トレンチコートといえば、ハードボイルド。
ハンフリー・ボガードやアランドロン、マックイーンなど、歴史に名を残す名優たちが襟を立てて格好良く決めているイメージですよね。
彼らのように、ダンディかつハードボイルドに決めたいと思っている男性も多いのではないでしょうか。
それならやはり、正統派の本格トレンチコートが欲しくなります。
もしこれからトレンチコートを購入するなら、やはり昔の洋画に出てくるような、本格的なものを着てみたい、と思っているあなた。
今回はトレンチコートの元祖とも言える二つのブランド、アクアスキュータムとバーバリーをご紹介します。
それぞれ長い歴史があり、トレンチコートの代表的なブランドですが、その特徴や由来を調べてみました。
元祖トレンチはどっち?アクアスキュータムVSバーバリー
トレンチコートといえば襟を立てて中折れハットを傾けて被るというハードボイルドなイメージのコートですが、元はと言えば軍事用の防寒コート。
そのため実用性第一に考えられて開発されています。
戦後は機能面だけでなく、そのファッション性にも着目されて人気が高まり、今では定番のファッションアイテムとしてなくてはならない存在になりました。
さて、多くのブランドがトレンチコートを取り扱う中、元祖と呼ばれるブランドが2つあります。
アクアスキュータムとバーバリーです。
同じ国内なのに、なぜ元祖が2つあるのでしょうか。
それぞれのブランドのトレンチコートの起源は、いずれも独自開発の防水加工を施した布地を使用して作られた軍事用コート。
お互い、独自で開発した布地や、軍に提供したという共通点があります。
それでは、実際にその歴史やそれぞれのトレンチコートの特徴を見ながら、その元祖を探って見ましょう。
アクアスキュータムについて
アクアスキュータムは、日本では浜崎あゆみがキャンペーンモデルに起用されるなどで、若者層を中心によく知られているブランド。
アクアスキュータムは日本での販売はレナウンが展開しているため、購入できる店舗も日本全国に点在しています。
そんなわけで、比較的新しいブランドのイメージが強いかもしれませんが、実はイギリス本国では160年からの歴史を持つ、由緒正しい老舗ブランドなんです。
今回比較するバーバリーとは、ブリティッシュ・トラッドを極める2大コートブランドとして世界的にもその名を馳せています。
そんなアクアスキュータムの歴史から見てみることにしましょう。
アクアスキュータムの歴史
アクアスキュータムは、1851年に仕立て屋であるジョン・エマルーにより、ロンドン西部の高級住宅街に紳士服専門店として創業されました。
創業当時から優れた職人技術を持つ一方、最新の機械も導入し、業界の最前線を行くブランドだったと言います。
そして開業からわずか2年後、エマリーは雨を弾き、かつ柔らかでしなやかな、画期的な防水加工を施した天然素材のウール生地の発明に成功し、特許を取得しました。
1854年のロシアとオスマントルコとの戦いであるクリミア戦争では、極寒のロシアで戦う将校達の間で、この防水加工を施したコートが大好評。
このユニークな発明が、ラテン語で「水の盾」を表す「アクアスキュータム」というブランド名の由来になっています。
また、1900年にはレディース用のアウターにも着手し、当時婦人参政権を訴える女性活動家たちからも、その機能性を支持されました。
現在アクアスキュータムのアイコン的存在であるトレンチコートは、1914年の第一次及び第二次世界大戦で戦う英国軍のために開発されたコートです。
トレンチ(塹壕)の中で過酷な任務を遂行するイギリス軍将校たちから、防水加工の生地で作られた耐久性のあるこのコートが賞賛されました。
17年戦地にいる将校からは、「貴社のコートには本当に満足しています。どんな状況でも全く水を通すことがないからです」と手紙が寄せられたというエピソードも残されているほど。
また、その徹底された実用性、機能性と、完璧なスタイルを持つトレンチコートは、戦後間もなくイギリスのファッション界で一目置かれる存在となりました。
