“Il buon Dio è nei dettagli(神は細部に宿る)”
ギュスターヴ・フローベールの名言です。
「目立たない細かな部分までも手を抜かず、妥協せずに完璧に仕上げてこそ、全体の完成度が決まる」という意味ですね。
芸術や建築などの世界でよく用いられる言葉です。
その名言通り、物事はおおかた、細部を見ればその良し悪しがすぐに分かるもの。
良いシャツも然り。
イタリアのシャツ好きなら誰もが憧れる、伝説のシャツブランドと言われる「アンナマトッツォ」。
なぜアンナマトッツォなのかといえば、丁寧な手縫いによる製法だから。
このブランドの作り出す、繊細で優雅で品のあるドレスシャツは、まさに各部位に神が宿ったかのような完璧さで知られています。
今回は、そんな憧れの手縫いシャツ、アンナマトッツォについてご紹介します。
あのロンドンハウスを有名にしたアンナマトッツォ
伝説のナポリの仕立て屋と言われたアントニオパニコ、彼と同時代のロンドンハウスで一翼を担ったのが、アンナマトッツォという女性シャツ職人です。
1952年生まれの彼女は、およそ9歳からシャツ職人として働きながら学び始め、その天才的な手腕は、次第にナポリ内外のファッショニスタを満足させていきました。
アンナマトッツォには、天才的な美的感性とそれを現実のものにする優れた技術が備わっていたため、彼女のシャツはアントニオパニコのジャケットやスーツと共に、ナポリの老舗サルト、ロンドンハウスを一気に有名にします。
その後アンナマトッツォは独立し、自分の名前をそのままブランド名にしたオリジナルブランドを立ち上げました。
40年もの歳月をかけ研究に研究を重ねられた、女性的で繊細、そして美しい手縫いのシャツは、現在もロンドンハウスで苦楽を共にした最後のナポリの仕立て屋と呼ばれる巨匠「アントニオパニコ」や、ナポリ仕立てを世界に知らしめた「アットリーニ」などの高級ブランドがこぞってシャツを外注するブランドとなっています。
そして現在は、娘のシモーナ、ロミナ、アントネッラとともに、創造的なコレクションを世界に提供し続け、その勢いはとどまるところを知りません。
普通のシャツとどう違う?
イタリア・ナポリには無数の仕立て屋があるように、シャツを作る工房「カミチェリア」も星の数ほど存在します。
そんな多数のカミチェリアの中でも群を抜いて名の通ったシャツ工房が、アンナマトッツォです。
アンナマトッツォのシャツは「ナポリで一番美しいシャツ」と言われ、神話にさえなっています。
自らのホームページに「Il buon Dio è nei dettagli(神は細部に宿る)」とギュスターヴ・フローベールの名言を掲げているように、アンナマトッツォのシャツの真髄は、その細部に見ることができます。
ナポリ仕立ての重要な要素には、「マニカ・カミーチャ」がありますが、そもそもシャツはイタリア語にすると「カミーチャ」。
カミーチャは女性の名詞だそうで、日本なら「花子」といったのようなものでしょうか。
ナポリのシャツはとてもフェミニンで美しく、丁寧に寄せられたギャザーやふんわりとした袖などが特徴です。
シルエットに見られる膨らみやドレープ感が良いナポリシャツの条件だとすると、アンナマトッツォのシャツはその条件を満たしている上に、上品でエレガント。
うっとりするようなドレープ感や着心地の良さは、他の追随を許さないほどだと言います。
画像は仮縫い段階のものですが、肩の部分を見てください。
彼女のマニカ・カミーチャは大胆かつ繊細なタッチでギャザーを作り、着る人の肩の可動域を広げ、着心地をよくする工夫がなされていて、ミシンさえも手の一部として使いこなしています。
つまり、ミシン縫いの部分も人の動きに合わせて想像しながら縫うため、糸の強弱や縫い方を甘めにするなどをし、立体的に、柔らかな着心地を作っているのです。
その結果、着る人の体に寄り添うような柔らかで優雅なシャツが出来上がります。
彼女のシャツのオーダーメイドの工程を見てみましょう。
まず、使用する布は一定温度の熱水に12時間浸けます。
