今やワークブーツの代表格となっている、レッドウィングのアイリッシュセッター。
ブランド名もアイテム名も全く知らなくても、ワークブーツとカテゴライズすると、必然的にこのブーツの形が頭の中に呼び起こされるのではないでしょうか。
それくらい、男性のブーツとして印象深いレッドウィング。
絶対的ワークブーツと言っても良い、レッドウィングを代表するブーツが「アイリッシュセッター」です。
しかし、沢山の類似品もあり、知らないままレッドウィング「もどき」を履いている人も多いようです。
そこで、上質なモノを求める男性には、本物のブーツ、そしてワークブーツの代表格であるアイリッシュセッターのことを知ってほしい。
そんな思いで、この記事を書いています。
もし、あなたが今履いているワークブーツに「?」があるのなら、この記事を最後までお読みいただいてから、今履いているブーツを確認してみてください。
そのとき、あなたは本物のワークブーツを見抜く力が宿っていることでしょう。
レッドウィンドウの歴史
アメリカ、ミネソタ州のレッドウィングという小さな街に1905年、チャールズ・ベックマンと14名の仲間達が小さな工場を設立しました。
その工場の名が「Red Wind Shoe Company」。
現在のレッドウィングです。
チャールズ・ベックマン率いる「Red Wind Shoe Company」は、街の名前をそのまま工場の名にしました。
実は、この街の名前には次のような逸話があります。
西部ミネソタは、その昔は延々と続く草原と湖が点在する大地でした。
そして、この地にはインディアン達が住み、主に狩猟によって生活を営んでいたと言われています。
そのインディアン達の中に、偉大な酋長である「タタンカマニ」と呼ばれている男がいました。
彼は赤く染めた頭に白鳥の羽根をつけていたので、当時訪れた白人や商人達は彼を「レッドウィング」と呼びました。
それから19世紀後半に始まる開拓時代。
白人が西部開拓のためにどんどんと入植していたころ、1857年、正式にこの地が市として認められます。
その時、町の名前には、かつてこの地を統治していた偉大な酋長に敬意を表して「レッドウィング」と付けられました。
このような生い立ちで「レッドウィング」と名付けられた街の名前を、チャールズ・ベックマン達は、自分たちが情熱を注ぎ込む小さな靴工場に名付けたのです。
レッドウィングがこだわる3つのポイント
レッドウィングには設立以来、一貫したこだわりがあります。
そのこだわりとは、次の3つです。
ソール
レッドウィングと言えば、トラクションレッドソール。
別名「クレープソール」や「ホワイトソール」とも呼ばれている、レッドウィングを代表するソールです。
このソールは1952年に開発された、アイリッシュセッターのために選ばれたソール。
もともとアイリッシュセッターは「狩猟用ブーツ」として生まれていますから、トラクションレッドソールが持つ「軽量」「足音が立ちにくい」という特徴は正にうってつけだったのです。
そして、レッドウィングがこだわり続ける、トラクションレッドソールは今日のアイリッシュセッターにも、グッドイヤーウェルト製法で縫いつけられています。
履き心地
続いてのこだわりは、履き心地です。
ブーツは重くてゴツゴツして、長時間履いていると疲れてくる。
「やっぱり履き心地悪いよね」というイメージをお持ちの方もいらっしゃるでしょう。
しかし、レッドウィングは独自の方法で、足に馴染む履き心地を実現しました。
そのこだわりとは、インソールとアウトソールの間にコルクを敷き詰めたこと。
歩くとコルクに圧力が掛かりなら、ほどよく力が分散されます。
そして徐々に、履き込むほどにあなたの足の形と同じ形状に中敷きの役目をしているコルクが変化していきます。
このコルクの力が、レッドウィングが世界で認められている理由の一つとなっています。
革
レッドウィングは革にこだわっています。
まず、革へのこだわりとして言えることは、すべての革はアメリカ産であるということ。
日本で販売されているレッドウィングのブーツであっても、その革はアメリカ産。
その理由は、ブーツの元となる原皮をアメリカ国内で調達することで、良質な革を新鮮で塩分が少ない状態で使うことができるから。
また、レッドウィングはブーツブランドでありながら、自社傘下に革を鞣すタンナリーを持っています。
革の調達からタンナー、そして開発から製造まで、全てを自社でコントロールすることで、高品質な革を使い続けています。
そもそもブーツはなぜ生まれたのか
レッドウィングが作るブーツ。
なぜブーツが生まれたのでしょうか?
