水戸黄門の印籠のようにその名前を見るだけで、思わず頭が下がる思いになってしまう「イギリス王室御用達」の文字。
その文字が並んでいるだけでそのブランドが伝統と格式があり、どんな保証書よりも安心感を覚える。
そんな不思議な魔力があります。
また、王室ファミリーに納品しているようなブランドだから、その製品は品質が良いだろうというある種の担保になり、さらには王室のアノ人と一緒のモノを使っているという所有欲と優越感を同時に満たしてくれます。
イギリス王室御用達の称号を与えられているブランドの数は、2016年10月現在で742。
ファッション関連となると、世界中でも52のブランドだけがその名誉ある称号を掲げることができるのです。
そんな品質と歴史が保証され、ほんのちょっぴりセレブ気分を味わえるイギリス王室御用達のメンズファッションブランド7つをご紹介いたします。
イギリス王室御用達は誰が決める?
まず、イギリス王室御用達ブランドとはいったい誰が定めているのでしょうか?
イギリス王室御用達は、英語では「Royal Warrant(ロイヤルワラント)」と呼ばれ、「ロイヤル=王室」、「ワラント=証明書や保証」といった意味になります。
イギリス王室御用達の名誉を受けたブランドは、店頭や製品にロイヤルワラントの紋章を掲げることが可能になるのです。
ただし、このイギリス王室御用達の称号。
なにもイギリスの国会で決められるわけではありません。
イギリス王室御用達の称号を与えることができるのは、現イギリス女王であるエリザベス女王。
そして、少々影が薄いですが、エリザベス女王の夫であるエジンバラ公フィリップ。
さらに、その二人の息子であるチャールズ皇太子。
現在この3人だけが、イギリス王室御用達を認定することができます。
イギリス王室御用達の歴史は、12世紀ヘンリー2世の時代までさかのぼり、1840年にロイヤルワラントホルダーズ協会が発足しました。
エリザベス女王・エジンバラ公フィリップ・チャールズ皇太子のうち一人にでもイギリス王室御用達に指名されると、そのブランドはロイヤルワラントホルダーズ協会に加盟し、イギリス王室御用達の証であるロイヤルワラントの紋章を掲げることが可能になります。
だたし、イギリス王室御用達の称号を得れば、未来永劫その称号を名乗れるわけではなく、その使用期間は5年。
5年ごとにロイヤルワラントホルダーズ協会から、品質やサービスが厳しく審査され、その審査に合格出来なければ、イギリス王室御用達の称号は取り消されてしまいます。
イギリス王室御用達の権限を与えることができる3人は性別も違えば、年齢も違い、その趣味もバラバラ。
なので、イギリス王室御用達の称号を受けているブランドは、ファッションだけに限らずお菓子やお酒、薬局やスーパーマーケットと多岐に渡ります。
そのブランド数は700以上にものぼり、1,000以上の商品がイギリス王室御用達を名乗ることが許されていますが、厳しい審査をくぐり抜けた一流のブランドだけがその名を語ることできるのです。
メンズファッションイギリス王家7ブランドをご紹介
世界でも5つしかない3つのロイヤルワラントを掲げることを許されているバブアー
バブアーは、イギリス王室御用達を認めることができるエリザベス女王・エジンバラ陛下・チャールズ皇太子という3人すべてからロイヤルワラントを受けているブランドです。
数ある王室御用達ブランドの中でも、3人すべてから認定を受けているとなると、たったの5つだけなので、老若男女問わず愛されるブランドといっていいでしょう。
バブアーは、1870年に創業し、1894年からイングランド北東部のサウスシールズの港で、北海の悪天候の下、働く漁師や水夫、港湾労働者のために「ビーコン」とよばれる油を塗って防水性を高めたオイルスキンの発売を開始しました。
このビーコンが優れた防水性と耐久性だったため、瞬く間に好評を得て、イギリス国内だけにとどまらず、当時、イギリスの植民地であった国々にも販路を広げていくことになります。
1914年から始まった第一次世界大戦では、イギリス軍に防水服を納品し、第二次世界大戦中には、バブアーの高い性能が評価され、バブアーのコートは潜水艦ウルスラの搭乗員服として採用されることになりました。
その後、植物のトゲに強い加工が施された「ソーンブルーフ」、モーターサイクル仕様のライダースジャケットである「インターナショナル」を発表。
インターナショナルは、1936年から1977年までイギリスのナショナルチームに採用され、スティーブ・マックイーンが愛用したことも重なり、ライダースジャケットの代名詞となりました。