これは、今後何度もなされる洗濯に影響を受けない、強い生地を作るため。
そして、一度乾燥させた後、アイロンをかけ、採寸を元に、カッティングしていきます。
さらに着る人に合わせてテストし、細かな修正や改善を施します。
非常に独特なステッチですね。
・・・その後ミシン縫いを挟み、アームホールや内側のスリーブ、縫い目、ウエスト部分に加え、特に肩部分には細心の注意を払って縫製します。
そしてまた、ひと針ひと針、首、手首の内側、袖のギャザーの入る部分やボタンホールを手縫いで丁寧に仕上げていきます。
細部には、芸術的なナポリ仕立てのディテールを実現するため、繊細な仕事が施されます。
イニシャルの縫い付けももちろん手縫い。
オーナーの好みに応じて字体や色など、可能な範囲で想像力を持ってイニシャルを入れてくれます。
そしてボタンは最高品質のオーストラリア産マザーオブパールを用います。
気の遠くなるようないくつもの作業工程がなされ、全ての工程が完了するまでに21日間を要します。
アンナマトッツォのシャツには、彼女のブランドでしか出せない独特なギャザーの寄せ方や、動きを考慮した立体的なカッティングなど、アンナマトッツォでしか体感できない世界観があると言います。
また、アンナマトッツォのステッチは結構甘めで、伸縮性があり、それが動きやすさや柔らかな着心地を作り出します。
襟部分には手縫いでステッチが入っており、他のシャツではあまり見られない技術。
使われる布地について
アンナマトッツォのシャツに用いられる生地は、シャツ生地の宝石と呼ばれる、世界最高峰のシャツ生地「カルロリーヴァ」や最高級シャツ生地「デビッドジョンアンダーソン」などです。
また、スイスの高級シャツブランド「アルモ」、イタリアの人気シャツ生地「テスタ」、カンクリーニやアルビニなどと並んで評されることの多い、最高品質の「トーマスメイソン」など。
今回はその中でも、「カルロリーヴァ」について、少しご紹介します。
シャツにこだわりのあるあなたなら、この名はすでにご存知かもしれませんね。
良いシャツの御三家とも言われるカチョッポリを加えた3大ブランドの中でも、高級番手の生地でその名を轟かせている生地ブランドです。
さらに、本当に良いものだけを手間暇かけてこだわって作り、大量生産もしていない超最高級品質です。
現在は、日本には代理店やエージェントが存在しないため、あまりお目にかかることもないようですが、イタリア生地を愛する本物志向のただ1軒のテーラーでだけ、取り扱っていると言います。
ですので、名前は知っていても実際に持っているのは、ほんの一握りの人だけでしょう。
ビジネスに対する姿勢も職人気質で、金額や番手などにこだわらず、真に良いものと向き合える会社としか仕事をしないそう。
工房のドアを恐る恐る開けると、一人の頑固そうな職人が向こうを向いて座って仕事をしており、「最高の仕事をするが値段は高いし納期も遅いよ!それで付き合えないなら帰りなさい」と背中を向けたまま言い放つ・・・そんな想像さえしてしまいますが、冗談ではなくそんな体験をしたバイヤーも多数いるとのこと。
しかし、そんな人に限って一度気に入ったら一生腹を割って付き合える、そんな人間味溢れた人物かもしれませんね。
そしてそんな職人気質のブランドが作る最高級シャツ生地を、多く使用しているのが、アンナマトッツォです。
カルロリーヴァの生地には高速織機で織られる通常の150cm幅の生地(日本では110cmが標準ですが、イタリアでは150cmが標準)と違い、昔ながらの旧織機が数台あり、90cmなんだそう。
ゆっくり織り上げられた90cmの生地は、抜群の風合いになるそうで、カルロリーヴァをよく知る人は90cmのものを好むとのこと。
また、生地の元になるコットンはエジプト産の最高品質のもので、スイスの良質な水や高い精紡技術によって糸になります。
糸はそのまますぐには使われず、カルロリーヴァの工場があるイタリア・コモ湖の倉庫内で半年以上寝かせるそうです。
このこだわり抜いて作られた最上の生地が、宝石と言われる所以なのでしょう。
日本ではどこで手に入る?
