あのスティーブ・ジョブズも実践していたことで有名、グーグルやインテル、フェイスブックといった世界をけん引する大企業やイギリス議会でも取り組みが始まり、何かと話題のマインドフルネス。
でも、ただ瞑想や座禅をすることだったり、ストレスになんとなく良いと思われていたり、と言葉だけはよく耳にしますが、実際に、マインドフルネスとは何なのか?
という問いに答えることが出来る人も少ないのでは。
マインドフルネスとは、心理療法のひとつで、主にうつ病の再発を予防するために生み出されたプログラムのことです。
2011年にはイギリスの国立医療技術評価機構(NICE)から、うつ病の再発予防が見込める費用対効果の高いプログラムだと推奨され、医学的にも効果があるプログラムであることが実証されました。
マインドフルネスはこれまでうつ病治療の医療現場で使われてきましたが、マインドフルネスを実践することで、うつ病の症状を治すといった側面だけではなく、
・集中力が増える
・ストレスや不安が軽減する
・創造性が増える
という効果も見られ、こういった側面に注目した企業が社内の生産性や創造性を向上させるためマインドフルネスを取り入れ、実践しているのです。
たとえば、2016年の初場所で日本人力士として10年ぶりに優勝を果たした琴奨菊関もマインドフルネスを取り入れて効果を上げた一人です。
マインドフルネスを取り入れたメンタルトレーニングを実践し、それまで課題だった精神面の脆さを克服することに成功しました。
今や、琴奨菊関の代名詞ともなった取り組み直前に大きく上半身を後ろに反らす「琴バウアー」。
あれは、ラグビー日本代表の五郎丸選手がキックの前に行う「五郎丸ポーズ」と同じで、集中力を高めるために行うルーティンのひとつです。
マインドフルネスをはじめとするメンタルトレーニングの第一人者である東海大学の高妻容一教授のアドバイスにより、自分のコンディションだけに集中し、ベストパフォーマンスを発揮できるように行う一種の儀式なのです。
ルーティンといえば、メジャーリーグのイチロー選手もネクストバッターズサークルから打席に入るまで一連して同じ動作を繰り返しているのも、集中力を高めるために行っているためというのは有名ですよね。
世界的な大企業や一流のアスリートまでもが取り入れるマインドフルネス。
実は、実践することで、集中力が高まり仕事の能率が上がるといったビジネス面の好影響だけではなく、健康面や人間関係のイライラも軽減できるとあって、取り組まないのはもったいない!
そんなマインドフルネスについてお伝えしたいと思います。
マインドフルネスとは
マインドフルネスとは、ひとことで言うと、「今、自分の目の前で起きていることに意識を集中させること」。
マインドフルネスに座禅や瞑想が取り入れられるのは、「今に集中すること」が行いやすいからなのですね。
座禅や瞑想は、ただ息をすることだけに集中し、その間にも頭の中には、いろいろな考えや思考が浮かびますが、それにとらわれない。
そういうことを繰り返すことによって、「今」に集中することが出来るトレーニング法です。
座禅は文字通り、座って行うものですが、実は、歩行禅といって歩きながら行う禅も存在します。
座って行うのが座禅だとしたら、歩行禅のように姿勢や体の動きに決まりはなく、目を閉じることによって、心を静め、無心になって意識を集中させるのが瞑想です。
こうしたインドで生まれた瞑想の考えが仏教に取り入れられたのが座禅。
そして、古代インドより精神面だけではなく、肉体面も鍛えるフィットネスとしてはじまったのがヨガ。
座禅・瞑想・ヨガ。
それぞれ行う所作は違っても姿勢や呼吸を整え、気持ちを静め、意識を集中させるために行うということは共通しているのです。
人の悩みの多くは、
「過去を思い返し、後悔すること」
「未来という不確かなものへの不安」
この2つに分類されます。
「あの時、ああすれば良かった」といつまでもクヨクヨして、今、自分がやるべきことに集中して取り組めない。
また、「こうなったらどうしよう、ああなったら最悪だ」とまだ起こってもいない未来の出来事ばかりに意識を向けてしまい、本来、自分がやるべきことに集中できていない。
こういう状態で、自分のベストパフォーマンスを発揮するのは、とても難しくなりますよね?