こうしたモノ作りの品質の高さはもちろん、バブアーはカスタマーサービスの実力の高さも自慢です。
たとえ、どれだけボロボロになったジャケットを修理に出しても利益なしの実費のみで修理を受け付けてくれるのが多くのファンを獲得できている理由といえるでしょう。
その修理の方針もただ新品同様にするのではなく、修理に必要な部分だけを修理し、使い込んだ感じを残しておくべきところはそのままにするという方針で、何十年前に発売した服の材料でも保存しているという徹底ぶりです。
ある時、エジンバラ公がコートを修理に出した際、ポケットに空いていた二つの穴を塞いで返却したところ、「釣った魚の水抜きのために穴が二ついる」と言われ、それ以降、ポケットの穴が二つ空いたモノが定番となったことは有名なエピソードですね。
1974年にエジンバラ公、1982年にはエリザベス女王、そして、1987年にはチャールズ皇太子といった現在、ロイヤルワラントを許可することが出来る3人からイギリス王室御用達の証を授かっています。
イギリス軍にも正式採用される品質の高さバーバリー
バーバリーは1856年、若干21歳だったトーマス・バーバリーによって、創立されたブランドです。
トーマス・バーバリーはとても野心的な若者で、単なる洋服屋にとどまらず、作った洋服にファッション性だけを求めるのではなく、機能面においても深く追求していきました。
創業から数年で、ジャケットやマフラー、アクセサリーといった幅広く商品を手がけるようになり、その品揃えの良さを聞きつけた人々がはるばる遠方からでもバーバリーの店を訪ねるほどでした。
バーバリー製品は丈夫で雨や風、寒さといった気候や植物のとげから守ってくれるような頑丈な作りだったため、特にアウトドアでレジャーを楽しむ人々から評判は高く、1870年代には一大洋服店へとのし上がっていきます。
しかし、そうなってもトーマス・バーバリーの洋服へのあくなき挑戦は終わりません。
良いものだけを徹底的に作るという信念のもと開発されたのが、防水性と耐久性に優れたバーバリーの代名詞ともいえるギャバジン素材。
その品質の高さは、イギリス軍からも認められ、1895年のボーア戦争の時には、タイロッケンコートを。
また、1914年から始まった第一次世界大戦では、塹壕の中での戦闘用にタイロッケンコートを改良したトレンチコートをイギリス軍のために製造します。
大戦中には50万着以上が着用され、終戦後もその機能性の高さから市民の間では大人気のコートとなりました。
また、軍隊だけでなく、1910年には、ロンドン=マンチェスター間を24時以内に飛行することに初めて成功したクロード・グラハム=ホワイトが。
翌1911年には、南極点到達レースで勝利したノルウェー人冒険家のロアール・アムンゼンがその偉業達成時にバーバリー製品を使用していました。
さらには、1914年、南極大陸横断に挑んだアーネスト・ジャクソン率いる探検隊が全員、無事帰還出来たのもバーバリー製品を着こんでいたからという証言もあるほどです。
そんなバーバリーには、1919年にジョージ5世より初のロイヤルワラントが、1995年にはエリザベス女王から、さらに1989年にチャールズ皇太子と、3名からイギリス王室御用達の称号が与えられています。
ジェームズ・ボンドも愛したターンブルアッサー
007シリーズが好きな男性なら誰もが知っているターンブル&アッサーもイギリス王室御用達に指定されています。
1885年にレジナンド・ターンブルとアーネスト・アッサーが創業したターンブル&アッサーは、サビル・ロウに店舗を構えるビスポークの高級シャツ店。
オーダーメイドだけではなく既製品も取り扱っており、「男のシャツ=白色」といった考えが常識だった時代にブルーやピンクにストライプ柄といったシャツを投入し、それまでのシャツの在り方を変えてしまったブランドでもあります。
また、日本人には少し想像がつきませんが、イギリスという国は、徹底された階級社会。
しかし、英国紳士は相手に「君の階級は?」なんて質問するような無粋なマネはしません。
ただ相手が着ている服装を見て、階級を判断するのです。
「ターンブル&アッサーのシャツを着ているかどうか?」
とうのは英国紳士にとって、今後、その人と付き合うかどうかを判断するバロメーターになるほどです。
シャツだけではなく、タイやカフスといったアクセサリーも展開し、007で主役を務めたショーン・コネリーは公私ともに愛用。