世界中のファッション通から憧れられ、注目され続けるナポリは、実は日本では考えられないほど治安が良くなく、一般観光客にもかかわらずバスからホテルまでのたった100mの移動でさえ、一人ずつに両脇にボディーガードがつくほど。
一人歩きしようものなら女性男性関係なく、大げさではなく身の危険に脅かされると聞きます。
それは、現地ナポリの近郊に住む人さえ安心して歩けないほど。
アンナマトッツォのシャツも、現地で直接購入すれば一枚2万円から手に入れられるようですが、あえて命の危険を冒してまでディープな場所へわざわざ足を踏み入れる勇気のある人はそうはいないでしょう。
そこで、日本という安全地帯で手に入れることになるわけですが、日本でアンナマトッツォを購入できるのは、現在は伊勢丹のみとなっています。
しかも、それが可能となったのがつい最近、2016年10月のオーダー会から。
ナポリのシャツを愛してやまない御仁にとって、まさに心待ちにしていた「解禁」だったのではないでしょうか。
その開催されたオーダー会でのス・ミズーラは、常設展開する13パターンの他に横補正がなされたとのこと。
細身が多い日本人に合ったシャツを、伝説のカミチェリアにハンドメイドしてもらう、なんとも贅沢な内容だったようです。
また、その会ではアンナマトッツォが40年前に手掛けたロンドンハウス時代のモデルもオーダーできたとのこと。
これはとても魅力的ですね。
このモデルは襟ハネがレギュラーに近い大きさで、背中のダーツが2本入っているのが特徴。
さらに40年前の希少なファブリックを6種類も持ち込んでの特別な2日間だったようです。
価格は約10万円前後ですが、同じイタリアの至高の既成シャツと言われるフライでさえも7万円と言いますから、ハンドメイドでこの価格は破格なのかもしれません。
もしアンナマトッツォのシャツを手に入れたいのなら、次のオーダー会は要チェックですね。
ISETANMEN’S net(イセタンメンズ 公式メディア)
http://www.imn.jp/
http://www.imn.jp/
アンナマトッツォのラインナップ
それでは、アンナマトッツォのシャツのラインナップをご紹介しましょう。
ダウンボタンシャツ。
ビジネスからカジュアルまで、汎用性の高いシャツですね。
このタグがついたものは、セミハンドメイドの「AM napoli」と言うアンナマトッツォのセカンドブランドです。
オーダーメイドよりは比較的手に入れやすく、日本のオンラインショップや古着専門店などでも取り扱っています。
しかし、「なんだ、ハンドメイドじゃないのか」とがっかりする必要はありません。
ミシン縫いなのにまるで職人の技が宿ったようなフルハンドメイドのような仕上がりです。
ラインナップの紹介に戻りましょう。
次はクラシックネック、レギュラースタイルです。
上から見ると普通のレギュラーに見えますが、角度を変えると・・・
圧倒されるほどの立体感ですね。
この立体感が、着る人を優雅に、上品に見せてくれるのですね。
こちらはオープンネック。
首元の緩やかなカーブ、カラーの柔らかなロールは手仕事ならでは。
こちらも下からの画像がありました。
ネック周りの柔らかさ。
アンナマトッツォの作るシャツは、芯が入っていないため、経年とともにくったりしてきます。
それがまた味になるのですね。
最後にヴィンテージネック。
タイなしで着用してもフォーマルに着こなせるシャツです。
両襟フロントに渡して使用するクリップも、3種類取り扱っています。
シャツのファブリックは共通で、ストライプや細かいチェック、無地などから選べます。
