2020年8月8日

フルオーダー仕立て体験記(ナポリ編)

エルメネジルド・ゼニアやロロピアーナ、ドーメルなどの生地を使って仕立てたスーツやジャケットの情報ならば、インターネットや雑誌を探せば見つけることは難しいことではありません。しかしどれもパターンオーダーやイージーオーダーばかりで、フルオーダーがない。

一見フルオーダーと書いてはいても、仮縫いもなし、オプションは有料で加算方式であればそれは、何種類かのゲージを使ったパターンオーダーであることを想定した方がいいと思います。なぜならば、ゲージがあるということは、採寸の作業を効率的に行うための工夫であり、全てがハンドメイドで仕立てられるフルオーダーとは異なるものだからです。

フルオーダーの情報、なかでも本物の紳士が好むフルオーダーの情報がほしい。

そんなことを願うビジネスパーソンは少なくないと思いますが、残念ながらスーツを着る紳士諸氏の中でもフルオーダーに興味をもつのはごく一握り。

それもそのはずで、一着あたりの仕立てに50万円から必要になるわけですから、会社員の役員クラスであっても、そうそう手が出るものではありません。おそらく年収にして2,000万円以上は必要になると感じておりますし、だとすると日本の給与所得者のうちわずかに0.4%。会社経営者などを含めるともちろん数字は増加すると考えていますが、それでもごく一握りであることに異論はないでしょう。

インターネットも雑誌も、その多くは広く読まれる市場に向けて書かれるものですから、わずか0.4%の紳士諸氏のために記事を書こうとはなかなか思わないもの。

ですからこの記事では、フルオーダーの情報に出会えないビジネスパーソン向けに、私が仕立てたナポリのオーダースーツについて、体験記を記したいと思います。

これからフルオーダーを仕立てようと考えている方にとって、参考になれば幸いです。

なぜ、ナポリのフルオーダーにしたのか?

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役員兼社員として当時勤めていた会社を退職し、独立起業。その後はすぐに株式会社を設立したこともあり、時間は比較的余裕がありました。

事業をどう成長させようか、そのようなことを考えつつ、自分自身で仕事を行う時間が一日の大半を占めていたため、新しいアイデアはなかなか湧いてこない状況でした。

そんなこともあり、同じように会社を経営している方々との時間をもつようにしたことが、フルオーダーとの出会いでもあります。

ある経営者と出会い、同じセミナーや勉強会に参加しているうちに「身なりはやはり大切だ」と体感するようになり、その彼が着ているスーツやジャケットに興味をもつようになりました。

ある時着ていた、クリームをベースにしたオレンジと茶色のチェックのジャケットがひときわ目を引いたので、聞いてみると、ナポリのサルトリアで仕立てたとのこと。生地はエルメネジルド・ゼニアのヴィンテージで生地そのものがしっかりしており、ややごわつく硬い感じが印象的でした。ギュッと握ってもシワにならない。今思えば、はじめてヴィンテージ生地を意識した瞬間だったと思います。

そのジャケットのみならず、緑色のモヘアのジャケットやクラシカルなスーツ、カジュアルにも着れる色合いのスーツなど、様々なスーツに魅了され、やがては私もナポリのサルトリアでスーツをつくりたい、と思うようになりました。

そんなある日、その経営者の彼から誘われたことが、フルオーダーを仕立てるようになったキッカケです。

よかったら一緒に行きますか、と誘われたので二つ返事で回答。

ですから、たまたまナポリのフルオーダーをお願いすることになったのであり、もしミラノのほうが先でしたら、ミラノでフルオーダーをつくることになったのかもしれません。

いずれにせよ、ナポリのフルオーダーをつくることになったのは、紹介の順番によるものでした。タイミング、ありますよね。

フルオーダーは受注会からはじまります

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今でこそ受注会を経験して1年が経ちましたから、フルオーダーといえば受注会やトランクショーと呼ばれるものに参加する必要がある、といえますが、当時は右も左もわからない状態でしたから、何もかもが新鮮で、そしてやや恐ろしい気持ちもありました。

だいたいフルオーダーがどの程度の納期でどの程度の価格を要するものなのか、何の知識もなかったですから知人に聞いてみると、

「職人に納期や価格を聞くのは野暮ですよ」

と。うーん、確かにそれはうなずけるところ。

もはや納期や価格ではないところにサルトの価値がある。そんな気さえもしてくる初受注会でした。

ナポリのサルトによる受注会の場合、大体が決まって東京の恵比寿あたりで行われるようで、会場は1週間や1ヶ月単位で借りることのできるサービスアパートメントにて。

立地もさることながら、調度品なども高級感のあるものを揃えたサービスアパートメントでして、2ベッドルームを用意し、リビングで受注会を開催。ベッドルームはスーツやジャケットなどのフィッターとシューズの職人が日本滞在中に使う、という感じです。

閑静な住宅街にあるそのサービスアパートメントの入口を入り、指定された部屋のドアを開けてリビングに行くまではマンションを訪問するかのような感じですが、ひとたびリビングに足を踏み入れると、フィッターと職人、そしてエージェントの3人が笑顔で近寄ってきて握手。

リビングを眺めると、生地のバンチはもちろん、この受注会のために仕入れてきたヴィンテージの生地が整然と畳まれ、重ねられています。

リビングの壁際にはズラッとシューズのサンプルが並び、黒や茶、焦げ茶にやや赤みがかった茶色、そしてグレーややや青みがかった色はもちろん、ストレートチップやモンクストラップ、モカシンにブーツなど様々な種類のシューズを楽しむことができます。