イギリス元首相のウインストン・チャーチルや日本人では白州次郎もターンブル&アッサーのシャツを好んでオーダーメイドしていました。
そんなターンブル&アッサーは、チャールズ皇太子からロイヤルワラントの認定を受け、その2人の息子であるウィリアム王子とヘンリー王子も子どもの頃から愛用しています。
ウィリアム王子が婚約発表の場で着ていたシャツとスーツもターンブル&アッサーだったことからも王室からの信頼の厚さがうかがえるでしょう。
エリザベス女王の戴冠式用手袋を手掛けたデンツ
デンツは、1953年、エリザベス2世が女王陛下に即位した際の戴冠式用手袋を任された名誉ある手袋ブランドです。
1977年にイギリス・ウースターにて、ジョン・デントが創業し、革の鑑別と裁断技術の高さが自慢のデンツが作る手袋は、手にしていることを忘れてしまうほどのフィット感があります。
「手袋をしたまま、ポケットのコイン1枚だけをつまむことができる」
「手袋をしたまま、新聞紙をめくることができる」
ほどの繊細なその手袋は、「シークレットフィット」と呼ばれ、思わず手につけていることを忘れるほど。
1組の手袋を作るために必要な32もの工程は現在でも手作業で行われており、今でも世界最高級の手袋ブランドのひとつとして数えられています。
ロイヤルパープルの使用を許されたエッティンガー
エッティンガーは創業からわずか30年あまりという異例の早さで、イギリス王室御用達の栄誉を授かりました。
2007年には、ロイヤルコレクションとして、イギリス王室の高貴を表す色=ロイヤルパープルをその製品に使用することが王室より認められています。
これは、イギリスらしい品と格とを兼ね備えたブランドのみが受けることができる名誉で、このことからもイギリス王室から信頼を寄せられていることが分かるでしょう。
エッティンガーは、1934年にジェラルド・エッティンガーによってロンドンで創業され、主に馬具に使われるブライドルレザーをメインに使用しています。
ブライドルレザーは、堅くて厚いのが特徴で耐久性に優れた素材。
ただ、その反面、ブライドルレザーを使って、スーツのポケットに入れてもかさばらないように財布を薄く仕上げるのは至難の業でもあります。
しかし、エッティンガーの優れた職人はこの課題を克服し、ブライドルレザーの耐久性を保ったまま二つ折りにしても厚みが出ないスマートなレザーグッズを作り上げることに成功し、製品化されているのです。
また、エッティンガーといえば黄色い裏地を使ったツートンのコンビネーション財布。
これは、使う人の指に優しいようにと内側は頑丈なブライドルレザーではなく、パネルハイドと呼ばれる馬の鞍にも使われるしなやかで柔らかい革を裏地に使うという配慮で、裏地のみ色を変えたデザインで2001年にはギフト・オブ・ザ・イヤーを受賞しています。
ロイヤルコットンはエリザベス女王のお気に入り!ジョンスメドレー
ジョンスメドレーは、クリミア戦争で献身的な看護活動にあたったことで知られるフローレンス・ナイチンゲールの叔父ピーター・ナイチンゲールとジョンスメドレーによって1784年に設立されたニットブランド。
創業から200年以上経っているにも関わらず、いまだに手作業によって製品が作られているのが特徴です。
また、ジョンスメドレーは創業当初からダービシャー州マトロックのローミルスに工場を構え、一度もその場所を移したことがないことでも有名で、18世紀の終わりより工場を単独で運営するようになったジョンスメドレーの家族がその事業を脈々と継承しています。
創業当初は、綿花の紡績と生地造りに専念していましたが、18世紀から編み物や靴下製造に事業を広げ、時代とともに下着の生産、スイムウェアやナイトウェアへとその事業を拡大していきました。
ここで培ったニット製造の技術が今でも活かされ、高級ニットウェアの生産に繋がっています。
ジョンスメドレーの品質を支えるのは、ニュージーランドメリノウールとジョンスメドレーズシーアイランドコットンという厳選された最高品質の原材料のみを使っていること。
また、その最高品質の素材を手作業でつなぎ合わせることで、完璧な美しさのつなぎ目に仕上げ、網目の細かいニットウェアを仕上げることに成功しています。
そんなジョンスメドレーの顧客に名を連ねるのは、トム・クルーズ、マドンナ、ショーン・コネリー、ニコール・キッドマン、ヒュー・グラント、ポール・ウェラーといった錚々たるメンツばかり。
そこに花を添えるのが、エリザベス女王のロイヤルワラント。