スタンダードなストライプ。
ブルーとグレーの細かなチェック。
個性的な織りのブルーの無地。
このほかにも、シーズンごとに様々なファブリックを取り扱っています。
また、カフスは次の3種類から選べます。
フレンチカフスですね。
袖のドレープが美しいですね。
カットカフス。
ビシッとした折り目の中にもどこかふんわりとした柔らかさと品の良さを感じます。
ラウンドカフス。
日本の男性ではあまり着ている人を見ませんが、イタリアでは意外と多く見受けられます。
端に寄せられた細かなギャザーが美しいですね。
その他カジュアルラインのポロシャツやネクタイ、ジャケット、シャツと同生地のボクサーパンツなども作っており、マニアにはたまらないラインナップです。
鮮やかなカラーのポロシャツ。
メッシュの生地がとても涼しげですね。
こちらはヴィンテージオープンコットンの生地です。
こんな落ち着いた色のポロシャツも。
こちらは滑らかなジャージー生地作られています。
とても柔らかく、リラックスした襟が特徴です。
ジャケットはカシミア製で6色展開。
シャツと同じで着心地を重視しているため、とても柔らかな仕上げです。
夏のカジュアルなジャケットです。
コットンで肌ざわりがよく、暑い夏でも快適に過ごせます。
そして、ボクサーパンツ。
シャツと同生地で丁寧に作られています。
思わずアイロンがけをして履きたいような気持ちになりますね。
アンナマトッツォのボクサーパンツを身につけるとライフスタイルまで変わってきそう。
下着と呼ぶにはあまりにも豪華な仕立てですね。
生地はカルロリーヴァやデビッドジョンアンダーソンのものを使用しています。
アンナマトッツォまとめ
「神は細部に宿る」。
この名言を、自身のホームページにも用いるほど徹底したものづくりにこだわる、ハンドメイドの最高峰、アンナマトッツォ。
彼女は最後のナポリ仕立てのサルトと言われるアントニオパニコと共に、ロンドンハウスを世界に知らしめた第一人者でもあります。
アンナマトッツォのシャツが他のブランドと違うのは、あまりにも繊細で優雅なこと。
その秘密はマニカ・カミーチャにあり、大胆にして繊細なたくさんのギャザーが作り出すドレープ感です。
また、着心地をよくするためミシンの縫い目さえも一針ずつ強弱をつけたり甘く縫ったりし、柔らかな着心地をその職人技で生み出します。
アンナマトッツォのシャツに使われるファブリックもただ者ではありません。
いずれも世界に名だたる最高品質のシャツ生地ブランド。
デビッドアンダーソンやアルモ、テスタ、トーマスメイソンなど堂々たる顔ぶれです。
その中でも今回は、シャツ生地の宝石と呼ばれる、世界最高峰のシャツ生地「カルロリーヴァ」をご紹介しました。
最高級品質にこだわるあまり、ビジネスする相手を選ぶカルロリーヴァは、その製品も並大抵のものではありません。
選び抜かれた生産地、糸にする最高の環境、そして生成された糸は寝かせてから使用するというこだわりようです。
アンナマトッツォは、カルロリーヴァなどの最高級シャツ生地の他にも、希少なヴィンテージ生地などでも製作し、希少価値の高い製品を提供しています。
実は伝説とも言われるアンナマトッツォのシャツは、現在では日本でビジネス契約を結んでいるのはたった1社のみ。
それも、つい最近、やっと日本で手に入るようになりました。
それは、伊勢丹です。
2016年の秋にオーダー会がありました。
もし、「一生に一度はアンナマトッツォの手縫いシャツを」と思うなら、伊勢丹の最新ニュースをチェックして、次回のオーダー会に足を運んでみては。