なので、現在の自分という「あるがまま」を受け止める。
それが、マインドフルネスの目指すところといえます。
何か自分にとって、イヤなことが起きた時、感情が反応して不安な気持ちや憂鬱な気分になり、その感情に引っ張られるようにネガティブな思考や認知が生まれ、ネガティブな思考や認知がさらに感情に悪影響をおよぼします。
そうなると、さらに大きな不安や憂鬱が押し寄せる…、といった悪循環に陥ってしまいます。
この悪循環から抜け出せないまま発展していくことで、うつ病や抑うつ状態へと繋がってしまうのです。
自分の外で起きる出来事である事実を意味づけする「認知」。
この認知のクセを「自動思考」とよぶのですが、自動思考には人それぞれいくつかパターンがあります。
その中でも、ある事実をネガティブな意味づけする認知のクセを持っている人が、うつ病などの悪循環に陥りやすいですね。
たとえば、
「友人にメールを送ったのに返信がない」
という「事実」があったとして、
「ひょっとしたら嫌われているのかな?」
とか、
「メールの中で何かマズイことを言ったかな?」
と考えてしまうのが、ネガティブな意味づけをしてしまう「思考」や「感情」があれば、一方では、
「仕事で忙しいだけだから、また、時間が出来たら返信があるだろう」
とか、
「キチンとした答えを出すために、しっかり考えてくれているのだろう」
といったように同じ「メールの返信がない」という「事実」に対して、ポジティブな意味づけをする「思考」や「感情」を持つこともできますよね。
元々持っている気質や環境によって育まれた性格にもよりますが、こういったネガティブな意味づけをしやすく悪循環に陥りやすい人があなたの周りにもいませんか?
マジメで几帳面、自分よりも他人のことに気を遣い、規律や秩序を重んじる。
そういった人は悪循環に陥りやすいのですが、この「事実」に対する「思考」・「感情」が人それぞれあるのはご理解いただけるでしょう。
事実に対する思考・感情がネガティブな意味づけしやすいからうつ病などの悪循環に陥りやすい。
そこで、「事実と思考・感情とを分けて考えるようにしましょう」というのが認知療法なのです。
マインドフルネスの源「認知療法」
認知療法の目的は、事実と思考・感情を分離し、現実に起こっている事実とその事実に対する自分の思考、そこから生まれる感情を冷静に受け止め直すことです。
特に、認知のクセである自動思考に偏りが出やすいところに焦点を当て、その意味づけを操作していくことで、事実に対して、いろいろな角度から光を当て、柔軟なモノの捉え方や考え方ができることを目指していきます。
それは、事実を事実として、受け止めることができると、感情の起伏は少なくなり、安定しやすくなるからです。
この認知療法には、様々な手法があり、マインドフルネスとはその手法のひとつなのです。
認知療法の基礎は、今に始まったものではなく、古代ローマ皇帝のマルクス・アスレーリオスは、
「君がなにか外的な理由で苦しむとすれば、君を悩ますのはそのこと自体ではなく、それに関する君の判断なのだ」
という言葉を残しているように古代ローマの時代から認知療法的な考えがあったと見て取れるでしょう。
それからも人類の認知療法に対する研究は進み、1960年代に入ると、精神科医のアーロン・ベックが認知療法の基礎を作り、その後もいろいろな技法や概念が誕生しました。
そうした流れの中、マインドフルネスは1990年代に第3世代の認知療法として誕生します。
医療分野におけるマインドフルネス
マインドフルネスは、心理療法の世界では、マインドフルネス認知療法(MBCT)とよばれ、1979年に開発されたガンや疼痛、心臓病や線維筋痛症といった身体のストレスを癒すことに焦点を当てていたマインドフルネスストレス軽減法(MBSR)をうつ病治療に転換したものです。
その中でも代表的な治療法が、「マインドフルネス瞑想」。
マインドフルネスが大きく話題になっているのも、認知療法の中にある、マインドフルネス認知療法。
さらにその中にあるマインドフルネス瞑想にスポットが当たっているのです。
マインドフルネス瞑想自体は、2,500年以上前から原始仏教で取り入れられている瞑想方法で、現在でも仏教先進国であるミャンマーなどで実践されている瞑想法になります。
日本でこれまであまりマインドフルネスが知られてこなかったのは、マインドフルネスが原始仏教の概念であり、日本に伝わった仏教である大乗仏教にはマインドフルネスという概念がなかったのが理由です。
実際にやってみよう!マインドフルネスのプログラム
マインドフルネスの実践は、いたってシンプルで、特別難しいことはありません。
マインドフルネス瞑想にはいくつかバリエーションがあるのですが、立って行う瞑想、歩いて行う瞑想、座って行う瞑想、食べて行う瞑想なんていうのもあります。
日常生活において、歩いているとき、電車に乗るとき、食事をするとき、自分の心と体がどう動いているのか?呼吸がどのように変化しているのか?といったことに意識を向けて生活している人は少ないと思います。
そんな日常生活の動作の中でも、私たちは無意識に感じたことや思考を頭の中で言語化し、無意識で感じたことを「イライラ」や「不安」といった言語にしてしまうことが多いと、心の病につながっていくのです。
電車が遅れて「ムカつく」と思うのも、仕事で失敗して「もう会社に行きたくない」と思うのも、無意識に自分が感じたことを言語化して意味づけしているのです。
また、目の前のことに集中しようとしても、スマホのメール受信音が気になったり、体がむずがゆくなったりして、集中力が続かない…、といった経験はないですか?