1953年にはエベレスト登頂を目指すエドモント・ヒラリーのチームのために特別に丈夫な生地を開発しています。
その生地はウィンコルという名で、モメントナイロンを混紡して作られたもので、時速160kmの突風にも耐えうるという非常に丈夫な生地。
この生地もその後、一般の店舗で販売されるようになりました。
アクアスキュータム 王室御用達の歴史
アクアスキュータムは英国御用達ブランドとしても知られていますが、その始まりはおしゃれ好きだったエドワード7世からプリンスオブウェールズ(グレンチェック)柄のコートの依頼を賜ったことです。
それから1897年にロイヤルワラントの名誉を授与され、その後は英国御用達ブランドとして今日にいたっています。
・1897年 プリンスオブウェールズ エドワード7世
・1911年 プリンスオブウェールズ ジョージ5世
・1920年 プリンスオブウェールズ エドワード8世(ウィンザー公)
・1947年 エリザベス王妃、ジョージ6世夫人
・1952年 エリザベス王太后
・1911年 プリンスオブウェールズ ジョージ5世
・1920年 プリンスオブウェールズ エドワード8世(ウィンザー公)
・1947年 エリザベス王妃、ジョージ6世夫人
・1952年 エリザベス王太后
アクアスキュータムのトレンチの特徴
英国軍のために開発された、無駄のない実用性と機能性を極めたトレンチコート。
ダッフルコートやPコートなどの例にもあるように、軍用に開発された衣服は優れた機能性を持っているため、世間一般にも広がって後のスタンダードになることはよくあります。
元々雨や霧の多いイギリスという土地のために開発したアクアスキュータムの防水加工が十二分に生かされた優れたコートも、一般の消費者にとっても画期的な商品だったに違いありません。
アクアスキュータムのトレンチコートの特徴は、間違いなくその優れた防水性でしょう。
また、雨や湿気から体温が奪われないよう工夫された保温性も見逃せません。
毛織り物のような厚くて重いコートではないにもかかわらず、寒さから体を守る機能に優れています。
英国王室だけでなく、サッチャー元首相が愛用し、1996年のオリンピックでは公式ユニフォームにも選ばれるなど、いかにその機能性が支持されたかがわかります。
さらに、機能だけではなくシルエットの美しさも抜群。
スタイリッシュで上品なルックスは、あの名画「カサブランカ」で主役を務めたハンフリー・ボガードがプライベートで愛用していたことで知られています。
ハンフリー・ボガードのトレンチコート好きは有名で、「トレンチコートにソフト帽といえばボギー」と言われるほど。
ベルトの縛り方やソフト帽を少し傾けたかぶり方はニヒルでタンディ。
そしてそのスタイルはそのままハードボイルド映画の原型にもなったそう。
また、日本でも大人気を博した「刑事コロンボ」のトレードマークもヨレヨレのトレンチコート。
その影響があってかどうかは定かではありませんが、日本の刑事ものでは石原裕次郎を始め、踊る大捜査線のいかりや長介など刑事=トレンチコートの一つのスタイルが出来上がっています。
刑事は雨の日も風の日も張り込み捜査などを行うイメージ。
そんな機動性に耐えうるアウトウェアとして、トレンチコートが選ばれるのは、自然なことなのかもしれません。
そのトレンチコート=耐久性、機能性というイメージに大いに力を貸したのが、アクアスキュータムでしょう。
アクアスキュータムの優れた性能とスタイリッシュなシルエットは、他のブランドがイメージ戦略として著名人を使うのに対し、このブランドの場合は数々の著名人が「本物」と認めて自ら買い求めることからも伺い知れます。
バーバリーについて
ここからはバーバリーについてお話ししましょう。
バーバリーはイギリスのトラッドを代表するブランドとして、日本では結構昔から知られています。
一時期は、日本で流行に敏感な若者の間でもてはやされましたが、大人が着るファッションとしても世界的な人気を誇るバーバリー。
その由緒正しい歴史を紐解いてみましょう。
