結婚式や披露宴への参列にお正月の初詣。
同窓会や子どもの七五三参りといった行事に参加すると、着物姿の女性は見かけますが、男性の和装姿というのはめっきり見かけなくなりましたね。
家族やカップルで出かけることが多い初詣や花火大会といったイベントに一緒に出かける奥さんやパートナーが着物や浴衣といった和装姿なのに、自分だけカジュアルな普段着。
子どもの七五三参りの記念撮影では、パパだけがスーツ。
そんな中、自分だって着物や浴衣といった和装を楽しみたいと思う男性も少なくないのではありませんか?
ただ、そんな男性にとって大きなハードルとなるのが、
「着物や浴衣の着方が分からない…」
「何から揃えればいいのか…」
といった和装について基本的な知識がないということですね。
洋服ならば、生まれた時から着ているので、
「シャツの着方が分からない」
とか、
「スーツの足元にはどんな靴を揃えればいいかが分からない」
といった人はいないでしょう。
しかし、和装といっても難しく考える必要はなく、一度、覚えてしまうと、実はとても簡単。
さらには、女性と違って着付けも簡単なので、慣れれば一人で着物を着ることができますし、時間も15分と、とっても短くてすむのです。
和装を着てみたいけど、何から手をつけていいのか分からない…。
そんなあなたのために着物と浴衣。
男のための和装講座をはじめたいと思います。
知っておきたいTPOに合わせた和装のドレスコード
一口に着物といっても、TPOに合わせて着用する着物の種類は変わってきます。
洋服でも、カジュアルならジーンズにTシャツ、ビジネスシーンならスーツ、フォーマルならタキシードやモーニング。
といったように着物にも普段着・外出着・礼装とTPO別に3種類に分けることができます。
まずは、あなたが着物を着るシュチュエーションごとにどんな着物が必要になりそうか。
そちらを見ていきましょう。
和装の正礼装「紋付羽織+着物+袴」
「紋付袴」が男性の和装スタイルでは最もフォーマルになり、結婚する新郎が和装を着るなら、紋付袴ということになります。
紋付袴とは、「黒五つ紋付羽織袴」の略で、「黒五つ紋付羽織」と「袴」の上下セットという意味ですね。
黒五つ紋付羽織とは、
・黒色で無地
・やわらかく光沢が出る織り方である羽二重で織っていること
・背中の中心、両後ろ袖、さらには両胸の5ヶ所に家紋が入っている
・やわらかく光沢が出る織り方である羽二重で織っていること
・背中の中心、両後ろ袖、さらには両胸の5ヶ所に家紋が入っている
この3つの条件を満たしている羽織が和装では最高級に格式が高い黒五つ紋付羽織となります。
羽織の下に着る着物は、羽織と同じ素材を使った羽二重で、同じく五つ紋入り。
オーダーメイドで紋付袴を作るなら、自分の家の家紋を付けることができるのですが、レンタルする場合には、自分の家の家紋がレンタル品の中にあるとは限りません。
その場合は、ワッペンのような家紋を作って、羽織と着物に貼りつけるのが一般的な方法ですね。
さらには、着物の下に着る下着は白色の羽二重と昔は決まっていましたが、現在では、衿・袖口・振り・裾だけといった部分のみを白二重にし、白の下着をもう1枚着ているように見える比翼仕立ての着物を着るのが一般的です。
また、袴は縞織りで袴地の最高級産地である宮城県仙台市で作られた仙台平の袴である必要があります。
紋付袴の場合、靴下代わりとなる足袋も白で統一しましょう。
女性なら結婚式に限らずお葬儀でも着物姿を見かけますが、男性にとって、紋付袴は結婚式だけではなく、お葬儀でも正装となります。
タキシードやフォーマルスーツなら、「お腹が出てきて入らなくなった…」ということもありますが、和装ならある程度、お腹が出てきても帯で調整できるので、礼装として紋付袴を1着持っておくのもいいですね。
コレが最も着る機会があるのでは?準礼装「羽織+着物+袴」
黒五つ紋付羽織袴が最も格が高い第一礼装だとすれば、黒以外の色付き羽織に袴を履くスタイルは準礼装になります。
五つの家紋が入った五つ紋、背中の中心と両袖に家紋がある三つ紋、背中の中心だけの一つ紋と紋の数が少なくなるごとにフォーマルではなくなります。
ただ、一つ紋でも家紋が入っていなければ礼装とは見なされません。
