フルオーダーのスーツやジャケットにはフルオーダーのシャツやシューズが似合う。
とするとコートもフルオーダーがいいということになります。
ものごとには格というものがありまして、例えば飛行機のビジネスクラスにジャケットが似合うならば、ビーチサンダルはちょっと・・・と考える紳士諸氏の方は大勢いらっしゃると思います(ビーチサンダルはビーチサンダルでも、ビジネスクラスにふさわしいサンダルであれば、いいかと)。
よくディナー時はジャケット着用でジーンズはご遠慮ください、という記述を見ることがありますが、本人の思いはともかく、お店の雰囲気にフィットする服装とそうでない服装というのはあります。
本人の考えはさておき、マナーとしての装いは、いたるところに存在していますね。
モノとモノとの相性もありますから、山形県の水で育てられたこしひかりを食べるなら、そのこしひかりが育った水で炊いたほうが美味しいことと同じように、コートについてもスーツを仕立てたサルトに任せたほうが、スーツを着た際のバランスが際立つと私は考えておりますが、いかがでしょう?やはり、コートもフルオーダー、ということで。
実はコートに関しては、フルオーダーで依頼しようかどうか迷っておりまして・・・なぜなら、極度の暑がりだからです。
3ピースのスーツでも冬は十分快適な温度で過ごせそうだと思っている私に、はたしてフルオーダーのコートは必要なのか?と感じていたんですね。
しかし、知人の経営者から諭されたのですが、ファッションは周囲への気配りですよ、と。
我慢できないほど寒い時にコートを羽織ったとして、それがスーツやシャツとフィットしていない場合、どうしても残念な印象を与えてしまいますよね、と。
確かにそのとおりだと考えまして、社員や家族のためにも、コートをフルオーダーで発注することを決意しました。
現在、まだ手元には納品されたコートはないのですが、仮縫いまでは済ませましたので、そこまで紹介したいと思います。
コートの型はどうやって決める?
コートをつくるとなるとまず考えるのは、どんな型にするか?だと思います。
コートの場合、思いつくだけでも、トレンチコートやダッフルコート、Pコートにアルスターコート、ステンカラーコートなどいろいろな種類があります。ここに丈の長さを加えると、さらに丈の長さ分だけコートの種類が増えることになりますから(イタリアに限らないかもしれませんが、丈の長さによって名称が異なるので、その分コートの種類が増える印象です)、なかなか、選び甲斐があります。
名前からすると、アルスターコートなんてカッコイイ響きだな、と思っておりまして、型はどんなものかよく知らなかったものの、最初はコレをつくろうかな、と考えていました。
しかし私の場合、コートはほとんど着ないんじゃないか、という程度に暑がりでしたから、それほどコートの型には「これにしたい」という情熱はなく、ただ周囲へのマナーとしてふさわしいものを身に着けたい、という思いが第一にありました。
ですからそこは正直に、フィッターに伝えてみると、だったらアルスターコートではなくて、シングルブレストのコートの方がいい、と提案してくれたんですね。
なぜなら、アルスターコートだとダブルになるから、暑い。その分シングルならば重ならない分だけ涼しい。それにシングルブレストを持っていないなら、持っておいたほうがいい。ネイビーならば、この間納品した2つのスーツにも合うはずだ。
こんなふうに言われ、シングルブレストの膝丈コートに決まりました。
生地もフィッターのアドバイスを適用
生地はともかく、色はコートゆえ、万能に着ることのできる色がいいと考えていました。そんなことを考えつつ、受注会会場に並べられたヴィンテージの生地のなかでもひと際目に着いたのが、きつね色、というか金色の生地。
あれはカシミアだったのか、何の生地かは失念してしまいましたが、肌触りが滑らかで上品な光沢から感じられる雰囲気はグラマラス。
ゴージャスというか、芸能人でいうと叶姉妹に似合いそうな色と生地です。
コレはなかなかいいんじゃないかとその生地を肩に掛けたりしつつ、どうしようかと思案していると、再びフィッターからアドバイスが。
その生地だと暑いから、別の生地のほうがいいと思うと。こっちの生地ならコートには向いているし、暑がりな人にはピッタリだと思う。色はネイビーだけれども、どんなのものにも合うから、コレでつくっておけば間違いないよ。
こんな感じの言葉が出てきました。
金色からネイビーと派手から落ち着きへと移行しましたが、こっちのほうが君にあっている、と言われればその気になってくるから不思議なものです。
コートの型はシングルブレストで膝丈、そしてコートの色はネイビー、生地のメーカーはHOLLAND & SHERRYで決まりました。
HOLLAND & SHERRY(ホーランド&シェリー)