バーバリーの歴史
バーバリーは1856年、若干21歳のトーマス・バーバリーによってイギリス南部に位置するハンプシャー州ベイジングストークに設立されました。
創業当時はアウトドア用衣類を専門に取り扱っていましたが、1879年、「ギャバジン」を考案し、一気にその名を広めます。
ギャバジンは、農民が汚れを防ぐために服の上に羽織っていた上着をヒントに作られたとされ、耐水性、防水性に優れた新素材です。
それまでの重くて厚く、着心地の悪かったアウターウェアに変わって通気性に優れたギャバジンは革命的で、1888年に特許を取得し、 1917年まで製造権を独占しました。
問題のトレンチコートですが、トレンチコートの前身は「タイロッケン(紐でロックするの意)」と呼ばれるもので、1912年に特許を取得したボタンなしのベルトで開閉するタイプのギャバジン製コートでした。
トレンチコートは20世紀初頭のボーア戦争の際、軍隊のニーズに応えるために開発されたもので、コートの肩についているエポレット(肩飾り)は将校の階級を表し、ベルトのメタル製Dリングは軍事用品をぶら下げるためにあしらわれたもの。
丈夫で機能性に富んだギャバジンは、その後冒険家に愛用されることとなります。
1891年にロンドンに本社を置き、冒険家の様々な衣服を提供し、その名をイギリス中に轟かせるとともに、ファッション方面でも知名度を上げていきます。
1924年には、コートの裏地として使用していたデザインを「バーバリー・チェック」として宣伝し、ファッション界に一大ブームを巻き起こしました。
ジョージ5世やエリザベス2世、チャールズ皇太子からロイヤルワラントを授かるほか、1967年のパリコレではバーバリー・チェックを傘に採用し、それ以降バッグやマフラーなどコート以外のアイテムでも展開し、世界中の人々から愛されるようになりました。
日本では1965年に三陽商会がライセンスを取得し、1996年に日本独自のコレクションとして「バーバリー・ブルーレーベル」をスタートさせます。
また、1998年にはその姉妹ブランドとして「ブラックレーベル(メンズ)」も発表し、さらなる拡大につなげました(現在はブラックレーベルからレディースも登場しています)。
現在のロゴは「BURBERRY」と「Burberry’s」がありますが、2000年以前のヴィンテージ製品をBurberry’s、それ以降のものをBURBERRYと統一しています。
バーバリーを愛用した冒険家たちの歴史
バーバリーの発明した頑丈な衣服、ギャバジンは、数々の冒険家たちに愛用されてきました。
1910年、ロンドンーマンチェスター間の24時間以内飛行に成功したパイロット、クロード・グラハム=ホワイト。
1911年に南極点に到達したノルウェーの探検家、ロアール・アムンセンと、同時期にやはり南極点を目指しながらも遭難してしまったイギリスの悲劇の探検家ロバート・スコット。
彼らが使用していたのは、共にギャバジンの防寒具やテントでした。
その後の1914年にも、アーネスト・シャクルトン率いる帝国南極横断探検隊の防寒着に採用され、遭難後に奇跡生還を遂げた際の厳しい極寒の地で彼らの命を守りました。
1919年、ジョン・オルコックとアーサー・ブラウンによる大西洋無着陸横断飛行の際の防寒着、1924年のエベレスト初登頂を目指し遭難したジョージ・マロリーが着用していたジャケットも、バーバリーのギャバジンです。
また、1934年に行われたロンドンーメルボルン間のマックロバートソン・エアレースでは、トム・キャンベル・ブラックとC.W.A.スコットがギャバジンの操縦服を着用し優勝。
1937年にはバーバリーのスポンサーにより、ベティ・カービー=グリーンと空軍中佐A.E.クラウストンによるロンドンーケープタウン間の往復飛行が行われ、45時間という当時の催促スピードで新記録を樹立しました。
バーバリーの新素材は、様々なイギリスの歴史とともに歩んできたのですね。
バーバリーのトレンチの特徴
バーバリーの製品には、日本のライセンスものとインポートものがあり、価格帯が大きく異なります。
