今やファッションアイテムの定番として欠かせなくなったミリタリージャケット。
カジュアルにはもちろん、トラッドスタイルにもハマり、何かと使いまわしがきくアイテムが多いですね。
無骨で男らしい印象がミリタリーアイテムの特徴ですが、「コレもミリタリーなの!?」といった知的な印象のアイテムまで。
使うシーンや服装によって、様々なバリエーションや表情を作ることができるのもミリタリージャケットの特徴ですね。
また、ミルスペックをはじめとする軍隊で正式に採用されているようなアイテムは、過酷な環境下でも兵士が安全に活動できるように厳格な基準を設けているため、機能性と耐久性に優れたタフなアイテムも多く、アイテム選びとしてミリタリーは賢い選択肢といえるでしょう。
ただ、一言に“ミリタリージャケット”と言っても、「MA-1」や「M-65」といったアルファベットと数字の組み合わせでその名前を呼ばれるアイテムが多く、名前とアイテムが一致しない…という人も多いですね。
今回は、オンにもオフにも大活躍間違いナシ。
そんな覚えておきたい定番ミリタリージャケット7種類について解説したいと思います。
いつの時代もミリタリーブームの火付け役を担うMA-1
今、起きているミリタリーブームの真っ只中にいるのは、間違いなくこのMA-1ジャケットでしょう。
MA-1ジャケットのブームは、1980年代の終わりから1990年代の初めにも一度、起こっていて、40歳前後の方なら、「えっ!?あのMA-1がまた、ブームなの?」と思われるかもしれませんね。
今でも、街を歩けばMA-1を羽織った人に出会わない日がないんじゃないかというくらいその着用率は高いですが、当時もアウターといえばMA-1一色でした。
当時、M-1ブームに火をつけたのは、なんといってもトム・クルーズの出世作となった映画『トップガン』の影響が大きいでしょう。
トム・クルーズが映画の中で着用していたのは厳密に言うと、空軍に支給されるMA-1ではなく、G-1という海軍に支給されるアイテムだったのですが…。
MA-1は、それまで布製や革製が多かったフライトジャケットがナイロン製に切り替わっていった1950年代にアメリカの空軍と海軍に支給されたフライトジャケットです。
布製や革製からナイロンジャケットに切り替わったのは、プロペラ機全盛だった戦闘機がジェット戦闘機への時代に変わったことが大きな理由ですね。
ジェット戦闘機が主流になるとプロペラ機よりも飛行高度が高くなり、フライトジャケットについた水分が布や革だと氷結してしまいます。
その氷結を防ぐためM-1のようなナイロン製ジャケットが考案されたのです。
MA-1の原型となっているのは、襟の部分にムートンがあしらわれた『B-15』というフライトジャケット。
しかし、襟にムートンがついていると防寒性は高まるのですが、狭い軍用機の操縦席の中では、パラシュート装備のような命に係わる機材や機器に引っかかってしまいます。
そこで、狭い操縦席の中で、身動きが取りやすいシンプルなデザインのフライトジャケットがパイロットから求められました。
そうして行きついたのがB-15から襟のムートンをはずしたMA-1ですね。
また、レプリカ品ではその裏地の色はまちまちですが、アメリカ軍への最大にしてほぼ唯一の供給メーカーであるアルファ社製のMA-1の裏地はオレンジ色になっています。
このド派手なオレンジ色の裏地をオシャレとして着るには少し抵抗があるかと思いますが、裏地がオレンジ色になっているのにはキチンとした理由があるのです。
この裏地の色は「レスキューオレンジ」と呼ばれ、戦闘機が墜落した時、パイロットはMA-1を裏返して着ることで、救援隊の目に留まりやすいようになるというのがその理由ですね。
また、操縦席に座ったとき、お尻で挟んでしまわないよう後の丈より前の丈の方が短くデザインされているのもMA-1の特徴です。
さらに、今ではタイトなシルエットのMA-1が発売されていますが、MA-1といえば、ポッテリとしたルーズなサイズ感。
これも極寒地での使用を想定しているため、中に服を着込んでその上からでも着用できるように…、という配慮からです。
その上、袖とウエスト部分がリブ仕様になっているので、風が中に入ってきづらい作りにもなっています。
ですので、その見た目から春秋のアイテムに見られがちですが、実は防寒性や防風性が高く真冬でも十分着ることができるアイテムといえるでしょう。
あの名優たちもスクリーンの中で愛用したM-65
ワイルドで無骨な印象があるM-65ジャケットはミリタリーアイテムの中でも、特に男性からの人気が高いアイテムですね。
M-65ジャケットは、アメリカ軍の野戦用ジャケットであり、『M-41』、『M-43』、『M-50』、『M-51』の系譜を継ぐフィールドジャケットとして開発され、1965年型モデルとして登場したことから『M-65』と名付けられました。
アメリカ軍のフィールドジャケットはこのM-65以降、細かな変更があったものの、「M-」のあとに続く数字が変更されるような大きなモデルチェンジがなく、M-65はフィールドジャケットの完成系といわれています。