ですので、結婚式の参列などフォーマルな装いを求められる場所に行くなら、必ず紋付きの羽織が必要になります。
逆にフォーマルな装いが求められない場所に着ていくなら、紋付にこだわる必要はありません。
また、袴を履くこと自体が礼装になるので、準礼装以下の装いなら仙台袴でなくても、袴を履いていれば準礼装として見なされます。
この準礼装のスタイルが今では私たちにとって、最も身近な和装になるのではないでしょうか。
成人式で和装といえば、準礼装である「色付き羽織袴」になりますし、新郎としてではなく参列者として結婚式に参加するなら、略礼装である色付き羽織袴を着用することになります。
また、祝賀会や卒業式、お子さんの七五三参りといったシーンで着物を着るなら、色付きの紋付袴ですね。
和装スタイルのジャケパン「羽織+着物」
着物に羽織だけ着て、袴を履かないのが、よりカジュアルな着こなしですね。
羽織は洋装でいうとジャケットにあたりますので、羽織+着物というのは、ジャケット+パンツというジャケパンスタイルにあたるでしょうか。
普段つかいなら着物のみの「着流し」
羽織も着ない、袴も履かない着物だけの着こなしが着物の中では最もカジュアルなり、普段使いの和装になります。
洋服にたとえるなら、シャツにジーンズといったところでしょうか。
時代劇などでは町人が普段着として着ているのが、このスタイルですね。
着物の格にもドレスコードが!?
和装は、羽織と袴の組み合わせによってドレスコードが変わるのですが、もうひとつドレスコードを決める大きな要因が「着物の格」です。
礼装着としての着物は、黒羽二重五つ紋付の着物が最高ランクになり、その次が黒色以外の色で紋が付いた着物となります。
ただ、礼装着として認められるには、家紋がついているだけではなく、「染め」で仕上げている必要があります。
着物には2種類作り方があって、白い生地で作った着物を後から染める「染め」。
ます糸自体に色を染め、色のついた糸で生地を織って、その生地で着物を作る「織り」があります。
「織り」よりも「染め」のほうが格は高くなり、準礼装以上では、染めで仕上げた着物である必要があるのです。
しかし、織りの中でも例外として、「お召し」といわれる御召縮緬(おめしちりめん)を使った着物は染めである色紋付の着物と同格としての略礼装では着用することができますね。
お召しは徳川11代将軍である徳川家斉が好んで召したことから「お召し」とよばれるようになり、江戸時代には礼装として用いられ、その名残として今でも着物の格付けでは上位に位置しているのです。
着物のランクはこれ以降、紬、麻、木綿と続きますが、これらの着物では礼装として認められず、フォーマルを求められる冠婚葬祭の場に着ていくことはできません。
紬で作られた着物には高価なものなら、何十万円もするものがありますが、金額が高ければ格が高いというものでもありません。
何十万円もするようなデニムジーンズでも、それを履いて結婚式に参列出来ないのと同じですね。
あなたは分かる?下駄・草履・雪駄のちがい
下駄・草履・雪駄。
和装で履く履物はこの3つになりますが、実は、履物にも着物と同じようにフォーマルかカジュアルかといった出かけるシーンによって、履物が変わります。
靴でも、革靴とスニーカーの違いがあるようなものですね。
雪駄は草履の一種なので、大きく分けると、草履か下駄かという線引きができます。
下駄とは木で出来ていて、足の指を引っ掛けて簡単には脱げないようにするための鼻緒がついている履物のことですね。
さらには、足裏には歯がついていて、歩くと「カランコロン」と音を立てるのが下駄の特徴になります。
一方、草履は、下駄のように底には歯がなく平らになっていて、名前の通り、イグサやワラ、竹の皮などの草を使って作られていました。
現在ではビニールやゴム、ウレタンといった素材が使われますが、下駄との違いは「木製であるかどうか」ということですね。
下駄と草履とでは、草履の方がフォーマル度は高くなります。
下駄=スニーカー、草履=革靴ですね。
草履は、底の重ね芯とよばれる足への衝撃をやわらげるためにミルフィーユ状に何枚もソールを重ねて貼り合わせ、厚みが増すごとにその格が高くなっていきます。