仕立ての参考になる雑誌も用意され、そしてテーブルにはイタリアから持ってきたモッツアレラチーズやオリーブ、バゲットが並び、まずはということでワインで乾杯。

食後にはリモンチェッロが登場し、オーダーをしにきたというよりは、パーティーの前夜祭に来たような感覚を覚えました。

馴染んできたところで、思い思いにヴィンテージの生地やバンチに触れ、どんなものをつくろうか各自で検討。

仕事はもちろん遊びでの付き合いも大切にする、そんなナポリの男の矜持が垣間みえる、受注会です。

受注会の雰囲気はナポリ風

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一般的にナポリ仕立てのスーツは柔らかいカーブと軽やかな印象が特長とされていますが、ナポリのフィッターもまたそういう雰囲気であるとともに、自己主張がハッキリしている様子でもあります。

フィッターとシューズの職人が何度も何度も仕事について火花をちらしているのを見かけましたから、コレもまた、仕事をするパートナーとして彼らが大切にしていることなのかもしれません。

しかしナポリの雰囲気もきっとそうなのか、受注会の雰囲気は常に明るく、笑顔という表現が似合います。

彼らのこだわりが反映されたものが、ナポリ仕立てのオーダースーツ。

そんな感想を持ちました。

個人的にはここで食べたモッツアレラチーズをはじめとするチーズ、またオリーブが過去に食べた記憶が無いほど美味しく、また彼らと食事に行くと決まってイタリアンなのですが、イタリアンのなかでも彼らが美味しいと思うお店に連れて行ってくれます。

六本木ならどこどこで、白金ならどこどこと、さすがに長年日本で受注会を開催しているだけあって、詳しい。そして美味しい。

もてなすことのできるお店での食事を含め、同じ時間を目一杯楽しむ。

それがナポリの男たちの仕事の流儀なのだと思います。

生地は大きく分けて2つのカテゴリーから選びます

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さて、フルオーダーといえばまずは何をつくるかよりも、どんなシーンでの服を仕立てたいのか?

私の場合、人前で話すこともある関係で、ジャケットを羽織ることが多かったものですから、最初はジャケットをオーダーしようと考えていました。

しかしここで紹介してくれた知り合いから、せっかくなので一着目はスーツはどうでしょう、というのでスーツを仕立てることに。

スーツでもジャケットでもパンツでもそうですが、フルオーダーを仕立てる場合は、大きく2つのカテゴリーから生地を選ぶ必要があり、1つはバンチから、そしてもう1つはヴィンテージ生地からです。

バンチは生地メーカーがつくっているものですから、一着仕立てたら終わりという品切れはありません(ただし生産をストップした場合はその限りではないですが・・・)。

一方、ヴィンテージ生地の場合はその生地の長さにより、「一着仕立てたら終わり」ということも考えられます。

実際、私がはじめて仕立てたスーツは当初3ピースで発注したのですが、ベスト分の生地が足りず、ベストのみバンチからフィッターに選んでもらい、コーディネートしてもらった思い出があります。

今やそのスーツに身を包む度に、同じスーツは二つとないのかと、そのスーツを着ることのできる喜びに自然と姿勢が正されます。

今流行の色や柄ならばバンチのほうが種類も豊富で選びがいあると思いますが、今のバンチにはないゴワゴワとした力強さ、ギュッと握ってもシワにならない回復力など、長く愛用したいのであればヴィンテージ生地かな、と考えています。

先日はじめて、バンチから選んでもらった生地、これはHOLLAND & SHERRYの生地で仮縫いしたシングルコートを羽織ってみたところ、記事がもたらす穏やかさに思わず顔をほころばしました。

どちらの生地がいいとは一概にはいえませんが、どちらにしようか、それとも両方試してみるのか、そんなふうに悩む楽しみがあるのも、フルオーダーの醍醐味だと思います。

採寸は談笑しながら

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受注会で最も長い時間を要するのはチーズやオリーブ、ワインを楽しむときと、生地を選ぶとき。たぶんこの2つではないかと思います。

スーツにするのかコートにするのかを選んだ生地とともにフィッターに伝えると、メジャーを取り出して採寸開始。

後ろに回ってときにはくすぐられながらの採寸は、時間にして5分程度だったかもしれません。

手際の良さももちろんですが、採寸しながらのコミュニケーションに、プロフェッショナルを感じます。

筋肉などの確認も、このフィッターが行うことで自ら仮縫いをするわけですが、描くカーブなどに反映されるわけですから。

談笑しながらの採寸はリラックスさせてくれる効果もありますので、この空間を楽しむためにこそ受注会に参加する、という気持ちにもなります。

採寸結果をオーダー用のファイルに書き込み、バルカポケットにするのか、サイドベンツにするのか、ラペルはクラシカルな型でいいのか、フラップかパッチか、パンツはボタンにするかファスナーにするか、後ろポケットはひとつでいいかなどなども、書き込んでいきます。

個人的には最初はフィッターに見立ててもらったほうがいいものが出来上がるように思います。

プロフェッショナルに身を委ねる、それもまた男の流儀だと感じますから。

まとめ

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フルオーダー体験記のナポリ編として、なぜナポリなのか、そして受注会への参加から採寸までを紹介しました。

はじめてフルオーダーを仕立てる場合、サルトは違えども参考になれば幸いです。

続編として、採寸後のクラブ遊びや仮縫い体験、そして納品体験も書いていますので、そちらも合わせてご覧くださると、うれしいです。

プロフェッショナルに身を委ねる男の流儀。

ぜひコレを楽しめる男性が増えていけばと思います。

フルオーダー仕立て体験記その2(ナポリ編) 」の記事はこちらをクリック。

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