その証拠にアメリカ軍だけではなくNATO諸国の戦闘服にも影響を与え、多くのブランドがこのM-65ジャケットをベースにしたミリタリージャケットを手がけていますね。
厳密に言うと、「M-65」には、「M-65フィールドジャケット」と「M-65パーカー」があり、M-65フィールドジャケットの上にM-65パーカーを重ねて着るというのが本来の着用方法になります。
ただ、「M-65」というと、今ではほぼM-65フィールドジャケットのことを指しますね。
映画『ランボー』の中でベトナムからの帰還兵であるランボーを演じたシルヴェスター・スタローン。
『タクシードライバー』の主人公であるロバート・デ・ニーロ。
さらには、松田優作さんや高倉健さんといった名優がスクリーンの中で、このM-65を着こなしていたことからファッションアイテムとして人気に火がつきました。
また、M-65はそのファッション性もさることながら、頑丈な作りと実用性の高さからアウトドア愛好家やバイカーなどが好んで着用していますね。
オフにはもちろん、ジャケパンやスーツの上からでも羽織れるM-65はぜひ持っておきたい1着です。
「モッズコート」とよばれ、スーツとも相性抜群なM-51
M-51は、さきほど紹介したM-65の前身モデルになるのですが、M-65がパーカーの中に着るジャケットとして有名なのに対して、M-51はジャケットの外側に着るパーカーとして有名なモデルです。
このM-51は、「モッズコート」とよぶ方がピンとくるかたが多いかもしれませんね。
モッズコートとはその名の通り、1960年代にイギリス・ロンドンでブームになった「モッズファッション」に身を包んだ若者が、彼らのファッションにM-51を取り入れたことで、こう呼ばれるようになりました。
モッズという音楽のジャンルをこよなく愛した彼らは、ビスポークで仕上げた細身のスーツにウイングチップのようなボリュームがある靴を履き、ヴェスパにまたがりライブ会場に出かけていました。
ただし、スーツだけではとてもロンドンの寒さに耐え切れません。
また、せっかく仕立てたスーツも汚したくありません。
ただし、労働者階級が多かった彼らには、コートを買うお金がない。
そこで、彼らは、軍からの引き下げ品であるM-51やM-65といったコートを安く手に入れて、それをスーツの上から羽織っていました。
M-51はモッズコート以外にも、『フィッシュテールコート』と呼ばれることがあり、背中の裾が魚のヒレのように中央から2つに分かれているのが特徴ですね。
『踊る大捜査線』の青島刑事が着ていたのも、このM-51。
スーツスタイルにももちろん、アメカジのようなカジュアルなスタイルにも相性抜群ですね。
イニシャルBはダテじゃない!地球上で最も過酷な寒冷地仕様N-2B/N-3B
ナイロン製フライトジャケットの礎を築いたMA-1から派生して生まれたN-2B。
アメリカ軍の中では、「A」は夏用を意味し、「B」は冬用を意味するコードになっており、N-2BはMA-1よりさらに寒冷地での使用を想定し、MA-1にボアのフードをつけて防寒性を高めています。
MA-1と大きく異なるのは、ボアつきのフードの他にも、厚手でより寒さに耐えられる仕様になっていることですね。
MA-1と同じくパイロットが着用するフライトジャケットなので、操縦席に座ったとき、裾をお尻で踏んでしまわないよう着丈は短くなっています。
そのN-2Bの着丈を長くしたものがN-3Bがあり、N-3Bの防寒性はミリタリージャケットの中でも最高峰。
それもそのはずで、N-2BやN-3Bは「ヘビーゾーン」と呼ばれるマイナス10度からマイナス30度という地球上で最も過酷な寒冷地向けに開発されています。
その上、さらにN-2Bよりも防寒性を高めたN-3Bは防寒性でいえば、最強のミリタリージャケットといっても過言ではないでしょう。
N-2Bが空の上でパイロットが使用するのに対し、N-3Bは主に極寒地での空軍基地で地上勤務する兵士に支給されていました。
極寒のアラスカ基地で働く兵士が着ていたことが多いことから、「アラスカンジャケット」とも呼ばれますね。
N-2BやN-3Bをさすがにスーツの上から羽織るのには抵抗がありますが、ジーンズやチノパンといったカジュアルウェアには相性抜群です。
実は、ミリタリーが発祥ピーコート
中高生からダンディーな男性まで。
幅広い年代から親しまれ、コート界のド定番アイテムであるピーコートも実は、ミリタリーから生まれたアイテムですね。
ピーコートの「ピー」は、錨の爪を意味し、イギリス海軍が制服に採用したことから、その人気が広まっていきます。
ピーコートは、オランダの船乗りが着ていた防寒具が発祥で、イギリス海軍の他にも、フランス海軍、アメリカ海軍でも軍服として採用されていました。
素材には、防寒性を高めるためにメルトンウールを使い、船上で左右どちらから風が吹いてきても前が留めやすいようダブルブレストになっているのがピーコートの特徴ですね。
また、船の上といった屋外で周りの雑音がうるさいとき、襟を立て、話し声が聞こえやすいようにと、襟が大きく作られているのも軍服としての名残です。