そういった時、外の出来事に意識を向けるのではなく、自分の中に意識を向ける。
そうした意識を自分の中に向けるために瞑想があるのですが、たとえば、食べる瞑想では、レーズンを使ったエクササイズがあります。
その方法は、まずレーズンを一粒手に取り、よく観察します。
そのレーズンをあとで思い出して、絵で描けるくらいまで色やシワといったひとつひとつに至るまでジックリ目でとらえるのです。
そして、次に目をつぶって、レーズンの匂いを鼻の奥で十分に感じます。
そのあと、口に含むのですが、口に入れた時もまだ噛まずに舌の上にレーズンを乗せたままレーズンのザラザラとした表面を確かめ、表面の味をあじわいます。
そうして、舌の上で感触を確かめたら、ゆっくりレーズンを一回噛みましょう。
それから2回3回とレーズンを噛みしめていくのですが、この時になってようやく口の中でレーズンの中からレーズンの味が湧き出てくることを感じることができます。
このようなレーズンの食べ方をすると、一粒のレーズンを食べ終えるのに数分かかってしまうことでしょう。
しかし、レーズンから感じるひとつひとつの感覚をすべて逃さないように意識を目と鼻と口に集中させることが大事です。
こうしたトレーニングを積み重ねることで、無意識のうちに意識を自分の中に向けることができ、身体感覚に集中できる心が養われていくのです。
何かにとらわれ、移ろいやすい心を思考・感情にとらわれるのではなく、事実という今この瞬間の「あるがまま」を受け入れる強い心を作ることができるようになるのです。
忙しくて時間がない方は、短時間でもできるグーグル社員が行うマインドフルネスはいかが?
とはいっても、忙しいあなたにとって、レーズンをゆっくり食べてみたり、時間を取って瞑想や座禅、ヨガに取り組んだりする時間が取れないかもしれません。
そんな忙しいあなたのためにグーグル社内でマインドフルネスを広めたビル・ドウェイン氏が推奨する日常生活の中でも気軽に取り組めるマインドフルネスエクササイズをご紹介します。
グーグルの社員が実際に行っているマインドフルネスのエクササイズでもあり、5分〜10分程度の時間があれば取り組めるエクササイズなので、是非、時間がないあなたは、コレを実践してみてください。
一つ目のエクササイズは、イスに座って行うエクササイズです。
このエクササイズは、「身体に気づくエクササイズ」、「呼吸に気づくエクササイズ」、「思いやりの心を育むエクササイズ」と3つのパートに分かれています。
では、まず、身体に気づくエクササイズから、
イスを使ったエクササイズ
1.リラックスした状態でイスに座ります。
そして、旗を頭の中に思い浮かべます。
自分の背骨が旗の支柱で、身体全体が旗になったイメージです。
2.次に自分の意識を旗である身体に向けます。
そうすることでイスの上にある自分の身体の重さに気づくことができるでしょう。
3.そっと目を閉じます。
4.この時、頭の中にはいろいろな考えや感情が浮かんできます。
身体に向けたはずの意識が身体以外のことにとらわれている状態ですね。
意識を向けたはずの身体から意識が離れていることに気づいたら、もう一度、意識を物理的な感覚がある意識をイスの上にいる自分の身体にそっと戻していきましょう。
5.イスに座っている間にも、いろいろな感覚が起きてきますが、たとえ、痛みや不快な感覚が襲ってきても、その感覚に興味を持ち、どんな感覚なのかをじっくり観察しましょう。
ここまでが、身体に気づくエクササイズです。次に、呼吸に気づくエクササイズ。
6.次に呼吸に意識を向けます。
鼻でも喉でも胸でもお腹でもどこでもいいので、自分の呼吸を感じやすい場所を見つけ、そこに意識を集中させていきます。
7.そして、しばらくの間、呼吸だけに意識を向け、呼吸を観察しましょう。