ジョンスメドレーの代名詞ともいえるシーアイランドコットンは、中世ではイギリス王室が厳しく管理し、ロイヤルコットンともよばれていました。
長年、ジョンスメドレーが王室御用達でないことは謎だったのですが、2013年遂に女王からロイヤルワラントの称号を授かることに。
ジョンスメドレーはエリザベス女王、長年の愛用品で、女王陛下戴冠60周年記念のファッションショーでも登場したほどです。
既製服の概念を変えたダックス
1956年にエジンバラ公、1962年にはエリザベス女王、そして、1982年にはチャールズ皇太子よりロイヤルワラントを授与され、3つの紋章を掲げることが出来るブランドであるダックス。
1934年に創業し、創業者のシメオン・シンプソンはビスポークテイラーとしての腕も確かでしたが、事業家としてのビジネスセンスも持ち合わせていました。
彼の功績で有名なのは、世界で初めてテイラードの機械化に成功したことですね。
それにより、当時、主流だった仕立服と同じような品質の高い既製服を生産することが可能になり、「シンプソンスーツ」として評価を得ました。
ダックスが起こした革命はそれだけにとどまらず、シメオン・シンプソンの次男であるアレクザンダー・シンプソンはベルトが要らないベルトレスのスラックス「ダックストップ」を開発します。
当時のスラックスといえば、ベルトやサスペンダーを使ってスラックスを止めておくのが常識でした。
しかし、ゴルフのスイングをするたびにサスペンダーが邪魔になり、スイングした後、シャツがずれ上がることに不満を感じていたアレクザンダーは、スラックスのウエストに自由自在に伸びるゴムを使いました。
さらには、色や素材もこれまでグレーのフラノ一辺倒だったスラックスの既成概念を破り、様々な素材や色を使ったスラックスを発表し、その種類は50にものぼります。
アレクザンダー・シンプソンとビジネスパートナーであったダドリー・ベックはこの新しいスラックスの名前を考えるにあたって、アレクザンダー・シンプソンのイニシュアルである「AS」とダドリー・ベックの頭文字と最後の文字である「DK」を結びつけて「DAKS」と名付けたのが、ブランド名のはじまり。
ダックスは紳士服のみならず、婦人服分野にも進出し、帽子やネクタイ、マフラーにバッグから靴といった頭の先から足の先まですべてをカバーできる商品群を取り揃えています。
そのきっかけともなったのは、当時としては珍しい自社製品のショーウインドウとなる地上7階、地下1階建てのシンプソン・ピカデリーの建設でした。
シンプソン・ピカデリーは当時のロンドンでファッショントレンドを発信する最先端の未来型百貨店として1936年にオープン。
ファッションだけではなく、理髪店やレストランも立ち並び、オープンから1年後には婦人服が、第二次世界大戦中には軍服の販売もされていました。
その後は、ダックスブランドと世界の有名ブランドを中心に洋服やアクセサリーの販売を手掛け、ディスプレイには最新の紳士ファッションが並び、道行く人の視線を釘づけにし、ロンドンでもナンバーワンのファッションストアとして知られ、ダックスブランドも長く人々から愛されることとなりました。
まとめ
世界中に愛好家がいるイギリス王室御用達ブランド。
その称号を与えることが出来るのは、エリザベス女王・エディンバラ公・チャールズ皇太子という3人のみで、イギリス王室のメンバーなら誰でもその称号を与えられるモノではありません。
メンズファッションでは、「エディンバラ公・チャールズ皇太子の2人がお気に入りかどうか?」が御用達ブランドへの近道になりますが、近年では、オシャレ好きなチャールズ皇太子のおかげでイギリス王室御用達ブランドが増えました。
ただし、バブアーやダックスのようにエリザベス女王・エディンバラ公・チャールズ皇太子という3人すべてからロイヤルワラントを与えられているブランドもありますし、ジョンスメドレーのように女性であるエリザベス女王からしか与えられていないブランドも存在します。
最終的には、3人の好みといってしまえばそれまでなのですが、認められるためにはやはり実績が必要であり、認められてからも厳しい審査に合格し続けなければいけないということで、やはり、イギリス王室御用達の文字は、そのブランド力の高さを証明する証といえるでしょう。
今後は、チャールズ皇太子の息子であるウィリアム王子もこのロイヤルワラントを与えるメンバーに入ってくるでしょうし、メンズファッションブランドでイギリス王室御用達が増えることに期待ですね。