細身で丈が短いピーコートは、イマドキ流行のシルエットなので、カーゴパンツと合わせてよりミリタリーとして着るのも良し。
ジーンズでカジュアルにキメても良し。
さらには、ダブルブレストの重厚感を活かして、ジャケパンやスーツの上から羽織ってカチッとキメるのも良し。
と、オンにもオフにもフル回転まちがいナシのミリタリージャケットといえますね。
ダッフルコートのトグルに隠されたミリタリーとしての秘密
メンズ・レディース問わず人気のダッフルコートは、採用される国や時期が限定的だったため、マリンやカジュアルのイメージが強いですが、イギリス海軍に採用されていたれっきとしたミリタリージャケットです。
キャメル色のダッフルコートは、イギリス陸軍元帥であったモンゴメリー将軍が愛用していたことからモンゴメリーコートともよばれますね。
ダッフルコートの名前は、ダッフルコートに使われているメルトン生地の産地であるベルギーの都市デュフェルに由来し、その防寒性の高さは折り紙つき。
また、海軍だけではなく、北国の漁師が仕事着として着ていたこともあり、高い機能性もあわせ持っています。
ダッフルコートといえば、「トグル」といわれるその特徴的な留め具。
ボタンではなく細長い木の棒をループに引っ掛けて留めるのには理由があり、寒い甲板の上で手袋をはめながらでも、コートの開け閉めが出来るようになっているのです。
日本では中学・高校のスクールコートと指定している学校も多いようにミリタリージャケットの中でも、マジメさを演出できるのがダッフルコートといえますね。
もはやミリタリーの域を超越した存在トレンチコート
ビジネスコートの定番ともいえるトレンチコートも実は、ミリタリーから出発したアイテムになります。
トレンチコートのトレンチとは、日本語で「塹壕」。
第一次世界大戦の戦時中にトレンチコートは生まれるのですが、当時の戦争は塹壕戦が主流でした。
お互いの兵士が塹壕の中に入り、相手が攻撃してくるのを待ち構えていたため、塹壕の中に兵士が入ったまま、長い期間、睨み合いが続くのということが多々ありました。
塹壕は、土を掘り、その中で兵士が待機していますから、とても不衛生で雨が降ろうものなら、中は水浸しになり、とても寒い。
そんな状況で、兵士が長期間いると塹壕病という病気にかかってしまいます。
塹壕病は、塹壕特有の湿気が原因で、様々な病原菌が発生しやすくなり、寒さのため悪寒が走ったり、水浸しで足にカビが生えて腐ったりといった症状がありました。
そんな塹壕病から兵士を守るために開発されたのがトレンチコート。
通気性に優れ、悪天候もものともしないギャバジンという防水性の高い生地を発明したバーバリー創業者のトーマス・バーバリーは、この布を使い、探検隊や飛行船の中といった過酷な状況にも耐える製品を作っていました。
その製品力の高さからイギリス軍にも、バーバリー・クロスを使ったタイロッケンコートを納品していたのですが、塹壕病に悩む兵士を救うため、そのタイロッケンコートを改良し、誕生したのがトレンチコートというわけです。
タイロッケンコートは、ボタンなしで開閉できるコートでしたが、雨水が入ってこないように深いダブルブレストにし、ウエストのベルトを締めることでさらにその防水性を強化しました。
襟の裏にステッチが入っているのは、風よけのため、襟を立てやすくするためで、ベルト付近のDカンは、爆薬や水筒をぶら下げておくため。
右肩から胸にかけたフラップは「ガンフラップ」とよばれ、ライフルを撃った時の衝撃を抑える当て布として。
肩のストラップは、階級を表すバッジを付けたり、倒れた兵士を引っ張りやすくするために…。
と、今となっては、「なんでこんなものが?」といった飾りもすべてミリタリーアイテムとしてスタートしたことが理由です。
今では、フォーマルコートの代名詞ともなっているので、オンはもちろん、カジュアルな装いにも羽織るだけでオトナの魅力を引き立てることができますね。
まとめ
今、流行のMA-1からN-2BやN-3BといったフライトジャケットにM-65、M-51といったフィールドジャケット。
さらには、ピーコート、ダッフルコート、トレンチコートという定番ミリタリージャケットをご紹介いたしました。
ミリタリージャケットは、実際に兵士が使用する際の動きやすさや機能面を考えて作られていますので、「なんでこんなモノが付いているんだ?」といった装飾が多いですが、実はひとつひとつにちゃんと意味があるのです。
そんなディティールが、「無骨でワイルド」という男の本能をくすぐるので、今も昔もミリタリーアイテムは男を惹きつけるのかもしれません。
また、ミリタリージャケットは、定番のカーキの他にも、ネイビーやブラックといった色の変化にバリエーションを持たすことができ、タイトやルーズといったシルエットの違いもあり、同じ種類のジャケットでも、その表情は様々。
1着あると、一生モノの付き合いができる頑丈な作りになっているものも多く、ジャケット選びでお困りならミリタリージャケットは賢い選択といえるでしょう。