1962年公開の『ドクター・ノオ』から2015年公開の『スペクター』まで50年以上という長きに渡って、世界中の男性を夢中にさせる007シリーズの主人公であるジェームズ・ボンド。
ショーン・コネリー、ジョージ・レーゼンビー、ロジャー・ムーア、ティモシー・ダルトン、ピアース・プロスナン、そして、ダニエル・クレイグ。
ジェームズ・ボンドを演じる俳優が変わっても、世界を魅了し続けるのは、「ボンドスタイル」とよばれるジェームズ・ボンドならではのファッションセンスが溢れ出ているからこそだと思います。
一見マジメな英国紳士スタイルの中に、ボンドらしいこだわりが詰まった着こなし。
たとえば、ボンドは、スーツの肩をブリティッシュショルダーに仕上げても、「ウィンザーノットでネクタイを締めるヤツは信用できない」と典型的な英国調スタイルであるウィンザーノットを完全否定。
また、足元も、紐靴だけではなく、スーツにスリッポンという組み合わせで履くことが多いですね。
正統派を理解した上で、自分なりのこだわりを取り入れて、ハズす。
「オシャレとは、何か?」という質問への、ひとつの回答といえるでしょう。
また、ボンドから、座るときはスーツのボタンをハズし、立ったときには、ボタンをかけるといったスーツ本来の着こなしを学んだ男性も多いのでは?
強くてスマート、さらにオシャレとくれば、ジェームズ・ボンドが女にモテるのも納得です。
007に登場する衣装には、スーツやシャツ以外にも、時計や車、葉巻といった小物まで、ボンドのこだわりたっぷり詰まっています。
そんなボンドが歴代007シリーズで愛したブランドをご紹介いたします。
「ボンドスーツ」ともいわれるその独特のスーツシルエット
ボンドスーツの原型を作ったAnthony Sinclair (アンソニー・シンクレア)
アンソニー・シンクレアは、既製服ブランドの名前ではなく、ロンドンにある仕立て屋の名前です。
第1作『ドクター・ノオ』の中で、CIAのエージェントであるフェリックス・ライターから「どこの服か?」と聞かれて「サヴィル・ロウさ」って答えるシーンがあります。
ジェームズ・ボンドのスーツは、イギリス・ロンドン中心部にある名門紳士服店が立ち並ぶストリート「サヴィル・ロウ」にあるオーダーメイドスーツ店で仕立てたという設定です。
で、実際に、ボンドスーツを仕立てたのが、客と対話を重ねながらスーツを作り上げていくビスポークスタイルのアンソニー・シンクレア。
スーツを日本語で、「背広」とよぶようになったのは、このサヴィル・ロウが訛ったという話は余談。
初代ボンドのショーン・コネリーが着用したスーツはすべて、アンソニー・シンクレアのピスポーク品であり、アンソニー・シンクレアが以降のジェームズ・ボンドのイメージであるボンドスーツの原型を作ったともいえるでしょう。
アンソニー・シンクレアは、007の原作者であるイアン・フレミングと、007シリーズ第1作目の『ドクター・ノウ』、第2作目『ロシアより愛をこめて』、第4作目の『サンダーボール作戦』という初期の3作品で監督を務めたテレンス・ヤングが行きつけのテーラーでした。
実は、「テレンス・ヤングこそがジェームズ・ボンドだ」という関係者の話もあるほど、ジェームズ・ボンドのファッションスタイルにはテレンス・ヤングの好みが反映されています。
肩のラインを強調せず、丸みのあるラインが特徴のナチュラル・ショルダー。
2つボタン、狭いラペル、控えめのウエストのシェイプに短めの丈やスリムなトラウザーズといったボンドスーツは、アンソニー・シンクレアが店を構えていたストリートの名前に由来する「コンジット・カット」という形をベースにスーツシルエットです。
さらには、深いダークカラーに細身のネクタイという当時の流行であったダブルブレステッドのスーツとまったくかけ離れたスーツスタイルで、これはテレンス・ヤングの注文だったと言われています。
ただ、このボンドスーツのスタイルが、それまでのヒーロー像とはまったく違った新しいヒーロー像として、ジェームズ・ボンドのイメージ作りに貢献したことは間違いありません。