ここではトレンチコートを紹介するにあたり、ラグジュアリなコレクションを展開するインポートものに絞ってご紹介します。
バーバリーのコットンギャバジンは、1879年に考案された悪天候に強い高密度な布地。
また、トレンチコートもいくつかのラインを展開し、ビジネスシーンやカジュアルにも対応する幅の広さが特徴の一つです。
ラインには、通勤に嬉しいウエストのタイトさが売りの「ヘリテージ スリムフィット」、それよりややゆったりとしたシルエットの「ヘリテージ モダンフィット」、膝丈まである真冬にも対応する「ヘリテージ クラシックフィット」などがあります。
ヘリテージ モダンフィット
また、カジュアルラインには撥水性のあるテクニカル素材で作られたものや、赤やグリーンなどカラフルなカラー展開もしています。
スタイルもフォーマルからミリタリーまでとにかく豊富。
ファッショナブルなラインの多さも、バーバリーの魅力です。
中は残念でもそれなりに格好が付くトレンチの魅力
ところで、トレンチコートは、スーツ姿によく似合いますが、ボギーがタートルネックのニットと合わせて着ていたように、実は様々な着こなしが可能です。
特に最近ではトレンチコート自体もいろいろなスタイルの製品が登場していることもあり、固定観念に縛られずに楽しむことができます。
これはもう、スタンダードなスーツにトレンチの王道スタイル。
ちょっとラフにタートルネックと合わせています。
ノーネクタイのシャツにニットを重ねて着たリラックスビジネススタイル。
こちらはジーンズと合わせたカジュアルスタイル。
インナーにはTシャツとダウンベストを着用していますね。
どんな自由なスタイルでもトレンチコートを羽織ると雰囲気が出て決まるのです。
これらはブランドのモデルさんが着用しているので全然残念ではありませんが、言いたかったことはどんな服装でも意外と似合ってしまうということ。
ジャケパンはもちろん、ジーンズやチノパン、Tシャツ、トレーナー、ジャージーとなんでも来いです。
それはやはり、トレンチコートの持つ魔力ともいうべきもので、一度羽織ってしまえば、人の目がトレンチコートの引力にグッと引き寄せられ、それなりの雰囲気を醸し出してくれるのですね。
だからと言って、コロンボのようなヨレヨレのトレンチコートは現実で着用するのはいただけませんが。
アクアスキュータムとバーバリー|本格トレンチコートまとめ
アクアスキュータムとバーバリー、それぞれの歴史やトレンチコートの特徴をご紹介しました。
歴史を紐解いてみると、イギリス軍にコートを提供したのが早いのは、1854年クリミア戦争のアクアスキュータムでしたね。
バーバリーは1912年にギャバジンの特許を取得し、その後イギリス軍にコートを提供しています。
しかし、それぞれの歴史を見てみると、年代こそ少し違うものの、独自に雨が内側に入ってこない特殊な布を発明し、その技術を請われてコートの製作に着手しています。
つまり、同じようなことが、イギリスの西と南でそれぞれ起こっていたというわけですね。
アクアスキュータムはその後王室御用達ブランドとして、イギリスの正統派スタイルを貫き、バーバリーはファッション界に君臨する存在として、様々なコレクションを作り上げています。
現在でも軍事用目的で開発された防水性、保温性などの機能性をしっかりと守り続けていることに加えて、現代のスタイルにも合うようにスタイリッシュなシルエットにしている点では、アクアスキュータムを推したいところです。
ただし、ファッションに貢献しているのはもちろん、多数の南極探検隊や初期のパイロットなどの冒険家に実績を与えた点ではバーバリーも捨て難い。
これからも素敵なトレンチコートを私たちに提供してくださいとお願いするばかりです。
トレンチコートは中のライナーを取り外せば、秋口から冬、そして春先まで活躍してくれる優れもの。
冬の間は渋く決め、春になったらジャケパンなどと合わせて軽快に着こなすのもアリですね。
「本格トレンチコート」でハードボイルドに決めてみましょう。