前々から気になっていたのですが、どうもナポリのサルトは、と言っても私がオーダーするサルトだけなのかもしれませんが、HOLLAND & SHERRYのバンチが多いなと感じておりました。
このあとでジャケットもオーダーすることになるミラノのサルトも、HOLLAND & SHERRYは必ずあったように思います。
不思議だったのはが、イタリアのサルトなのに、なぜHOLLAND & SHERRYなのかということ。イギリスの服地マーチャントなのに・・・。
少し調べてみると、どうやらナポリのサルトはHOLLAND & SHERRYを愛用していることに気づきます。
このHOLLAND & SHERRY,ホーランド&シェリーはフルオーダーをする人であれば知らない人はいないと言われている名門のようでして、創業は1836年、ロンドンのボンド・ストリートにて。
イギリス、また世界のスーツの聖地と言っても過言ではないサヴィル・ロウのすべてのテーラーがバンチを置き、世界中の著名なテーラーやサルトも扱っているのがホーランド&シェリー。
そうはいっても、街なかにあるスーツショップやセレクトショップに行っても、ホーランド&シェリーはほとんど見かけることなく、カノニコなどのほうが多いかもしれません。
その理由は、既製服に使うには高価すぎること(一般的な既成服用の生地からすると何倍にも!)、もうひとつが既製服向けに生地を売らないこと、だそうです。
ではなぜ、ナポリにしてもミラノにしても、私が仕立てたサルトはホーランド&シェリーを扱っているのかというと、生地の品質の良さ、がその答えになりそうです。
職人が手に入れることでより生地が引き立つような、そんな控えめな優雅さを漂わせる生地が、ホーランド&シェリー、ということですね。
ぜひフルオーダーを仕立てる際は、生地のブランドにも注目してみてください。より仕立てる楽しみを、味わうことができると思いますので。
仮縫い
この仮縫い、つい先月の末に行ってきたばかりなのですが、少し写真を撮ってもらったのでそれとともに紹介します。
オーソドックスなネイビーのシングルブレストコートになりますが、スーツを着たことを計算に入れての仕立てですと言われた通り、スーツを着てもスッと着ることができるというか、見た目がスッキリした印象です。
もっとも驚いたのは、やはりそのラインでして、裸の状態よりもスーツを着たほうが、そしてコートを着たほうが、ラインが美しく見えることに、自分の身体ではあるのですがウットリしてしまったほど。
コレで女性のコートを仕立てたなら、さぞ美しいものになるだろうという期待を抱かずにはいられません。
スーツのジャケット同様に、詰めるところは針とチョークでマークをしていき、ボリュームをつけるところも同様に針とチョークで着々とマーク。
仮縫いが終わると、ラペルやポケットをこんな感じでいこうと思うのだけれどもという提案を聞き、セクシーな男であればオーケーですと答え、仮縫いは終了。
はじめてのコートをオーダーしたわけですが、「暑がりだからいらないかな」とどちらかと言うと消極的な姿勢だったのに、仮縫いをすると過去最高の驚きをもたらしてくれました。
やはり一流の仕事は、違いますね。
ちなみにコートの場合、気になる価格ですが、HOLLAND & SHERRY、ホーランド&シェリーのバンチから選んだ生地で70万円ほどでした。
特に価格の内訳を聞いてはいませんが、使用する生地の長さに応じて、価格が変わってくる印象です。
オーダースーツの場合はヴィンテージ生地を利用の場合は上下で50万円。ベストをつけると60万円。
ですからコートの場合、ヴィンテージ生地を利用すると価格は上がるかもしれません。
しかし職人に価格を聞くのは野暮だということで、次回のコートはヴィンテージ生地でオーダーしてみたいと思います。
まとめ
この記事では、フルオーダーのコートをオーダーするにあたっての、型や色、生地の決定から仮縫いまでを、私の体験記として紹介するとともに、ナポリとミラノのサルトでよく見かけるバンチである、HOLLAND & SHERRY、ホーランド&シェリーについても紹介してきました。
コートをオーダーしたことで、スーツにシャツ、そしてシューズとオーダーしてきましたから、ナポリのサルトでオーダーできるものはあとネクタイと革の小物、ということになりました。
1年前には考えもしなかったコートのオーダーをするとは、環境によって人は変化していくことを感じています。
コートの本納品は2ヶ月後か3ヶ月後を予定しているようですので、その後にまた本納品のコートを紹介できればと思います。
最初のフルオーダーにコート・・・その敷居は高いかもしれませんが、今持っているスーツにもっとも合わせやすいのはコートかもしれません。
個人的には、シャツとスーツがあってのコートだと考えておりますが・・・。
もしコートが好きならば、カジュアルにも着ることのできるコートを一つ、オーダーしてみるといいかもしれませんね。
はじめてフルオーダーのコートを仕立てる際の、参考になれば幸いです。