イタリアンブランドの中に宿る英国紳士の魂 Brioni(ブリオーニ)
1995年に公開されたシリーズ17作目『ゴールデンアイ』より、5代目ジェームズ・ボンド、ピアース・ブロスナンが着用し、6代目ジェームズ・ボンドのダニエル・グレイグが演じた『カジノロワイヤル』まで、ボンドはブリオーニのスーツに身をくるみます。
ボンドは生粋の英国紳士ですが、ブリオーニはなんとイタリアンブランド。
これまでのボンド像が覆るのでは…、という予想とは裏腹にブリオーニのスーツは、見た目に威厳があり、ブリティッシュスーツの端正さは保たれていました。
ピアース・ブロスナンがブリオーニの黒いエレガントスーツで登場した時も話題になりましたが、ダニエル・クレイグが、ブリオーニのスーツにジョンロブのシューズ。
そこにペルソールのサングラスといったこれまでのボンドよりもセクシーを増した新たなボンド像を作り上げ、男性ファッション誌である『GQ』でベストドレッサーに輝いたのも記憶に新しいことです。
ボンドのセクシーが爆発!TOM FORD(トム・フォード)
「スーツが似合う男性」として、ダニエル・クレイグの人気を決定づけたのが、ブリオーニに代わって、007シリーズにスーツを提供することになったトム・フォード。
『慰めの報酬』、『スカイフォール』、『スペクター』の3作品で、ボンドが身に着けるタキシード、シャツ、ボウタイ、ニット、サングラス、とスーツ以外の衣装をトム・フォードが提供。
最近のボンドファンは、トム・フォードの印象が強いのではないでしょうか。
これまでのボンドスーツも、鍛え抜かれた体にフィットするタイトなシルエットでしたが、トム・フォードのスーツになってから、更にその傾向が強くなりました。
また、トム・フォードのスーツは、エルネメジルド・ゼニアの工場で作られているため、ゼニアらしいまるで鎧のような堅牢さを感じられる仕上がりとなっているのも新しいボンドスーツの特徴ですね。
英国紳士の嗜みはシャツから
ボンドらしい襟元を演出 Turnbull&Asser(ターンテーブル・アッサー)
サヴィル・ロウがビスポークスーツ店の立ち並ぶストリートなら、ジャーミンは、ロンドンでもシャツやネクタイ、靴といった服飾小物を取り扱う名店が立ち並ぶストリート。
そんなジャーミンの中で、ヒルディッチ&キー、バッドといった名門シャツ店が軒を連ねる中、ジェームズ・ボンドが選んだブランドは、ターンブル&アッサー。
英国王室御用達でもあり、ブランドタグには、チャールズ皇太子のワラントである紋もしっかり刻印されています。
ターンブル&アッサーが人気だった理由は、男のシャツといえば、「白の無地」という考えが常識だった時代に青やピンクといったカラーバリエーションに、チェックやストライプといった柄物のシャツをラインナップに加えたことでした。
歴代ボンドも白だけではなく、青のシャツを好んで着ていますよね。
また、ボンドスタイルを演出する秘密は、ターンブル&アッサー独自の「ターンブル・カット」に隠されています。
ターブル・カットとは、シャツの首筋から剣先にかけて、衿の形がほんのりS字を描く形のことで、ターンブル・カットを施したシャツは、ジャケットのラペルから衿が飛び出さず、引き締まった印象のVゾーンを作ることができます。
もちろん、シャツ単体で着ても、衿元は絶妙な見た目を演出。
ジェームズ・ボンドがシャツ1枚でもサマになるのは、ターンブル&アッサーのシャツだからこそともいえますね。
ボンドのVゾーンを一変させたTOM FORD(トム・フォード)
2009年に公開された『慰めの報酬』から、ダニエル・クレイグ演じるジェームズ・ボンドのシャツも、トム・フォードに変更となりました。
ダニエル・クレイグが着用するシャツの印象が、それまでのターンブル&アッサーから大きく変わったのは、衿元でしょう。
トム・フォードから大きく変わった衿元は、「タブカラー」と呼ばれ、ネクタイを締めた後、左右の衿元についているタブ(つまみひも)をボタンで留める衿の形です。