現代のブーツから考えてみましょう。
まず用途として、大きく3つに分けられます。
(1)ファッション
(2)仕事
(3)雨具
(2)仕事
(3)雨具
では、この中のどれからブーツが始まったのかというと、仕事と雨具から発生したようです。
ブーツは環境から人の足を守るために生まれた経緯が多く、
・強靱さ
・防水性
・撥水性
・快適性
・防水性
・撥水性
・快適性
に重きを置いて作られているものがほとんど。
・森林の伐採
・電線の工事
・水辺の仕事
・油や熱に近い仕事
・砂や泥が多い場所
・電線の工事
・水辺の仕事
・油や熱に近い仕事
・砂や泥が多い場所
など、過酷な労働を支えてきたのが、ブーツの歩みと言えるでしょう。
そして、時が進むにつれ、労働分野でのブーツをコンセプトとして、ファッション性を豊かにしたブーツや、スポーツ用に設計されたブーツが登場してきました。
特に女性のブーツは、ワークブーツをコンセプトとしていながらも、ファッション性が重要視されています。
また近年、雨の日の女性の足元を飾っている「色柄とりどりのレインブーツ」も、もともとは「ウェリントンブーツ」と呼ばれるものを原型としています。
このように、ブーツは労働者を守るために作られたもの。
それが近代になり、英国で「パンクファッション」に取り入れられたりしたことで、労働分野以外にも人気が出たと言えるでしょう。
用途別ブーツの種類
ブーツが生まれた理由は、労働環境から人を守ることだったことがわかりました。
では、今日におけるブーツはどんな分野で使われているのでしょうか。
この展開を知っておくと、アイリッシュセッターだけでなく、ブーツを選ぶときにも、ブーツのコンセプトがひと目で理解できますから、あなたが欲しいと思っているファッションに合ったシルエットのブーツを選びやすくなります。
エンジニアブーツ
もともとは工場労働者や測量技師の安全靴として作られました。
足元からの危険を守るために頑丈な作りになっています。
また、靴ひもが機械などに引っかかると危険なので、靴ひもを使わずに甲からくるぶしにかけて、一対のベルトで足を固定するようになっています。
カウボーイブーツ
ロングブーツから派生した乗馬用のブーツです。
カウボーイが好んだため、カウボーイブーツと呼ばれていますが、別の呼び方としては「ウェスタンブーツ」とも呼ばれています。
コンバットブーツ
軍で使われるブーツをこう呼びます。
頑丈で撥水性や耐水性が求められるためオイルドレザーを使ったものが多いです。
ジャングルブーツ
軍が熱帯地域用に開発したブーツをジャングルブーツと呼びます。
このブーツは熱帯特有の高温多湿での使用を快適にするため、靴の中に換気孔がつけられています。
そのため、高温多湿には強いのですが、耐水性は低く、穴が開いているので足の保護という部分では、コンバットブーツには劣ります。
デザートブーツ
ジャングルブーツから派生した、砂漠で使うことに重点をおいたブーツです。
砂の摩擦に強いように、革にはスエードが使われているのが特徴です。
また、ソールには熱に耐えられるよう、耐熱性の高い素材が使われています。
ファッションでのデザートブーツは、見た目のコンセプトは似ていますが、機能は全く別物です。
ジャンプブーツ
落下傘部隊で使われるブーツです。
このブーツは軽くて丈夫、着地するときに足を守るため、丈が長くなっています。
不思議なことにジャンプブーツに採用された、二重になったつま先とツーピースソールの組み合わせがファッション業界に刺激を与えることとなり、人気のデザインとしてファッション性の高いブーツに取り入れられるようになりました。
ジョッキーブーツ
乗馬のときに使うロングブーツ。
踵に拍車を付けることができるようになっているのが特徴です。
女性向けのロングブーツには、このジョッキーブーツをコンセプトにしたものが毎年発表されています。
ジョッパーブーツ
ジョッキーブーツのショートタイプがジョッパーブーツです。
ファッションとしては、ショートブーツで靴ひもやベルトなど、足を固定する部品を持たずに、そのまま履けるブーツを指します。
タクティカルブーツ
警察や軍関係の特殊部隊が使うブーツです。
市街地や建物内で用いることに重点をおいているため、防水性はほとんどありません。
防水性の代わりに、軽量、滑りにくい、音が立ちにくい、踏んでも刺さらない、などの特徴を持っています。
ハンティングブーツ
狩猟用に作られたブーツです。
狩猟のためのブーツなので、水辺での快適性も取り入れているため、防水性、撥水性、そして静音性を重視しています。