8.さきほどの身体に意識を向けた時のように意識が呼吸から離れていき、いろいろな考えが頭の中をさまよいますが、もう一度、優しく呼吸に意識を戻します。
ここまでが、身体と呼吸に気づくエクササイズ。
これが終わったら、思いやりの心を育むエクササイズに取り組んでいきます。
1.まず今日、あなたが出会って、会話した人の中で、一人お気に入りの人を心の中に思い浮かべましょう。
もし、今日、会った人がいなければ、昨日でも一昨日でもOK。
2.その人を思い浮かべたら、
「この人は、心と身体を持っている。私と同じです。
この人には、気持ちや感情、考えがあります。私と同じです。
この人は、悲しんだり、がっかりしたり、怒ったり、混乱したりすることがあります。私と同じです。
この人は、人生において肉体的、心理的な苦しみを経験しています。わたしと同じです。
この人は、人生において喜び、幸せ、愛を経験しています。わたしと同じです。この人は、幸せになりたいと思っています。わたしと同じです。
この人が幸せでありますように。」
と心の中で唱えましょう。
3.そして、最後にそっと目を開けます。
このエクササイズだと短時間で取り組むことが出来ますが、それでも「時間がなくて取り組めない!」という人に、もっと簡単なエクササイズをご紹介しておきます。
もっと忙しいあなたへ
1.一枚「一時停止」のマークが描かれたシールを用意します。
2.そのシールをスマホやパソコンといった自分の目にとまり、日常的によく使うモノに貼ります。
3.そして、エレベーター待ちや信号待ち、コンビニのレジで並んでいる時といった待ち時間に一時停止マークを見て、マインドフルに呼吸をします。
4.スマホをチェックしたくなったときにも、その代わりにマインドフルな呼吸をしましょう。
そして、スマホを見る代わりに優しい気持ちで周囲を見渡します。
5.コンビニで財布をすぐに出せなくて苦労している人がいれば、優しい気持ちで微笑みましょう。
まとめ
アメリカのタイム誌が「マインドフルネスによる革命」と大きく取り上げた2014年以降、グローバル企業がこぞって社内研修に取り入れたことで、注目されるマインドフルネス。
もともとは認知療法といってうつ病などの治療を行うために生まれたものでした。
しかし、治療を行う中で、
・集中力が増える
・ストレスや不安が軽減する
・創造性が増える
といった効果が見られてため、自分のパフォーマンスを上げたい人たちから注目されているのです。
マインドフルネスとは決して瞑想やヨガ、座禅といった形式的・宗教的なものを指すことではなく、目指すところは、「今、この瞬間に意識を集中すること」。
今という瞬間に集中することで、ネガティブな感情が湧いてきても、事実のみに意識することができ、集中力を奪うモノに捉われることなく自分がやるべきことフォーカスできるようになるのです。
自分がやるべきことにフォーカスできるようになると、仕事の効率は上がりますし、パフォーマンスもおのずと上がりますよね。
しかし、マインドフルネスは瞑想などを行ったからといって、急にそういう状態になるわけでもありません。
あくまで自分の感情をコントロールする「心の筋トレ」のようなもの。
筋肉もジムで一日鍛えただけでは筋肉がつくわけではないように、心を鍛えるトレーニングも継続的に行うことが必要です。
レーズンを使ったエクササイズを紹介しましたが、時間がない方には、グーグルでも実践されているマインドフルネストレーニングのエクササイズが短時間でも取り組めますので、
「集中力が続かない」
「仕事の効率を上げてパフォーマンスを上げたい」
と考えているなら、一日5分でもいいので、マインドフルネスを実践して、心の筋トレをはじめてみてはいかがでしょうか?