こうすることで、キュッと衿が引き締まり、ネクタイが少し盛り上がるので、Vゾーンが立体的に見えます。
タブカラーのシャツを着て、スーツのボタンを留めることで、タイトに引き締まり、凛々しい印象を与えることができるのです。
ダニエル・クレイグのボンドは、戦闘シーンの見せ場は銃撃戦より肉弾戦。
激しいアクションのあとでも、衿元が乱れないタブカラーは、どんな時にも身なりを整えるボンドらしい美学のあらわれともいえますね。
ハードなスパイ活動を支えるシューズ
ロンドンの雨から足元を守るCHURCH’S(チャーチ)
ボンドが活躍するイギリス・ロンドンといえば、雨が多い街でも有名。
しかし、雨ごときに負けるわけにはいかないボンドの足元を支えてきたのが、「雨が多いロンドンで、磨かずに済む上品な靴」をコンセプトに掲げるチャーチの『シャノン』。
チャーチの特徴は、雨でも耐えうる頑丈さと、長時間歩いても疲れないグッドイヤー・ウェルト製法。
激務なスパイ活動にあたるボンドにはピッタリですね。
チャーチの靴では、スウェードのチャッカブーツである『ライダー』も有名ですよね。
こちらのライダーも雨の日でも、滑りにくくガシガシ履けるダイナマイトソール。
見た目だけでなく、実戦で使える実用性にもこだわるのがボンドスタイルです。
1台の高級車よりも価値があるJohn Lobb(ジョン・ロブ)
「車はくれてやるから、トランクに入れておいたジョン・ロブの靴だけは返してくれ!」
これは、実際、高級車の盗難に遭った持ち主が新聞広告に出した一文ですが、車よりも靴が大事。
それほどまでに履き心地の良いジョン・ロブのシューズは、ジェームズ・ボンドもお気に入りの一足です。
007シリーズ第3作目である『ゴールドフィンガー』で、ボンドがアメリカに向かうゴールドフィンガーが所有する自家用機の中にあるトイレで、ジョン・ロブのヒールに超小型発信機を仕込んだシーンが有名ですね。
Crockett&Jones(クロケット&ジョーンズ)
『スカイフォール』、『スペクター』と2作続けて、ダニエル・グレイグの足元を支えたのがクロケット&ジョーンズ。
靴のデザインと機能を左右する上で、最も重要な靴づくりの土台となる木型(ラスト)を世界で最も多く持っているブランドとしても有名です。
ボンドに提供された靴は、「Camberley(キャンベリー)」、「Northcote(ノースコート)」、「Radnor(ラドナー)」「Alex(アレックス)」、「Norwich(ノリッジ)」、「Swansea(スォンジー)」の全6種類。
クロケット&ジョーンズの店舗では、この全モデルを購入することができるのでで、ボンド気分を味わえる、あなただけの足に合う一足がきっと見つかることでしょう。
ボンドにとって時計とは、ただ時を刻むモノだけではありません
スーツにダイバーズウォッチを確立させたROLEX(ロレックス)
初代ジェームズ・ボンドがセレクトしたのは、ロレックスサブマリーナ。
ショーン・コネリー主演作品では、サブマリーナがボンドの相棒として、スパイ活動を支えています。
現在では、当たり前になった「スーツにダイバーズウォッチ」というコーディネートは当時としては斬新でしたが、このスタイルを浸透させたのも、ボンドの功績といえるでしょう。
シリーズ3作目の『ゴールドフィンガー』の冒頭では、敵国基地に潜入し、時限爆弾を使って爆破工作を仕掛けたボンドが、その後、一服しようと取り出したマッチの火で爆破時刻をロレックスで確認したシーンは有名です。
2代目ボンドであるジョージ・レーゼンビーはサブマリーナの他にも、現行のデイトナの前身にあたるオイスタークロノグラフを使用。
『女王陛下の007』の中では、敵基地の機械室からロープーウェイで脱出する際、時計のストップウォッチ機能を使って、時間を測っていましたね。
日本が誇るSEIKO(セイコー)も007の歴史に名を刻む