そして、和装において最もフォーマルな履物は雪駄になるのですが、雪駄とは草履から発展した履物なのです。
しかし、下駄と草履は木製かそうじゃないかという違いがありましたが、草履も雪駄も使われている素材に違いはありません。
では、草履と雪駄の何が違うかといいますと、まず、名前の由来にもなっているように雪駄は水や雪の上を滑らないよう安全に歩くために考案されたものなので、防水機能として裏面に革が貼られているのが雪駄になります。
さらには、すり減りやすいカカト部分に補強として「後金」とよばれる金属製の鋲を打ち付けているのも雪駄の条件ですね。
また、表地と裏地との間にクッション代わりに挟むソール=重ね芯がつま先からかかとまでの通し芯1枚をサンドイッチするようにかかと部分のみ補強する半月型の芯が2枚。
合計3枚の重ね芯で構成されていて、それ以上重ね芯を使った履物は雪駄とはよべません。
あとは、表面が竹の皮やシュロ、籐(ラタン)などで編まれているもので、重ね芯にも同じ材料を使われているというのが雪駄の条件となります。
革靴の中でも、雪駄は内羽根式のストレート・チップ。
草履は、同じ革靴でもローファーのようにカジュアル向けといったイメージですね。
下駄<草履<雪駄
この順番でフォーマルになっていき、正装時には雪駄が必須になりますので、ぜひ、違いを覚えておきたいですね。
着物と履物以外でも覚えておきたい和装小物
コレを締めると、気持ちも締まる【帯】
着物をそのまま着ただけでは、はだけてしまうので着物をしっかり身体に固定するために帯が必要になります。
女性用の帯はその種類はたくさんあるのですが、男性用の帯は、「角帯」と「兵児(へこ)帯」という2種類しかありません。
角帯と兵児帯とでは、角帯の方が格は高く、礼装からカジュアルまでと幅広く使うことが出来ます。
一方、兵児帯はカジュアル向けで、礼装としては使用できません。
角帯と兵児帯の違いは、その素材にあり、自宅でくつろぐ際に締め付けが少ないようにと作られたのが兵児帯になります。
ですので、普段から着物を着て、できるだけ締め付けがない帯を選ぶなら兵児帯が良いでしょうが、どんな場面でも使える角帯を1本持っておくと何かと重宝するでしょう。
和装時の下着【襦袢(じゅばん・ジバン)】
襦袢とは着物の下に着る下着のことですね。
スーツの下に着るワイシャツのようなイメージでしょうか。
襦袢を選ぶにはサイズ選びが重要になるので、必ず上に着る着物のサイズを確認してから襦袢を選びましょう。
着物の背中の縫い口から袖までの裄(ゆき)よりも襦袢の長さが短くなるようにし、また、着丈も着物とピッタリかそれより短くしておく必要があります。
普段の生活の中から着物を着ようと思っているなら、着丈が短くて家でも洗濯がしやすい半襦袢という選択肢もあります。
ありますが、着物の醍醐味でもある袖口や衿元から襦袢がチラリと目える長襦袢をおすすめしたいですね。
コチラも白が正装用【足袋】
礼装用として着物を着るなら、足元には足袋が必須になります。
また、その色も白の足袋と決まっています。
礼装以外の場では必ず足袋を履く必要はありませんが、足袋には不思議と着物全体の印象をガラっと変えてしまう効果があるので、せっかくなので、足袋も合わせたいですね。
着物を着る時には、まずなによりも足袋から履きはじめますので、気持ちが引き締めるという意味でも和装にはなくてはならないものかもしれません。
礼装以外の場面で足袋を履くなら、白はなく色足袋を履くことが一般的なので、着る着物の色に合わせて足袋の色も楽しみたいですね。
帯の下で着物がはだけるのを防ぐ【腰紐】
腰紐とは、帯がゆるみ、長襦袢や着物がはだけてしまうのを防ぐために留めておくものです。
腰紐の中でも幅の広いものを『男締め』とよび、男締めは腰紐よりも腰回りをガッチリ固定することができます。
腰紐と男締めには、特に用途の決まりはないので、ご自身の好みで選んで大丈夫です。
着物を着慣れてくると、帯がゆるまないように着物を着こなすことができますが、着慣れないうちは、襦袢用・着物用と2本の腰紐を使って、はだけてこないようにしておくのがいいでしょう。
着物と浴衣の違いとは?
