は、歯車の回転を利用して動いているため、歯車が回転する力が伝わる針も円運動になります。
そのため、歯車と針の始点と終点は同じところになり、動作は常に連動しています。
しかし、レトログラードはこの始点と終点が別のところにあり、針はその間を一定の周期で移動します。
そして、始点と終点とをつなぐために針はジャンプして、また元の位置へと戻ってくるのです。
レトログラードは時計の針が一瞬止まり、反復するという通常の時計では見られない動きをするので、日常では見落としがちな時の流れを垣間見ることができる。
そんな一瞬、時を忘れさせてくれるのがレトログラードの魅力かもしれませんね。
太古から続く人類の叡智の結晶ムーンフェイズ
ムーンフェイズはその名の通り月相。
つまり、月の満ち欠けを表す複雑機構のことです。
月は新月から始まり、太陽とは真逆の方向に来ると満月になり、そこからまた欠けたように見えていき、最後には地球から形を隠す三十日月(みそかづき)となります。
現在では太陽暦が採用されているため、太陽の周りを地球が一周する時間を1年としてカレンダーが作られますが、古代の人たちは月の満ち欠け(ムーンフェイズ)を見て、今日が何日なのかを把握する太陰暦を用いていました。
新月から次の新月までが約29.5日。
これが12回繰り返されると同じ季節がやってくることを理解し、そこから新月から新月までを一ヶ月とよび、それが12回繰り返されることを一年とよび、暦の概念が生まれることになります。
太陽暦を使っている現在でも、潮の満ち引きを知るために月相は利用されるほどですし、月相を知ることは生活の中でとても重要なことでした。
そのため、中世ヨーロッパの機械式時計にはムーンフェイズが搭載されてきたのです。
ただ、ここで時計職人を悩ませたのが、月の満ち欠けの周期が『29日12時間44分2.88秒』≒約29.5日であるとこと。
月の1周周期が30日という整数ならば、ムーンフェイズを作るのは、そう難しい話ではありません。
ありませんが、この中途半端な月の周期にどうやって対応した機構を作ればいいのか?
そこでまずは月の1周周期を29.5日と決めて、それ以下の端数は無視。
そして、ムーンフェイズを表示する回転ディスクには、29.5日の倍である59個の歯車を持たせました。
そして、ディスクの半分を盤面では見せないようにし、ディスクを1日で1歯ずつ進めていくと、29日と半日でディスクは半周し、盤面上では月齢1周分を表示させることができます。
ただこれでもまだ、端数を無視している分、正確なムーンフェイズとは言い難い。
そこで、中間の歯車を増やすことにより、ほぼ実際の月齢と近い動きが盤面の上で再現できるようになりました。
しかし、複雑機構あるあるとして、歯車の数が増えれば増えるほど時計全体を構成する部品には小型化が求められ、それを組み立てる職人の技術も求められます。
それゆえ、精確に月相を表現するムーンフェイズも複雑機構のひとつとして数えられるのです。
まとめ
高級時計の代名詞ともいえる複雑機構。
その中でも、特に高度な技術を必要とする7大機構についてお話しいたしました。
永久カレンダーは、その名の通り、日付の調整が不要で自動的に計算してくれるカレンダー。
トゥールビヨンは、機械式時計の弱点でもあった重力の影響を受けない複雑機構。
ミニッツ・リピーターは、美しい鐘の音色で時刻を知らせてくれ、スプリットセコンド・クロノグラフは複数のラップタイムを計測することができるストップウォッチ機能。
そして、パワーリザーブ・インジゲーターはゼンマイを巻き上げた時の残り時間を示してくれ、レトログラードは時計の針が盤面を一周するのではなく、扇型の上を反復運動し、ムーンフェイズは文字通り、月相がひとめで分かる。
ひとつの複雑機構を作り上げるにも、部品の小型化とそれを組み立てる高度な技術が必要とされます。
なので、グランドコンプリケーションとよばれる複雑機構がいくつか搭載された腕時計になると、何百万円、何千万円といった高価な時計になるのです。
複雑機構の中で、ひとつひとつの部品が精確に絡み合って織りなすムーブメントは思わずため息が出るほど美しく、時間を忘れて見入ってしまうほど。
機械式時計の魅力とも、いえる複雑機構。
そんな複雑機構がいくつか搭載されたグランドコンプリケーションはまさに男の憧れともいえる逸品ですね。