1960年代の007シリーズでは、機械式のアナログウォッチが活躍しましたが、3代目ボンドであるロジャー・ムーアが登場した1970年代以降に活躍したのは、デジタルデバイスです。
そんな最先端のデジタルデバイスとして、1977年公開の第10作品『私が愛したスパイ』より、我らがメイドインジャパンのセイコーが007のスクリーンに登場することになります。
女性とお楽しみ最中のボンドが腕にはめたセイコークオーツLCから「007 至急、司令部に報告せよ」というMからの指令が、カタカタとテープで打ち出されるシーンではじまります。
これ以降、ロジャー・ムーア版007では、セイコーの時計が、ボンドの愛用品として、時には、秘密兵器として、大活躍することになりました。
また、第13作の『オクトパシー』では、現在のアップルウォッチを彷彿とさせる最先端デバイスとして、時計でテレビが観ることができるTVウォッチが登場。
実は、このTVウォッチ、映画の中だけのフィクションではなく、ちゃんと実用品として当時、発売されていました。
映画の中では、カラーで画像が映し出されていましたが、実際に販売されていたものは、モノクロでしか映りませんでしたが…。
世界最小のテレビとしてギネス記録にも認定されるなど、30年以上前に発売されていた時計とは、とても思えません。
世界に愛されるスパイを祝福するOMEGA(オメガ)
現代のボンドのパートナーであるオメガ。
ボンドとオメガの付き合いは、第17作目である『ゴールデンアイ』の中で、5代目ジェームズ・ボンドであるピアース・ブロスナンが使用してからです。
この頃から、007シリーズは、撮影費用も莫大なものとなり、タイアップで資金を提供してくれる会社を求めるようになりました。
タイアップしたオメガは当然、ボンドを全面に押し出した広告を展開していくことになります。
オメガが世界的に広告を展開していたおかげで、これまで007に興味がなかった男性に007シリーズに目を向けるきっかけともなりました。
以降の007では、MI6(イギリス情報機関)の正式採用腕時計として、ボンドの腕には、オメガのシーマスターが巻かれることとなります。
ただ、やはり初代の面影は強く、「ボンド=NATOバンドのロレックス」のイメージが古くからのファンには強かったのですが、2015年公開の『スペクター』の中では、オメガファンも大喜びの出来事が起こります。
それが、バンド部分がNATOストラップになったシーマスターの登場です。
また、シーマスターが物語の中でも重要な役割を果たすため、これにはオメガ愛好家だけではなく、古くからの007ファンもニヤリとする場面でしたね。
まとめ
歴代007シリーズを彩ったスーツ、シャツ、シューズに時計のブランドをご紹介しました。
これだけではなく、他にもアイウェアやタバコにライター、酒に至るまでボンドアイテムには、こだわりが詰まっています。
アタマが切れる上に、戦闘能力が高く、女性を虜にする端正なルックスと巧みな話術。
政治・経済はもちろん、芸術や下ネタまでをカバーする幅広い知識と教養を持ち、与えられた任務は完璧にこなす超一流。
反面、任務中にも関わらず、いい女を見かけると、ガールハントに勤しみ、新しいガジェットを目にすると、ついつい手を伸ばしてしまう…。
そんなジェームズ・ボンドに女性は魅了され、男性は羨望の眼差しを持って、世界中から愛されてきました。
それは、内面的な部分ばかりではなく、ボンドが身に包むファッションにもいえることでしょう。
ボンドが使用するアイテムには、それぞれに強いこだわりがあり、歴代ボンドが愛した逸品はどれも、世界最高級のものばかり。
また、逸品をただ身につけるだけではなく、シュチエーションや雰囲気に合わせた着こなしにもボンドらしい哲学が隠されています。
そんなボンドファッションに男性は憧れ続け、いつまでもヒーローとして君臨しているのでしょう。
子供が変身ベルトで正義のヒーローになりきるように、ボンドが愛した逸品を身につけ、ヒーローに一歩近いてみてはいかがでしょうか?