着物を着た経験はなくても、夏祭りや花火大会なんかに浴衣を着て出かけた経験がある男性もいらっしゃることでしょう。
また、旅館などでお風呂上りに浴衣を置いているところもあるので、着物より浴衣の方が着る機会は多いかもしれません。
でも、一見すると同じように見える浴衣と着物。
具体的に何が違うのでしょうか?
その前に、浴衣が生まれた経緯からお話ししますね。
浴衣はもともと、「湯帷子(ゆかたびら)」とよばれ、入浴時に着られるものでした。
入浴といっても現在のように湯船につかるわけではなく、サウナのような蒸し風呂に複数の人と入ることが一般的だったので、自分の裸を隠す下着のような役割。
さらには、水蒸気によるヤケドを防ぐために着られていました。
江戸時代に入ると、お湯をはった湯船につかる風呂屋が普及し、風呂の中で着ることはなくなりましたが、浴衣は湯上りの汗を拭きとる現在のバスローブのような役割を果たすことになります。
そして、そのまま風呂屋の帰りに外に出られるよう下着から外出着へ浴衣に求められる用途が変化しました。
今でも、旅館や民宿などの寝間着として浴衣が置かれているのには、こうした背景があるからですね。
浴衣にはこうした由来があるため、今ならパジャマ姿でウロウロするようなものですから、和装といっても最も格式は低く公の場に着ていくことは本来出来ません。
では、具体的に着物と浴衣の何がちがうのか。
浴衣はこうした経緯から肌の上に直接着るのに対して、着物は襦袢という下着を身に付けてから着ることが大きな違いです。
また、着物の中でも裏地があるものを「袷(あわせ)」とよび、裏地がないものを「単衣(ひとえ)」とよびます。
ジャケットも着ていて暑くならないようにと、裏地のないモノを夏用として着るように着物でも裏地がない単衣を夏に着ますよね。
ですので、夏に好まれて着ることが多い浴衣は裏地がない単衣ということになります。
また、使われている素材も着物は木綿や絹、ウールが主体に使われますが、浴衣に使われるのは木綿のみという見分けた方ができます。
浴衣の足元に下駄を履くのは、浴衣が和装の中でも、最もカジュアルな装いになるためですね。
まとめ
和装といっても、新郎が着るような黒羽二重の五つ紋付袴もあれば、成人式で見かける色付きの紋付袴。
和装のジャケパンである着物に羽織だけ、羽織も袴をつけない着流し。
さらには、浴衣と着ていく場所や目的によって選ぶ着物は大きく変わります。
花火大会や夏祭りに着ていくなら、最もカジュアルな浴衣に履物は下駄。
京都や金沢などの日本的な街並みを和装で小粋に歩きたいと考えるなら着流しでも十分でしょう。
着流しの上に羽織を羽織れば、お茶会やパーティー、歌舞伎の観劇などにはぴったりのおでかけ仕様に。
そういった遊びの場ではなく、フォーマルな結婚式や祝賀会に卒業式といった場面では紋付袴といった使い分けが必要になりますね。
そして、最も格が高いのは黒羽二重の五つ紋付袴は洋装のモーニングやタキシードにあたり、着られる場面は結婚式やお葬儀。
ドレスコードの基本的なルールさえおさえれば、和装はそれほど難しく考える必要はありません。
着付けもプロに頼めば、着付けにかかる時間は15分のみ。
慣れれば自分一人でも着ることは十分可能なので、女性が着物を着るのに比べれば遥かに簡単に着ることができるのも男性が和装を着る魅力です。
ただ、和装は洋服以上に自分の身体に合ったサイズが重要になるので、はじめは着物専門店でアドバイスをもらうのがいいかもしれませんね。