また、足跡が残らないように、ブーツそのものを軽量化。
岩場などで滑らないようにするため、特殊なソールが使われていることが多いのも、このブーツの特徴です。
そして、男性向けのブーツのコンセプトになっていることが多いのがハンティングブーツであり、レッドウィングのアイリッシュセッターは今でもハンティングブーツとして愛用されています。
ワークブーツ
労働者が作業用に履くブーツを総称して、ワークブーツと呼んでいます。
ファッション分野では、ハイカットよりも少し長めの丈。
革製で丈夫なブーツを総じてワークブーツと呼んでいます。
アイリッシュセッターの生い立ち
現在は「ワークブーツ」にカテゴライズされていますが、ハンティングブーツが原型の「アイリッシュセッター」。
1952年に開発され、その後はレッドウィングの代名詞とも言えるブーツとなったアイリッシュセッターについてお話していきます。
アイリッシュセッターとは
アイリッシュセッターの特徴は「オロラセット」と呼ばれる「なめし革」にあります。
この革は赤茶色ですが、履き込むほどに経年変化することで犬種の「アイリッシュセッター」の毛色を思い浮かべる艶のある色に変化します。
そして、この変化から「アイリッシュセッター」と呼ばれるように。
それでは、時の変化を楽しめるアイリッシュセッターの歴史を見てみましょう。
1950年代
レッドウィングは、猟犬アイリッシュセッターを連想させるレッドラットの革を使って、スタイル番号854を作りました。
その後、ウェッジソールを備えたことで、ハンター達の間で話題となります。
そして、記念すべき1952年。
最初のアイリッシュセッターのロゴが作成されます。
1960年代
1960年代に入ると、トラクションレッドソールの広告が登場。
広告には、鉄骨を組み立てる労働者が使われました。
1968年になると、ウォータープルーフレザーを使った、新しいアイリッシュセッターが登場します。
このブーツの発表によって、アイリッシュセッターは只のロングセラーではなく、技術革新を行ったということで高い評判を手に入れました。
1970年代
レッドウィングは、アメリカに熟練工(クラフトマン)をターゲットとした広告を発表します。
この頃は、労働者向けの市場だったのでしょう。
1980年代
アイリッシュセッターはハンテイングだけのものじゃない。
そんなメッセージを活発に展開したのが、1980年代。
同時期に経営陣が若返ったという記録からもわかるとおり、もっと労働者層へ展開したかったのでしょう。
1990年代
アイリッシュセッターがレッドウィングから独自ブランドへと独立します。
このころから、アイリッシュセッターにレッドウィングの名前やロゴが消えていきます。
2000年代
しかし、ここで思わぬことが起こります。
販売店から「レッドウィング」の名前を復活させてほしいとの要望が寄せられました。
その結果、独自ブランドとして展開したものの、レッドウィングの名前を強調した方が有効という販売店側からのプッシュで、レッドウィングの名前が戻ってきました。
まとめ
さぁ、あなたのブーツを見てください。
あなたの本物のブーツでしたか?
もし、本物なら、あなたはすでに「本物」を見抜く力を持っていたということです。
えっ?残念?
アイリッシュセッターに「よく似た」ものを掴まされていましたか。
そんなあなた、本物じゃないことに気づく力が宿りましたね。
少し前まで、この記事を読む、ほんの数分前まで気づかなかったことが、今は気づくようになったということです。
そして、この数分間の間に貴重な経験と知識を身に付けたということでもあります。
アイリッシュセッターは、毎年毎年、本当に沢山の「よく似た」ワークブーツの中にさらされています。
正直、アイリッシュセッターが売れなくなるんじゃないか、とも心配することさえあります。
でも、そんな心配は今のところ必要ないくらい、日本をはじめ、世界中でアイリッシュセッターは愛され、また本物のブーツを理解している方に購入され続けています。
確かにブーツと言えばコレ、と言えるくらい「安心」のブーツですが、それは「信頼」の証でもありますから、もし「よく似た」ものを持っているだけなら、本物のアイリッシュセッターをこの機会に購入してはいかがでしょうか。
本物の革や縫製の良さ。
足にフィットする感触。
履けば履くほどに愛着がわく表情。
そして、アメリカの大地で育った牛革の
匂い
分厚さ
ブーツが似合う草原
本物の革の質感を肌に感じてイメージできることは、忙しい毎日の中での楽しいひとときではないでしょうか。